ネットオークション
体の内を滾るような熱が巡る。
たしか、前にレベルアップした時が九だったはず。となれば、今回でレベルが十の大台に乗ったということか。
僕は再び【鑑定板】を取り出して自分を写し出す。
――ステータス
名前:柊木 奏
年齢:18
Lv.10
《スキル》
【鑑定板】
【魔魂簒奪】Lv.2
【】
【】
【】
【】
SP:16
――
SPというのはスキルのレベルを上げるためのものであるのだが、そういえば【魔魂簒奪】のレベルを一つ上げた時以来、全く弄っていなかったな。
今後手に入れるスキル分のポイントも残しておく必要もあるが、【魔魂簒奪】はどうせ使うことになるスキルだ。
今のうちに一つくらいレベルを上げておいてもいいかも知れない。
僕はスマホのような形をした【鑑定板】をいじり、【魔魂簒奪】のレベルを一つだけ上昇させる。
要したポイントは四。
残りポイント数は十六から四を引いた十二。
まだ余裕はある。
けどまあ、使うのはここまで。残りはもしもの為に残しておこう。
「柊木さん」
コボルトからのドロップを回収した白月さんが駆け寄ってくる。
その顔にはわかりやすいほどの喜色が浮かんでいた。
「どうしたの?」
「これ、見てください」
そう言って彼女は手に持ったドロップ品を手渡す。
「これは……」
――スキルカード。
バッ、と僕は慌てて手で口を塞いだ。
誤ってスキルカードを取り込んでしまわないように。
そして、もう一度。
今度はゆっくり覗き込む。
相変わらず、カードに書かれた文字には見慣れない。しかし、何故かその意味だけはハッキリと分かるのだ。
【加工】。
それが、今回手に入れたスキルカード。
正直言って使えない。
クズスキルといっても過言ではないほどだろう。
実際、先ほどのコボルトを見て分かる通り、このスキルを使って作れる物なんてあの棍棒レベルなもので、腕のいい職人には普通に劣る。
けれど、白月さんが喜んでいるのは売ればお金になるからだ。
僕らにとってはゴミスキルであっても、それ以外の人の中にはこんなスキルでも欲しい、という者だっているのだから。
ギルドで売却した場合であれば、良くて五、六万円。
しかし、これがネットオークションにでもかければ十万越えだって期待出来る。
ただでさえスキルカードの供給量は少ないのだ、探索者としては使えないスキルでも、スキルを持っているという箔をつける為に参加した富豪が落札してくれればもしかしたら大金になるかも知れない。
僕らは妄想を膨らませ、頬を緩ませる。
これだけでもなかなかの収穫ではあるが、本日の探索は始まったばかり。
スキルカードをバッグにしまい込み、僕らは歩みを進める。
◆
案の定、スキルカードは良い値で売れた。
先日、ダンジョンから帰ってからネットオークションに出品。
開催期間は三日に設定して入札者を募ったところ、百人余りが参加した。
そして、ついさっき。
入札額は十五万円で落札が決定した。
予想していたよりも高値での落札。
僕はもちろんのこと、白月さんも歓喜した。
とはいえ、目標額を考えれるとこの程度で喜んではいられない。
億単位での金が必要になるのだから。
「あの……」
僕はオークションで手に入ったお金のほとんどを白月さんに渡した。
彼女は困惑した声を僕へと向ける。
「お金、必要なんでしょ? 僕は今のところお金には困っていないし、それどころか余裕があるくらいだしね。だから、受け取ってよ」
白月さんはあまりにも手持ちのお金が少なすぎる。
目的のため、貯めなければいけないというのは分かっているが、いくらなんでも少なすぎる。
せめて、まともな食事くらいはしてもらいたい。
「だから、無茶だけはしないでね」
これは水穂さんも言っていたことだ。
余計な無茶をして、怪我を負い、探索者を続けられなくなれば本末転倒。
それ以上お金を稼ぐことはできなくなることだろう。
「で、でも、こんな大金、私だけが貰うだなんて出来ません」
これは、タダほど怖いことはないってことかな……だったら、そうだな――
「じゃあ、こうしよう。白月さんの目的を果たすまでは僕が貰うお金は必要最低限でいい。その代わり、僕が欲しいと思った魔石を譲って欲しいんだ」
魔石は現時点ではエネルギー源として以外の使い道はない。
そのため、魔道具などレアなアイテム群と比べると買取価格としてはそこまで高いわけではない。
そのため、これは彼女にとっても悪い話ではない。
まあ、例外もあるのだけど。
「魔石、ですか。でも、なんで……」
「スキルだよ。前にも話したと思うけど、僕のスキル【魔魂簒奪】は魔物の魔石を体に取り込むことで力を得る。だから、魔石がどうしても必要になるんだ」
僕がそう説明すると、ああそういえば、と言葉を漏らした。
「たしかに、それなら魔石は必要ですよね」
白月さんはしばらく悩むように瞑目し、やがて瞼を上げた。
「分かりました。では、その契約で手を打ちましょう。私はお金を、柊木さんは魔石を、お互いに譲り合う」
「交渉成立、だね」
僕らは互いの顔を見やって静かに笑った。
交渉といいつつ、条件はガバガバで、強制力もない口約束。
だけど、それを破られる気もしなければ破る気もない。
この前までは良くて知人。
そんな関係だったのに、いつのまにかここまで信頼できる仲間になっていたのだから。
――人生とは分からないものだ。
僕は小さく呟いた。
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