オークキング暗殺作戦
“液体化”
しばらく使っていなかったスライムの能力。
いつもは緊急防御用としての使用が多いイメージだが、体を液体にするというこの能力は今回の“暗殺”という局面においても極めて優秀な働きをしてくれることだろう。
狙うは液体化した体で少しずつ近寄ってからの窒息死。
ドロドロの、液体というよりもむしろ粘体という方が正しいだろうその姿に変身を遂げた僕は体を引きずってオークキングの元へと這い寄る。
はてさて、肝心のオークキングだが、未だ僕の気配に気づいた様子はない。
生きようともがく僕たち人間を嘲笑うかのように、気色の悪い豚ヅラを愉悦に歪めている。
しかし、油断大敵。
側近のオークたちも僕の存在に気づいたそぶりない。
――よし。
僕は己の中でタイミングを見計らってその粘体を一気に進めた。
勝負は一瞬。
オークキングの真後ろまで距離を詰めて、顔面へダイブ。
そこでようやっとオークキングは僕を認識。
顔に張り付いた粘液を毟って取り除こうと躍起になるが、もがけばもがくほどに酸素は放出されていく。
側近のオークたち五体も異常事態に気がついて慌て出す。
しかし、どう対処すればいいのか、とアタフタするだけ。
僕は内心笑みを浮かべながら“液体化”を発動させた自らの肉体をオークキングの体内へと流し込む。
これだけ言うと、大丈夫なのか? と思うかもしれないが、この体は体内にある核を壊されない限りは傷もつかないし粘体が無くなろうともいくらでも再生が可能なのだ。
まあ、自分の体がまんまスライムになっていると考えると気持ち悪いと思わないでもないが、効果としては有能すぎるほどに有能なのでそこでチャラになっている感じだ。
ゴボゴボとスライムで溺れるオークキング。さっきまでは威風堂々として踏ん反り返り、人間をあれだけ嘲笑っていたというのに、今ではどうだ。
不様。
実に不様だ。
王としての威厳なぞ、かけらもありはしない。
側近オークたちもキングの顔に張り付いたスライムを必死の形相で剥ぎ取ろうとするも、スルスル――というより、ヌルヌルと指の間から抜け落ちるその性質も相まってなかなか進まない。
業を煮やした一体のオークが怒りに豚顔を赤く染め、棒、いや杖を構えた。
なんだ? と僕は首を傾げ……あ、今の僕は傾げる首は無かったっけ。
下らないことを思考しつつ、しかしなんだか僕はいやな予感を覚えた。
それは、咄嗟の判断だった。
スライムになった体の大半をキングから引き離し、元の体へ。
そして、脱兎の如きすばしっこさで距離を取る。
刹那。
僕の元いた場所……つまりはオークキングの顔面が……爆裂した。
ここまで言えば、大体の人間は予想がつくだろう。
オークキングに従う側近のオーク。
その内の一匹が、オークキングの顔面に火の魔術をぶっ放したのだ。
これには僕も目を剥いた。
お前自分の上司の顔を燃やすって……それはおかしいだろ、と。
だが、それも無理からぬことなのかもしれない。
オークというのは魔物にしてはそこそこの知能を持つが、だからといって人間と比較すれば、それはバカと一蹴される程度のものでしかない。
であるからして今回のことは、知能の低い、さらにいうと堪え性もない豚が焦って下手な行動をとったというだけなのだ。
しかし! だがしかしだ。
あのまま行けば窒息死させられていたはずのオークキングを仕留めそこない、結果的には顔面の火傷と少しばかり体力を削る程度しか出来なかった。
一旦距離をとった僕は、“液体化”を使った際に脱げた服を最低限着込み、槍を手に取る。
相手方に魔法を使える個体がいるとなると、さっきと同じ手は使いにくい。
“液体化”は物理的な攻撃こそ無効化出来るが、魔法攻撃には滅法弱い。
特に、さっきのオークが使った火魔術なんてのは天敵といっても過言ではない。
下手すれば一瞬のうちに蒸発させられる危険すらあるのだから。
悔しげに槍を握る僕に対して、オークキングと、そしてそれを守護する五匹のオークたちは怒り心頭、といった様相だ。
キングは若干黒く焦げた顔の火傷を庇いながら僕を睨みつけ、側近たちも各々が武器を手に敵意、殺気の類いを溢れ出させる。
ドス黒いソレをその身で受け止め、だけど僕は逃げることはしない。
というよりも、逃げる場所なんてない。
逃げられるというのならば今すぐにでも逃げ出したい。でも、背を向けて逃げようものならやられる。
速攻で殺される。
未来が見えるビジョンとか、そういうのじゃなくて、普通に考えてそんな未来しか考えられない。
オークたちの雰囲気とか、見るからにヤバイし。
特にキング。
怒りすぎて頭に血管が浮き出てるよ。しかも目も血走ってるし、口からはヨダレが溢れでている。
ゲーム風に言うなら、憤怒状態って感じ。
ハハッ、と乾いた笑いが口から漏れた。
いや、笑えねぇよ。この状況。
――流石にこれは、やばいかも。
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