面接

 翌日。

 朝九時半を回ったころ、僕は面接を受けるため昨日訪れたあの大学まで来ていた。


 大学の門をくぐり、待機場所となる講堂へと向かっている最中のこと。


「おーい奏!」


 野太い男らしい声に呼ばれて僕は振り向く。


「あ……源!」


 僕に声をかけてきたのはヤクザ顔のゴリゴリマッチョ男――源だった。


「よぉ、昨日ぶりだな。あの後熊野さんに連れてかれたみたいだったが、どうなったんだ?」


「いや、どうやってあのでかいゴブリンを倒したんだってことを聞かれただけだよ」


「大したことじゃない」と続けるが、嘘をついてしまったことに少なくない罪悪感を覚える。


「何はともあれ、無事で良かった」


 ホッと一つ安堵の息を漏らす源。人の良い奴だ。講堂に着くまでの間たわいのない話を続けていると面接についての話になった。


「面接っていっても何を聞かれるんだろうな」


「大したことは聞かれませんよ。面接で合否が左右されることはほとんどありませんし」


「へー……」


 背後から聞こえた声。隣にいる源とは明らかに違う声音。


 驚いてバッと後ろを振り返る。そこにはニコニコと満面の笑みを浮かべた熊野さんがいた。


「おはようございます」


 熊野さんは笑顔を絶やさず挨拶してくるが、なんとも心臓に悪い。


「気配を消して背後に現れないでくださいよ」


「いやぁ、すみません。ついつい癖で……」


 言葉だけ見れば反省していると取れなくもないが彼の顔には反省の色はない。多分やめる気は無いんだろうな。


「っていうか、熊野さんは面接の内容を知ってるのか?」


 呆れる僕を差し置いて源は熊野さんに質問するが――


「ええ、多少は知っていますが……教えませんよ?」


 源はあからさまにガッカリした顔をするが、まあ、そりゃそうだろう。彼も一応試験官の一人だ。そう簡単に情報漏洩なんてするわけがない。


「それはそうと、面接が終わった後でお二方と白月さんも交えてお話がありますので講堂で待っていてください」


 笑顔を浮かべたまま足を早めた熊野さんはそれだけ言い残して何処かへ去って行ってしまった。


「話……ねぇ。一体なんの話だろうな」


「奏は昨日も熊野さんと話したんだろ? なんか聞いてないのか?」


 源は頭上に疑問符を浮かべるが、それは僕も同じ。全くもって分からない。


「いいや、僕も何にも聞いてないよ」


 しかも僕と源だけでなく、白月さんもということは昨日のダンジョン内でのことに関係があるのだろうけど……


 そうこうしているうちに僕たちは目的地であった控え室として用意された講堂へと到着。扉を開けると集合時間の二十分以上前にも関わらず思ったよりも人が集まっていた。だがその中に白月さんの姿は見えない。まだ着いていないみたいだ。


 そして時間は経過し、集合時間を過ぎても白月さんは未だに現れない。


「どうしたんだろ……?」


 そんな疑問が頭に残ったまま、僕の名前が呼ばれた。


 案内の通りに面接室前訪れ、ドアを三回ノック。高校によってはドアをノックする回数が二回のところもあるようだが、僕が大学受験の時に教わったのは三回ノックだった。


「どうぞ」と扉の奥から入室の許可が出た。威厳のある重低音の男の声。少しばかりの威圧感を感じながらドアを開く。


「失礼します。本日はよろしくお願いします!」


 大学受験の時の経験を生かして元気よく挨拶。常に笑顔を心がける。……と言いたいところだが、なんか面接官が超怖い!


 眼鏡をかけて誤魔化そうとしているが顔は源以上に厳つくて傷だらけ。ゴリラかってくらいにムキムキでスーツの上からでも筋肉が浮き出ているのがわかるくらいだ。正直ちびりそう。笑顔が思いっきり引き攣っている。


 試験官も僕の緊張を感じ取ったのか先ほどよりも柔らかい声で話しかけてくる。


「どうぞ、お座りください」


「あ、はい。ありがとうございます」


 試験官の声に従い席に腰を下ろすと「さて」という言葉と共に早速質問が開始。


 クイとズレた眼鏡を持ち上げて鋭すぎる眼光をぼくに向ける。脅そうとしているわけではないのだろう。それはわかってる。でも、やっぱり怖い。


「えー、まずは最初の質問ですが、あなたはなぜ探索者になろうと思ったのでしょうか」


 比較的スタンダードな質問。震えそうになるのを抑えてなんとか声を絞り出す。


「えっと、はい。自分は――」


 面接での質問は当たり障りのない普通な受け答えをしていたらいつのまにかが終わっていた。多少盛ったところやハッタリをかましたところもあるが、まあ問題はないだろう。


 これで面接は終了。あとは結果を待つのみとなったわけだ。


 僕は熊野さんとの話があるため、もう一度講堂へ戻る。それはいいのだが、源も面接に行ってしまっていたので話し相手もいない。何をするでもなくボッーとしていると唐突に勢いよく扉が開いた。


「あれ……白月さん?」


 扉から現れたのは薄っすらと汗を滲ませ肩で息をする白月さん。焦った表情が新鮮だ。なんて思っているとちょうど彼女の名前が呼ばれた。ホッと胸を撫で下ろし、講堂を出て行ってしまった。


「もしかして遅刻か? ……意外だな。そういうタイプには見えなかったけど……」


 本格的に知人がいなくなった僕は近くでコソコソと話されている会話に聞き耳を立てて過ごすことに。とはいっても面接についての話ばかりで面白い話は聞こえてこない。惰性で聞き耳を立てること数分。またもや講堂の扉が開かれ、入ってきたのはヤクザ顔の男――源。


「おっ、奏の方はもう終わってたのか」


 顔に喜色を浮かべて近寄ってくる。周りは未だに慣れないのか一気に静寂が訪れる。


「おーそっちも終わりか……あとは白月さんと熊野さんを待つだけだな」


 だが白月さんが呼ばれたのはついさっき。そう早く終わるわけもなくこのあと十分近く待たされる羽目になった。



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