持久戦

 咆哮。

 サイクロプスの溜まりに溜まった怒りが、叫びとなって僕らを襲う。


 最早凶器となった音の響きが鼓膜を揺らし、僕たちは思わず両手で耳を塞いだ。

 その瞬間を好機と見たか、サイクロプスが動き出す。


 足が大きいだけあって、一歩ごとに進むスピードは速い。

 あっという間に距離は縮まり――


「ガァァァ!!」


 短い雄叫びと共に、サイクロプスの巨腕が迫る。

 ここまでの一連の動作はあまりにも速すぎた。


 故に、僕も冬華も、反応するだけで精一杯。

 冬華よりも少し先に出ていた僕の体がサイクロプスの拳に貫かれた。


「――ゴフッ!」


 拳打の威力を殺すべく、咄嗟に体を後方へ投げ打ったものの、しかし、その衝撃を殺しきることは出来ず、無様に地面をゴロゴロと転がる。

 “再生”によって回復した体に、また傷がついた。


 だが、この程度なら動けないほどじゃない。

 “適応”が上手く作用してくれたようだ。


 僕は未だ痛みの残る腹を手で押さえながら、すぐさま立ち上がる。

 それと同時に視線を戻し、そこにはサイクロプスが冬華へ向けて腕を振り上げる光景が映し出されていた。


 あの距離、あのタイミングでは、冬華の【氷魔術】は発動不可。


 瞬時にそれを判断し、僕は手を前にかざす。


 ――“転移門”。


 忘れた頃にやってきたソレに、サイクロプスは反応が遅れた。

 自らが振り下ろした拳が、自らの顔面を突き、岩をも砕く衝撃が顔面に直撃。


 サイクロプスの巨体がたたらを踏んだ。


 そこで間髪入れずに、今度は冬華の【氷魔術】が火を噴く。


「“氷柱ピラー”」


 “氷礫弾”ではサイクロプスの体は貫けないという判断でもって、彼女は巨大な氷の柱を顕現させる。


 そして、虚空に現れた氷柱は、一直線にサイクロプスへと向かう。

 スピードは十分。

 さらに、まだ、サイクロプスは態勢を整えきれていない。


 必然的に、冬華の放った氷柱は、サイクロプスの体を貫く結果となる。


【氷魔術】によって作られた氷は、普通の氷とは異なり、レベルによって硬度が変化していくようで、今の冬華であれば、氷の硬さは鋼鉄にも劣らない。


 つまり、サイクロプスは巨大な鉄の塊が猛スピードで突進してきたのと、同じだけのダメージを負ったわけだ。


 流石のサイクロプスも、この攻撃は効いたのか、小さく野太い声を漏らしながら、膝をついて損傷箇所を庇うようにうずくまった。


 ――チャンス。絶好のチャンス。


「もう一回、やるよ!!」


 僕は再び、“放水”を発動させる。

 そして、それに並行して、冬華がもう一度“氷柱”を作り出す。


 先にサイクロプスにたどり着いた“放水”。

 これが、体全体を水浸しにし、続いて放たれた“氷柱”が、サイクロプスを凍結させた。


「多分……まだ、死んでない」


 あれだけ体力が残っていたんだ。

 もう一度この氷の殻をブチ破ることくらいなら、出来ないことはないだろう、


「……あと、どれくらい繰り返せば、倒せると思います?」

「さあ、どうだろう。それはサイクロプスの体力次第だけど、そこまで多くは持たないと思うよ。……まあ、僕らの体力と魔力も、あまり長い間持つかも、分からないけどね」


 僕が考えていた作戦。

 それは、持久戦。


 僕らの持つ攻撃手段じゃあ、決め手に欠けるのは分かっていた。

 なら、と考えついたのがコレ。


 なんとかサイクロプスの隙をついて僕の“放水”と冬華の【氷魔術】で全身を凍らせて、体力を削る。

 もちろん、それくらいなら自力で強引に出てきてしまうだろうことは想定していた。

 だからこその持久戦。


 何度も何度も、何度でも繰り返し、サイクロプスの体力が尽きるのを待つ。


 そして、体力が底をつけば、凍ったまま動けなくなる。

 そうすれば、体の芯まで凍結し、死に至る……はずだ。


 粗の多い作戦だろうが、今の僕たちにはこれしかない。

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