次なる英雄は

 あれから、十年が経った。

 ダンジョンから帰還後、僕たちのことは大きなニュースとして取り上げられた。


 それも当然のこと。人類の初のダンジョン攻略者の誕生だ。話題にならないわけがなかった。


 ダンジョンでの出来事を詳しく聞かせてほしいとテレビ番組や新聞社なんかからのオファーはもちろん、体験談を自伝として本にしてみないか、というお誘いもあった。もちろん、断る必要もないので了承した。おかげさまで夢の印税生活だ。


 それ以外にも、ダンジョン攻略の報酬として得た光の宝玉も売却して莫大な資金を得ていた。


 その金は、兼ねてより目標としていた冬華の元の家を買い戻すのに使った。とはいえ、手元の金は10ケタを超える。その程度で使い切れるものでもなく、五年が経過した今でも使い切れるとは到底思えないほどに残っていた。


 僕の貧乏性が抜けきらないのもあってか、一生あっても使い切ることはない気がする。


 そんな理由もあって、僕たちはダンジョン攻略を進めるためにダンジョンに足を踏み入れることはなくなってしまった。

 もともと、冬華はお金が目的でダンジョンに挑んでいたし、僕も大した理由もなく、好奇心に釣られるがままダンジョンを攻略していたに過ぎない。


 しかし、僕たちには実績がある。人類初のダンジョン攻略者。

 さらに、十年が経った今でさえ、僕たちに次ぐ攻略者は出ていない。それだけ、僕たちの成したことは大きなものだったのだ。自然と、世間は僕たちに更なる偉業を求める。


 国からも、ダンジョンの攻略を再開してくれないか、そうでなくとも、協力を要請したいと言われた。


 そこで、僕たちは探索者を育成するために創設された国営学校にて、臨時教師として働くことを決めた。


 八年前から始めた教師としての仕事は案外肌に合っていたらしく、今でも続いている。




 ああ、そういえば、僕と冬華は今から九年前に結婚した。お金にも困ってはいなかったため、結婚式はお互いの親族と知り合いを招待して盛大に行われた。


 その時には、源や当時受付嬢として世話になっていた立花さん、智也を含めた紅蓮隊の人たち。その他、探索者関係の人間も招待した。

 そして、結婚もすれば色々とヤることもヤるもので。自然と、僕たちの間には子供が産まれていた。これは、六年前だったかな。元気な男の子が誕生した。


 もうすぐ小学校に通う年齢となる訳だが、男の子なだけあって好奇心旺盛で落ち着きがない。さらに、誰に似たのか、いつも、ダンジョンに行きたいと駄々をこねる子供になってしまった。

 なんとかならないものか。そうは思うものの、かつて自分がそうであったように、息子の気持ちも分かってしまう。


 多分、あの子も大きくなったら僕と同じように探索者になろうとするのだろうな、と直感していた。

 そして、それを反対する気もない。僕たちは……特に冬華はダンジョンで一度命を落とした。ダンジョンの危険性は重々承知しているし、学校でもそのことは度々口に出して注意を促している。


 毎日のように、テレビにてダンジョンでの死亡が報じられているが、探索者の志望者は減らない。それは、ダンジョンというものに夢を見る人間がいるからだ。

 今までの自分を変えたい。一攫千金で億万長者になりたい。力が欲しい。理由は様々だ。


 死ぬかも知れない、と分かっていても……それでもやりたいというのならば、止めるのは野暮というものだ。

 それが例え、実の息子であっても。


 ただ、死なないための……生き残るために必要な力を得るための手助けはするつもりだ。それは、息子であるとか関係なく、教え子たちも同様に。

 ダンジョンで簡単に死んでしまわないように。


 目の届く範囲であればまだしも、ダンジョンの中となれば、自分たちが助けてやることも出来ないのだから。






 もう、僕たちがダンジョンで命をかけるような死闘を演じることはないだろう。それは全て、次の世代に託すことにした。

 教え子たちの中には、各地で活躍し、勇名を響かせるものたちも多い。息子もまた、その中の一人になれるように、と。


 僕たちの子供は、ダンジョン初攻略者の息子という重圧を背負うことになるだろう。しかし、どうかその重圧に負けないで欲しい。

 息子だからと色眼鏡で見てくるような輩だって出てくるかも知れない。それでも、一番にならなくたっていい。生きてさえくれれば。




 そんな僕の願いに反して、息子は才気あふれる少年に育った。世界を救う、英雄の器へと。



 彼は、言った。


「父さん。俺、探索者になるよ」


 それは、僕とは別の、彼だけの――英雄の物語。

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魔魂の簒奪者〜突然ダンジョンが現れたけど殺して奪って世界最強〜 水澤 陽 @Mizusawa-You

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