ダンジョン探索

熊野さんのお陰で各々最低限の自己紹介を終えて、ダンジョンに入ることになったのだが……


「この中から自分の使う武器を選んでもらいます。自分の身を守る物ですので慎重に選んでくださいね」


 示された先には乱雑に置かれた武具の数々。

 剣から始まり槍に斧、槌、弓。マイナーなものだとモーニングスターやトンファーなんてものまであった。


「結構原始的なのが多いんですね」


 置かれている数々の武具たちの中には現代兵器と呼ばれるもの――所謂拳銃やら銃火器なんかはなく、近接戦闘に重きを置いているように思えた。


「それには理由があるんですよ。まあ、もちろん銃を扱う訓練も受けていない素人に銃を持たせるのは無理があるっていうのもあるんですけど、単純にダンジョンに生息する魔物には魔力が篭った物以外での攻撃が通らないっていうのがあるんですよね」


 熊野さんの説明に僕たちは揃って首をかしげる。


「魔物っていう生き物はどうにも不思議なものでしてね、どんな理論なのかはいまだに分かっていないのですけれどダンジョンで手に入る武器防具、あとは魔物の素材から作る物以外ではダメージが通らないんですよ。そして、ダンジョンではまだ銃火器類の武器は発見されていません。ですので、自然と武器は近接用の物が多くなるわけです」


 説明もひと段落したところでふぅと一息ついてからまた熊野さんは口を開く。


「まあ、高レベル帯の人や特殊なスキルを持っている人はそうとも限らないらしいですけどね」


 更に説明を加える熊野さんだが、では、この一ヶ月死ぬ気で体を鍛えた僕の努力は無駄だったということだろうか。


 僕の不満が顔に出たからだろうか熊野さんは困ったように頭を掻きながら更に補足の補足を加えていく。彼自身も説明の難しさに戸惑っているみたいだが、それでもなんとか伝えようとしてくれる姿勢からは彼の良心が透けて見える。


「えっとですね。私たち人間は魔物を倒すとレベルっていうのが上がるわけです。そうすると個人差はありますけど、身体能力が全体的に上昇して、体内に魔力が篭るようになるんです。そうすると生身でも魔物にダメージを与えることが出来るようになるんです。ですから鍛えた技術は無駄にはなりませんよ。といってもまあ、生身での攻撃よりも高性能なダンジョン産の武器で攻撃した方が圧倒的に効率はいいんですけどね」


 なるほどこの説明なら僕でも理解も納得もできた。


 実際に僕も一度だけスライムを倒してレベルアップを体験した身だ。一つしかレベルは上がっていないから身体能力の上昇といっても誤差の範囲程度だろうが、たしかにレベルアップ前よりも体が動きやすくなっていたかもしれない。魔力が体内に篭るっていう感覚はよくわからないけど。


「私はこれにします」


 一人思考に耽っていると白月さんが一番乗りに弓とサブウェポンとして短剣を手に取った。聞いてみるとなんと小学校の頃から馬術と並行して弓術を習っていたらしい。友好的な態度とは言えなかったが、聞けば答えてくれるくらいの社交性はあるらしい。


 僕は視線を陳列された武具たちに戻す。剣を手に取り、戻し、斧を手に取り、戻し、そして槍を手に取る。


「やっぱり槍が一番しっくりくる」


 手にした槍は一.五メートル程度の短槍。周りに人がいる状況での扱いは難しいが一ヶ月間ずっと使い続けていただけあって他の武器とは違う、手に吸い付く感覚を覚える。防具のほうは特にこれがいいというものもないので熊野さんのアドバイスの元、軽い革鎧を選択した。それと同時に隣で武器選びに苦悩していた源が声をあげた。


「俺はこれに決めた」


 手に取ったのはハンマー。それも工具用の小さい奴じゃない。ホームセンターで売っている大型ハンマーよりも更に大きいまさに重量兵器といった様相の大槌。さぞかし重いだろうそれを源はガチガチに鍛え込まれた鉄のように硬い筋肉でもって持ち上げる。


「結構重いが、持てないほどじゃない」


 見た感じ細かな動きは出来そうにないけれど一撃が決まれば相当なダメージになることだろう。


「これでみんな装備は整いましたね。それじゃあ早速探索を開始しましょうか」


 熊野さんの号令と共に門が開く。

 ダンジョン内部に入るとすぐに僕たちは緊張からか体が硬直するのを感じた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。魔物はそうそう出てくるものじゃあないですし、いざとなったら私がいますから」


 物珍しい風景にキョロキョロと視線を右往左往させる僕たちとは真逆に慣れたように足を進める熊野さんが腰に下げた長剣をポンポンと叩いてイケメン発言。自衛官であるからにはそれなりにダンジョンには入っているはず。なら、必然的にレベルは上がるだろう。ではこの人はどれくらいの強さなのか……気になる。


【鑑定板】を使えばわかるのだろうけど、 今はまだスキルを持っていることは明かせない。とはいえ、直接聞くわけにもいかない。


「実際に戦うところを見るしかない、か」


 誰にともなく呟いた一言は虚空へと消える。


 特に変化もなく歩くこと数分。緊張もだいぶほぐれ、それどころか少し油断してしまっていたその時。


「止まってください」


 熊野さんから指令。

 僕を含めて三人、なんだなんだと訝しみながらも指示に従って足を止める。


「この先に一匹、魔物がいます」


 警戒のためかかろうじて聴き取れる程度の小声で補足。それと同時に僕たちの間に緊張が再来。武器を持つ手に力が入る。


「私は危険だと判断するまで手を出しません。貴方達三人であの魔物をどうにかして下さい」

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