超レベルアップ
激闘の末に獣王・レーニコルを討ち取り、数秒。
ゴゴゴッという音の後に、入口とは反対に小さな扉ができた。
それは非常に好奇心のそそられるものだが……今の僕にはその先を確かめよう、なんて思えるだけの体力は残っていなかった。
限界まで張り詰めていた緊張感が一気に弛緩し、体は地面に倒れる。
それとともに急激な眠気に襲われた。
そして、僕は気がつけば、地面に伏せったまま夢の世界へと飛び立っていたのだった。
◆
「ここは……?」
目が覚めた。
ぼやける視界が徐々に鮮明さを増していくうちに、さっきまでの記憶が蘇る。
アッと声を上げて飛び起きる。
寝ていたのはどれくらいだろう?
そう思う間も無く、僕の目に飛び込んできたのは二人の男女。
冬華と小泉だった。
「や、やっと起きました……」
瞳をうるわせながら、冬華言った。
「ぼ、僕はどれくらい寝て……?」
「そう大した時間じゃない。俺たちは派手な戦闘音がしなくなってからこの部屋に入ってきたが、それからまだ四時間程度だ。疲れているならもう少し寝ていろ」
小泉はぶっきらぼうな言い方だったが、その中にも僕を労るような雰囲気を感じられた。
「いや、それは大丈夫。もう体の疲れはないし傷も治っている」
“再生”のお陰だろう、僕の体には大した疲労も残っていない。
今からでも全力で動ける程度には回復していた。
「それならいい。早速だが、あれを見ろ」
そう言って小泉が指さしたのは獣王・レーニコルを討伐した際に開いた扉。
「あの先に小部屋がある」
「ふむ、それで?」
「……察しが悪いな。魔物部屋を制圧すると宝箱のある部屋への扉が出現するというのは分かっているだろう」
「ああ、そう言えばそうだった」
魔物部屋自体は初見だったが、その話は探索者の間では有名なことだった。
いつだったか、北海道のダンジョン十一階層で魔物部屋が確認されたというので一時期話題になっていたな。
なんでも、魔物部屋攻略のご褒美的な物で、貰える物は希少なアイテムが多いとのこと。
それが本当の話だったとしたら、期待が膨らむ。
「って、俺が起きるまで四時間くらいあったんだろ? 先に確認とかはしなかったのか?」
「……仮にも、お前の力でここを突破したんだろ。そんな功労者を一人放って何もしていない俺たちが美味しいとこだけ持ってくわけにもいかないだろ」
フン、と小泉は僅かに顔を逸らした。
僕はというと、そんな小泉に意外さ感じていた。
この一日で何度思ったことか。
本当にこいつ、人格変わりすぎじゃね? と。
前までのあの傲慢さはなんだったのか。
合成獣に追いかけ回されて彼の中で何かが変わったのかもしれない。
そうなら、僕としても冬華としても好都合。
僕は少し上機嫌になりながらいつもより軽く感じる体を起こす。
「うおっ!」
立ち上がろうとしたときに、軽すぎる体が一瞬宙に浮いた。
予想外のことに思わず僕の口から驚愕の声が漏れ出てしまった。
「もしかして、レベルアップの影響か?」
あれだけの合成獣を殺して、しかも、あの獣王とかいうヤベー名前の魔物まで殺したのだからそれだけステータスが向上していてもおかしくはない。
体感では、強化薬を服用した時よりもさらに強い力が体内で循環しているように感じる。僕は宝箱そっちのけでひとまず【鑑定板】を出現させた。
――ステータス
名前:柊木 奏
年齢:18
Lv.482
《スキル》
【鑑定板】
【魔魂簒奪】Lv.15
【隠術】Lv.4
【】
【】
【】
SP:920
――
そして、あまりのレベル上昇幅に目を見開いた。
強化薬を使った時の僕のレベルは恐らく400と少し。
今の僕は獣王レーニコルのレベルより80近いレベル差がある。
いや、強化薬を使ったときでも獣王よりも僅かにレベルは上回っていたが、これだけ差があれば、さっきよりもだいぶ楽に討伐できることだろう。
まあ、それはいい。
レベルはどれだけあっても困らない。
というか、どれだけあっても不安は拭えない。
問題はSPだな。
920ポイントもあっても正直持て余す。
【魔魂簒奪】も【隠術】も便利でものすごいスキルだが、これらはレベルをあげても直接的な攻撃力にはあまり関係しない。
【魔魂簒奪】のレベルをあげても、向上する機能は魔物から奪い取る能力の枠のようなものが主であり、能力の上昇自体はそこまでの伸び幅はない。
“黒鬼化”や“鎖縛”なんかは関係がありそうなものだが、それはスキルでなく、自身のレベル上昇に伴い効果を上げていく物であるというのが分かっている。
そして、“隠術”だが、これはそこまでレベルをあげなくてもいいのではないかと思っている。
レベルが1の状態でも、九十階層で通用したレベルだ。
これのレベルが4にまで達したなら、わざわざレベルをあげなくてもいいのではないか?と思ってしまう。
それに、僕自身もレベルアップを経て強くなった。
前みたいにちょこちょこ隠れる必要もそうないだろう。
と、ここまで考えたところで小泉に肩を突かれた。
「おい、早く行くぞ。ステータスの確認は後でやれ。その情報は俺たちとも共有してもらう必要があるんだからな」
僕がしばらく待たせたせいか、さっきよりも少し言葉にとげがある気がする。
「そ、そう……だよな。すまん」
「……いくぞ」
ちょっぴり気まずい雰囲気になりながらも、彼の声を合図にして、僕と小泉、そして冬華は小部屋の扉を開いた。
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