戦利品③
二人が手に入れたスキルは【魔力倍化】と【従魔召喚】。
ちなみに、前者が冬華で後者が小泉だ。
二つのスキルはそのまんまの意味で、【魔力倍化】は自身の保有する魔力を倍化にするもので、【従魔召喚】は自身に仕える従順な魔物を召喚できるらしい。
どちらも強力なスキルだ。
特に、冬華が【魔力倍化】を取得できたのは嬉しい。
これがあれば魔力枯渇を起こすことはそうそうなくなるだろうし、戦闘中魔力の残量を心配して動きが鈍ることも少なくなる。
もしこのスキルを小泉が取っていれば無駄になっていただろうから、今回は幸いだった。
また、小泉の手に入れた【従魔召喚】に関しても有能なものだとわかっている。
まだレベルが低いのもあって、そうランクの高い魔物を召喚することは出来ないみたいだが、斥候や囮、身代わりなんかに使う分には十分だ。
二人には僕のスキルも共有し、三人揃って満足げな表情を浮かべた。
「――さて、次はこの装備たちをどうするか、だな……」
そう言って僕が指さしたのは二つ目の宝箱から出てきた武器防具の数々。
どれもこれも、九十階層の魔物部屋攻略の褒美にふさわしい逸品。
「この短杖とローブは冬華でいいんじゃないか?」
「……そうだな。俺も魔術は使えないし。ローブに関しては魅力的ではあるが、鎧のどっちかを貰えればそれでいい」
「って事で、はい」
僕は宝箱から短杖とローブをまとめて取り出して冬華へ手渡す。
「えっと……ありがとうございます」
受け取った冬華は一度、しげしげとそれを見定め、ローブを羽織った。
これで鍔の広い三角帽子でも被っていたら本当の魔女のようだ。
それがローブと同じように黒色であったなら、より魔女っぽさも引き立つだろうな。
さて、お次は。
「僕は槍が貰えればそれでいい。先に選んでくれ」
僕は自ら小泉へと選択権を譲った。
「は……いいのか、それで」
僕の言葉に、小泉は驚いたようだった。
今も困惑した様子を見せている。
「その槍って、【鑑定板】に書いてあることが本当なら、呪われてるかもしれないぞ。魔槍って書いてあるしよ……危険じゃないのか?」
「大袈裟だろ……たしかに、『かつて、この槍の主人は不幸な運命に呪われて自ら命を絶った』なんて書いてはいたけど、だからってこの槍を使っているから呪われて死ぬってのは飛躍しすぎるな気がするぞ。それに、僕としても剣よりも使い慣れた槍の方がしっくりくるし、見た感じ性能だって良さそうだ」
見た目も僕好みで格好いい、というのもある。
「まあ、お前がそれでいいなら……いいんだがな」
小泉はそう言って遠慮なく宝箱から装備へと手を伸ばす。
彼が手に取ったのは宝剣・フランタールとミスリルの鎧、それと、盾だ。
小泉に盾を使う、という印象はあまりなかったのだが、まあ、大方は想像通りではあった。
ということで、僕の防具は獣王・レーニコルのレザーアーマー……になったのだが。
なんの因果だろうか。
まさか、互いに命のぶつかり合いをしていた化け物の皮でできた装備を身につけることになるとは……ついさっきまでは思ってもいなかった。
だが、だからこそ、この装備が高性能だということはわかる。
皮は厚く、衝撃も通らず、斬撃にも耐性がある。
それが装備として加工されてここにある。
凄いことだ。
僕は感動を噛みしめながら、実際に身につけてみる。
するとわかった。
軽い。
あの強度を持ちながら、とてつもなく軽い。
それに、伸縮性にも優れ、サイズがピッタリ。
窮屈な感じも中で蒸れる感じも無し。
もしかしたら普通の服よりも快適かもしれない。
それほどまでだ。
僕が鎧に感嘆の息をこぼしていた時だ。
すでにミスリルの鎧を着込み、宝剣を腰に差した小泉が僕へと手を向けた。
「おい……これはどうする」
彼の手の内にあったのは、獣王・レーニコルの魔石。
彼の近くには同じくドロップアイテムであろう、肉がドンと置いてあった。
「あぁ……これは、僕が貰ってもいいか?」
「あ? まあ、構わないが……」
何に使うんだ? と疑問の眼差しが刺さる。
冬華は事情を知っているため、ああ、と納得した面持ち。
「それじゃあ」
僕は小泉の手から魔石を受け取り、飲み下した。
「な、何やってんだ!?」と小泉が慌てるが、魔石はもう僕の胃の中。
「お、おい! 大丈夫なのか!?」
「ん、大丈夫大丈夫」
「そ……そうか?」
慌てふためく小泉だったが、僕と冬華の落ち着きように、何かあるのだろうと察してすぐに大人しくなった。
そして僕は今――獣王の力を手に入れた。
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