モンスタートラップ

 その魔物の数は軽く二十は超えるだろう。


 しかし、幸いにも……というべきなのか、僕の見る限りでは一体ずつの強さはそうでもない。


 ゴブリン、コボルト、オーク、リザードマン、などなど。

 ところどころで上位種の存在が見られるが、それを加味したとしても、今の僕たちにとっては厄介な敵というまでもない程度。


 とはいえ、やる事は変わらない。

 僕たちは各々が構えた武器をそのままに動き出す。


 突然現れた魔物たちはというと、統率が取れずに慌ただしい様子。

 これは予想外の展開だったが、僕らにとっては好都合だ。


 “黒鬼化”した身体が、疾風となって魔物の群れへと突入する。

 手には槍、後方にはアオと共に【氷魔術】を待機させた冬華。


 準備は万端で、負ける要素は一つたりともありはしない。


 漲る自信を胸に抱き、僕は槍を振るった。

 最前列にいたのは五匹のゴブリン。


 当然ながら、ゴブリン程度の実力では僕の槍を防ぐ事はできず、バッサリと切り捨てられる。


 続いて、冬華の“氷轢弾”が殺到。


 ゴブリンのすぐ後ろにいたコボルトたちに命中。

 体のいたるところを氷の弾丸が貫き、すぐに絶命へと導かれる。



 そこでようやく魔物たちは自分たちの置かれている状況を正しく把握し始める。

 僕たち人間という敵を認識したのだ。


 まあ、だからどうしたって話なのだが。


 敵意をむき出しにして僕たちへと向かい来るオークにリザードマン。

 だがしかし、いかんせん実力が足りない。


 彼らは僕の槍によって刺殺。

 もしくは冬華の【氷魔術】によって殺され、抵抗の一つも許されずに散っていく。


 それから約十分もしないうちに、大きい一本道が埋まるほどいたはずの魔物たちは一匹残らず魔石へと姿を変えた。



「……あまり、手応えはありませんでしたね」

「数だけはあったけど、それだけって感じだったね」


 物足りない。

 そういう雰囲気がありありと浮かんでいる表情だった。



 ◆


 それからというもの、事前に仕入れていた情報を駆使して罠を避けつつダンジョンを進んでいったが、想像していたよりもいやらしいトラップが多い。

 それに、事前情報にないトラップの存在も確認できた。


 まあ、先にここを踏破した自衛隊員たちも人間だ。

 チェックしきれなかった罠もあって当然。


 これについては帰還後にギルドに報告しておくとしよう。

 僕たちの後にここを訪れた探索者がすこしでも安全に攻略できるように。


 これは一見僕たちにはメリットのないように思えるが、実はそうでもない。

 こういった小さなことでも、やっておくとギルドからの信頼度が上がるし、それが有益な情報であれば、その分の情報料をもらえることもある。


 自衛隊の見落とした罠についての情報となれば、多少なりともお金になる事はまず間違い無いだろう。


 僕は内心ほくそ笑み、そしてチラと覗いた時計が午後七時を指しているのに気がついた。


「ああ、だいぶ時間が経ってたみたいだ……今日はもうこれくらいで引き上げようか」


 僕は腕時計から冬華へと視線を移した。


「そうですね。多分もうお母さんも家に帰ってくる頃でしょうし、ドロップの換金とかも考えるとそろそろいい時間かもしれません」


 と、いうことで。

 僕はその場に“転移門ワープゲート”を作り出す。


 先の見えない黒の扉。

 その先にはダンジョンの第一階層が続いている。

 これをくぐればすぐにでも帰還完了だ。


 僕は微塵の躊躇もなく門を通り、そして冬華もそれに続く。


 別に今日はこれ以上ダンジョンでやることもないので、すぐさまギルドへと向かうことに。

 少しばかり鎧に汚れが目立つが、探索者が多く行き交うダンジョン周辺やギルドではこの程度、大して注目されることもない。


 僕らは足並みそろえてもう見慣れたギルド会館へと足を運び、立花さんのいる、いつものカウンターへ向かった。


 土日には休みが入っているらしいが、平日はほぼ毎日出勤していると聞いていたのだが、やはりいつもの場所に彼女はいた。


 そして、僕たちが近づくにつれて、やっと来たとばかりに顔を綻ばせる。


「今日は結構遅かったですね」

「ええ、まあ。十九階のフロアボスを倒したので、今日は二十階層の少し先まで進んでみたんです」

「お、もうそろそろかな? とは思っていましたけど、なかなか早かったですね」


 僕が二十階層の情報を彼女から買った時にはまだ十九階層の攻略を始めたばかりの頃だった。

 が、やはり僕たちの攻略ペースは普通よりも早いらしい。


 少なくとも、立花さんの視点からしたらだが、立花さんはギルドの受付嬢だ。

 となれば、僕たち以外にも請け負っている探索者はいるはず、それらと比べているのだから、その情報に間違いはないだろうさ。


「それで、二十階層までいったなら、当然フロアボスは倒したんですよね……なら、今日の報酬はいつもより多いんじゃないですか?」


 彼女は早く物を出せ! と僕たちを急かす。


 彼女たち受付嬢は、担当している探索者が利益を上げれば、その分だけ給料が入る仕組みらしいし、そうなる気持ちも分からないでもない。

 まあ、現金だなと思わないでもないが。

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