現在

 九十階層ボス戦は、思ったよりもアッサリと終わりを告げ、次に僕らが訪れたのは九十一階層。


 しかし、獣王戦で得た経験値は莫大なものだったらしく、元のレベルでもそう苦労もなくするすると進んだ。


 この階層に住み着いていたのはアリと人間が混ざったような妙な姿をした魔物――ミュルミドンというらしい――だった。

 顔は完全にアリ。

 でも、二足歩行で立っているし、腕も二本。

 しかし、見てわかるほどに胴体はアリだ。


 簡単に言うなら、アリを人間の容姿に近づけて、大きくしたようなものだろうか。

 ハッキリ言ってなかなかに気持ちが悪かった。


 だが、一体づつはそう強いわけでもなく、僕のアシスト有りなら、冬華でも倒せたくらいだ。

 流石に小泉は厳しかったが、暫くはここで冬華と小泉のレベル底上げを図った。


 しかし、二人のレベルが百を超えたあたりでレベルの上昇スピードが減衰してきた。

 ここら辺が潮時かな? と察した僕らはもっと効率の良い狩場を求めて攻略を進めた。


 そして、いつのまにか九十一階層も攻略。

 ボスはミュルミドンの英雄・ヒュルトン。


 僕と同様に槍を使う魔物で、その技量は正直僕を上回っていた。

 もし、レベル差がなければ負けていたのは僕だっただろう。


 しかし、このレベル差というのは非情だ。

 僕は力のゴリ押しであっさり勝ってしまった。


 これでは武術への冒涜ではないか。

 僕は一瞬そう思った。思ったが、命には変えられない。

 やれることはなんでもやらないと。



 僕らは一日の休息を経て、九十二階層へと足を踏み入れた。

 そこに住み着いていたのは、禍々しいオーラを身に纏った騎士たちだった。


 というか、リビングアーマーってやつ。

 中に人がいるわけでもないのに勝手に動く呪いの鎧。


 そしてこいつら、中身がないくせにやたらと武器の扱いが上手かった。

 お陰で勉強にはなったが、冬華たちの強制レベリングにはあまり向いていなかった。


 とはいえ、二人ともレベルは百五十を超えた。

 まだこの階層の適正レベルとはいえないが、まるでお荷物……というわけでもなくなった。


 逃げながらの攻撃、くらいはできるようになったのもあって、僕も大分戦いやすくなったような気がする。

 ま、僕はまだまだレベル貯金があるから若干余裕があるのだが。


 そんなこんなでレベルを上げつつ攻略をすすめ、ボス部屋を見つけたのはこの階層へと辿り着いてから四日後のこと。


 ボスの名前はデュラハン。

 首なしの騎士だ。


 彼の放つ暗黒のオーラは強烈で、その威圧感は獣王とタメを張るほどだった。


 僕は冬華たちに一定の距離離れているように指示してデュラハンと撃ち合った。

 外野から、魔術による支援を受けながら、僕はデュラハンに勝利。


 結果だけを語るなら完勝だ。

 僕は傷の一つもつかなかった。

 といっても、楽勝だったわけじゃない。


 危ない場面はいくつもあったし、冬華たちの援護がなければ致命的な傷を負っていた可能性も高い。

 だが、勝ったものは勝ったのだ、と、手に汗を握りながら次なる階層――九十三層へとむかった。


 ここでは幻想的なけものがたの魔物とよく遭遇した。

 この階層の魔物は凶暴性を孕んだ個体が少なく、戦闘力も高くない、その上経験値も高いというボーナスステージだった。


 そんなこともあって僕たちは際限なく魔物たちを狩まくり、僕のレベルは五百半ば程まで上昇。

 冬華たちも、二百後半。大きな進歩だ。


 しかし、乱獲し過ぎたのが悪かったのか、【ダンジョンマップ】にも載っていないイレギュラーな魔物が出現。


 三人とも焦りながらも堅実にダメージを蓄積させ、冬華の魔法でトドメを刺した。


 その調子のまま、九十三層ボスも討伐。

 こちらはそれほど苦労はしなかった。


 九十四階層は象や犀、牛型の魔物が多かった。

 どれもスピードはそこまでないものの、パワーはとてつもなかった。


 僕でさえ、一撃でも貰えば致命傷レベル。


 自然と慎重な体捌きを要求されたが、次第に慣れていった。

 一度なれてしまえばそう難敵というわけでもなく、むしろ攻略は簡単だった。


 暫く彼らを僕たちの経験値として利用し、望んだボス戦。


 ボスの名前はベビモス。

 象型の大きな魔物。


 やはり、例に漏れずこいつも力が凄かった。

 が、注意して回避すればどうということはなく、ベヒモスは十分もしないうちに討ち取った。


 そんで、次は九十五層。

 ここから、急にダンジョンのレベルが上がった。


 五百以上のレベルがあった僕でも、厳しい戦いが何度もあった。

 対する魔物は竜。

 亜竜たちだった。


 竜の名を関するだけあって、その威容は凄まじく、一瞬気圧されそうになったことも。


 だが、僕はだからどうした、と睨み返して威圧してやった。


 レベル差によるゴリ押しはできなくなったものの、しかし、今までに僕の培ってきた技術を総動員して亜竜たちを蹴散らし、ボスの竜も同様に殺してやった。


 ま、ボスも亜竜ではあったのだが。

 ぶっちゃけそこまで苦労はしなかった。

 対応策が練れたからな。



 そんなこんなで、現在は九十六階。


 ダンジョン攻略まで――あと五階層。

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