打ち上げ
「かんぱーい!」
僕と白月さん、そして源はジュースが注がれたコップを掲げる。
七階層フロアボスの討伐から三日が経った今日、源の妹さんも意識が回復し、事態が落ち着いてきたということもあって本日を打ち上げに使うことになった。
「良かったね、源」
「ああ、二人とも本当にありがとう」
実を言うと、源の妹さんは三日前の時点で結構マズイ状況であったらしい。
あと二日から三日ポーションの服用が遅れていたら命を失っていたかもしれない。そのくらい危険な状態だったのだとか。
道理で源があれだけ焦っていたわけだ。
僕は一人納得していた。
「取り敢えず何か食べます?」
白月さんがメニュー表を片手に問いかける。
因みにだが、この店は焼肉のお店だ。
しかも、ちょっといいところ。
「じゃあ、取り敢えず野菜と何かお肉頼もうか」
「あ、私、ハラミ食べたいです」
「俺はカルビ」
各々が好き勝手に注文していく。
因みに僕は、焼肉なら最初は玉ねぎを食べると決めている。
あのシャリっとした食感と口に広がる仄かな甘みが良いんだ。
店員さんを呼んでしばらく。
五分程度で注文した品々は届いた。
玉ねぎも、もちろん届いた。
僕は熱々の七輪に玉ねぎを含めた野菜を乗せていく。
そして、ここは自分の領地だ、とでも言わんばかりに白月さんと源は肉を焼き、ジュウジュウと香ばしい匂いをさせながら真っ赤な肉に火が通る。
やはり、というべきか、野菜が十分焼けるよりも早く肉の方が焼け終える。
鼻孔をくすぐる肉の匂いが食欲をかき立て……
「いただきます!」
白月さんがハラミにタレをつけ、白米にバウンド。
余分なタレを取ると油滴る肉の塊を口に運ぶ。
カプっという擬音でもつきそうな食べっぷりだった。
実に美味しそうに目を細め、目尻が下がる。サラリとした長い黒髪をかき上げて、ほぅっと吐いた息が艶かしく映った。
それとは反対に、源の食べっぷりは豪快の一言につきる。
カルビにタップリとタレをつけ、そのままガブリ。
肉の脂で唇がテカテカと光沢を帯びる。
なんとしてでも妹を助けなければ、という使命感から解放された反動だろうか、数日前までは鬼気迫る顔を貼り付けていた人間とは思えないほどに晴れ晴れとした表情だ。
自然、僕の顔にも笑みが宿る。
二人が二巡目の肉を焼き終えたところでようやっと僕の野菜たちにも十分火が通ってきた。
「よし」
軽く焦げ目のついた玉ねぎを箸で器用にはさみ取り、特製ダレにダイブさせる。
琥珀色の甘ダレが浮かせた玉ねぎから滴り落ちてピチョンと音を立てた。
それをご飯の上に乗せ、箸で一口大に切り取って口に運ぶ。
適度な甘味が口内で踊る。
シャリっとした食感がやはり心地いい。
「うっま……」
無意識に声が出た。
さ、さて、次だ!
僕も次は肉を食べたい!
隣で聞こえる肉を焼く音が余計僕の食欲を湧き立たせる。
「すみません、鶏モモとレバー、あとソーセージください!」
怒涛の追加注文だ。
これに乗じて源と白月さんも肉を追加。
しかし、量が量だけに届くまで時間がかかってしまうだろう。
それにしても――
「なあ源、本当にいいのか? その……奢って貰っちゃって」
そう、今日のこの焼肉代なのだが、源の奢りだと言うのだ。
何もこれは僕たちが何かしたわけではなく、源から持ちかけられた話である。
「いいんだよ。俺は二人に色々迷惑かけたしさ……それにほら、ポーションを譲って貰ったのもあるけど、スキルカードの件も……あるだろ? 寧ろこの程度じゃ、俺が受けた恩は返しきれていないんだし、今日は素直に奢られてくれよ」
肉をつつく箸を置き、どこか申し訳なさそうにうつむきながら、源は自嘲気味に笑った。
「うーん……まあ、そう言うことなら」
「ご馳走になります!」
白月さんはそこそこ値の張る焼肉を他人の金で食えるということも相まって若干ハイテンション気味である。
まあ、源もいいと言っていることだし、ここは素直に甘えるとしよう。
正直言えば、僕としても普通に嬉しいしね。
結果、本日の焼肉代は三人で一万円近くまで上った。
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