戦利品

「すみません。お待たせしました」


 講堂にはもう僕たち三人だけが残り、各々時間を潰して待つこと十数分。ようやっと熊野さんが現れた。


「いえ、それより話とはなんですか?」


 熊野さんの謝罪に間髪入れずかぶせるように質問を挟む白月さん。そこにはどこか焦りのようなものを感じた。


「ああ、はいそうでしたね。皆さんへの話というのは昨日回収していただいた魔石等のドロップ品についてです」

 

 そう言って彼は肩にかけていた小さなバックから次々とドロップアイテムを取り出していく。


「これらが貴方達が倒したゴブリンのドロップ品です。そしてこれらの所有権は全て貴方達にあります」


 机に山のように置かれたドロップアイテムの数々。それらを指でさして熊野さんは言葉を続ける。


「そこで、これをどうやって分配するかを決めていただきたいんですが……」


 視線を僕らに向け、問いかける。そして、それにいの一番に反応したのは源だった。


「俺はいいよ。俺はあん時なんも出来ないでほとんど気絶してただけだったしない……」


 声が尻すぼみになっていく源。自信なさげに自嘲して受け取りを拒否。僕は「でも……」食い下がるが、彼は頑なにいらないと言うばかり。


「だけど妹さんの入院費とか色々お金がかかるんじゃないの?」


 僕の会心の一言。これにはたまらず源も「うっ!」と唸り声を漏らす。こうして渋々ながらドロップ品を受け取らせることに成功した。


 そして白月さんの方は早く終わらせろオーラが全開で腕につけた時計を逐一気にしている様子。


「わ、私は少しで構いません。決めるなら早く決めてください」


 そういうと彼女は僕に視線を向けた。これはつまり僕が決めろ、ということなのだろうか。


「うーん。僕はこの魔石が貰えればいいんだけど……」


 僕が絶対に欲しいと思ったのはあの黒肌のゴブリンの魔石。これがあれば【魔魂簒奪】のスキルが僕をまた強くしてくれるはず。


「私は構いません」


「俺も別にいいぞ」


 二人の許可のもと、僕は無事に黒ゴブリンの魔石をゲット。


 そして問題は山のように積まれた残りの魔石や素材の数々なのだが、それはもう面倒なので三人で等分ということになった。数も多く、持ち運びが困難だとボヤいていると熊野さんがこんなことを言っていた。


「ダンジョンの近くに最近できた大きな建物があるでしょう? あそこは探索者の為にわざわざ建てた探索者支援所って所なんですが、そこではドロップ品を高値で買い取ってくれるんです。まあ、みんな探索者支援所は長いって言ってギルドって呼んでいるんですけどね」


 と。

 なるほどそれなら無駄に大量のドロップ品を持ち歩かなくても済みそうだ。それに僕たちの手には既に大量のドロップ品がある。どれだけの値段になるかは分からないが今月の家賃の足しくらいにはなるだろう。


 それはそうとして源とそして白月さんに言っておかなければいけないことがあった。


「二人とも僕とチームを、パーティを組んで欲しい」


 僕は思いの丈を伝える。しかしてその返答は――


「すみませんが、私は誰ともパーティを組むつもりはありません。それに私は貴方方とそこまで親しい仲になったつもりはありませんので。もう用がないのであれば私は失礼します」


 白月さんにはにべもなく冷たく断られてしまった。だが、これについて彼女を悪く言うつもりはない。彼女には彼女なりの事情があるだろうし、僕の提案も突然のものだった。断られたのならそれはもうしょうがないと割り切るしかない。


 そして源の方はというと……


「すまん。俺もパーティは組まない。というより、俺とはパーティを組まない方がいい」


 予想外の反応。てっきり源は僕とパーティを組んでやっていくものだと思っていたが。


「な、なんで……?」


「お前はさ……多分この探索者って仕事で大成できる人間だ。でも、俺はそうじゃない。俺はお前と肩を並べていられるような器じゃないんだ」


「そ、そんなことはっ!」


 卑屈になる源に声を上げ、もう一度説得を試みようとする、が。


「俺がお前とパーティを組めない理由はそれだけじゃない。……俺は妹が元に戻ったら探索者は辞めるつもりなんだ。元々親の反対押し切ってこの試験を受けたからな。やることやったらちゃんとした職につくって条件で俺は今ここにいるんだ。だから俺はお前とは組めない。いや、組まない」


 申し訳なさそうな顔で頭を下げられる。その選択が僕を思ってのことだと分かってしまうから僕は何も言い返すことが出来なかった。


「……分かった。君がそういうのなら無理には誘わないよ」


 源に余計な気を使わせまいとできる限り気丈に振る舞う。悲しい顔なんて見せやしない。


「……すまん」


 もう一度、源は僕に謝った。けれどそんなものは必要ない。僕が源とパーティを組みたいと言ったのはあくまで僕のワガママなんだから。


「そんなに謝るなよ。大丈夫だよ。同じパーティは組めなくても、友達だってことは変わらないだろう?」


 僕はニコリと作った笑顔でそう返す。心の中にもの悲しさがあったとしても、それは源が悪いわけじゃない。


「――っああ! あたぼうよ! 」


 沈んでいた源の顔に喜色が現れる。


「今度会ったら、一緒に飯でも行こう。そん時は俺が奢るからよ」


「おう。そん時までせいぜい稼いでろよ。破産するくらい食いまくってやるからさ」


 僕たちは軽口を言い合ってそのひと時を過ごした。


 そして僕の探索者としての活動はソロで始まることが決定したのだった。

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