五階層フロアボス
あれから、一週間程が経過した。
僕と白月さんは着々とダンジョン第五階層の攻略を進め、レベルも各々一つづつ上昇して十一にまで至った。
そして、今日はついにフロアボス戦だ。
準備は万端。
僕たちは、この時のためにギルドで情報収集は怠らなかった。
肝心のフロアボスはというと、ゴーレムはゴーレムでも人型をとって、剣と盾を持ち、石造りの馬型ゴーレムに騎乗する、ナイトゴーレムと呼ばれる魔物なのだとか。
更にそれを守護するように通常のストーンゴーレムが数体配置されるらしい。が、まあそれはどうとでもなる。
問題は先に紹介したナイトゴーレムである。
こいつは体格こそ通常のストーンゴーレムよりも小柄ではあるのだが、それに反して膂力は比べ物にならないほどに強力であるらしい。
それに加えて、移動手段である馬ゴーレムだ。
動きこそ小回りが利きにくいが、それを補って余りあるほどのスピード。
その速度は本物の馬を上回る。
けれど、
「動き出す前に凍らせてしまえば、速度は関係ありません」
それが、白月さんが大胆不敵に放った言葉であった。
頼もしい言葉に、僕も自然と口角が上がっていたのを思い出す。
「それじゃあ、いこうか」
「はい」
僕らは互いに互いの顔を見やった。
どちらも負けることなど、微塵も考えていない顔だった。
僕らはボス部屋特有の過剰な装飾が施された扉を無遠慮に触れ、力を込めた。
ギィッと音を立てて扉は開き、待っていたのは情報通り、石造りの馬に跨がったこれまた石造りの騎士であった。
手にもつ剣も盾も石。
けれど、石といって侮るなかれ。
石だとしても、そんなもので攻撃されれば痛いでは済まない。
当たりどころが悪ければ普通に死ぬ。
さらに、ナイトゴーレムが醸し出す緊張感というか、威圧感はそれこそ一週間前に討伐したストーンゴーレムの上位種でもあるアイアンゴーレムを凌いでいた。
ナイトゴーレムは僕たちの存在に気づくや否や騎乗したまま剣を構えた。
それに呼応して、僕らも武器を構える。
例のごとく僕は槍の代わりの棒。
そして白月さんは短剣だ。
まあ、白月さんの短剣は短剣として使うわけではないが。
僕は棒を左前半身で構える。
白月さんは数歩後ろに下がり、目をつぶって集中を高める。
無防備、と思われるかもしれないが、こうした方が放つ魔術が威力を増すのだ。それに、その間は僕が守ってやればいいだけの話。
警戒して近寄ってこないゴーレムたちをいいことに、白月さんは極限まで集中する。
やがて宙空に氷の塊が現界する。
それは、今までにないほどの大きさだった。
目測で直径五メートルといったところ。
レベルアップによる影響か、瞑想による威力増大の影響か、はたまたそのどちらもか。
いつもと違い、数は一つだけ。
けれども、その一つに内包された魔力は膨大だった。
その危険性にいち早く気がついたナイトゴーレムは素早く馬を走らせる。
迫る速度は脅威であったが、それでも、止められないというほどでもない。
僕は能力を発動させる。
――“黒鬼化”
意志の力で発動させた能力は己が肌を黒く変える。
そして、変わるのは肌の色だけじゃない。
身の内から湧き上がる“力”もそうだ。
これだけでも動きを止めるには十分だろうが、白月さんの攻撃を補助する役目としてもう一つ、能力を使うことにする。
“放水”
水熊から奪ったその能力は水を放射するだけの単純な力だが、強力だった。
使いようによっては水圧カッターのような鋭さを持たせたり、大量の水で敵を吹き飛ばしたりも出来る。
が、今回はナイトゴーレムの体を濡らすことさえできれば良かった。
威力は抑えめで体全体に水を浴びせるように“放水”。
しかし、これは当たり前だが、行動の阻害には役立たない。
動きを止めることなく、ナイトゴーレムは僕へ――というか白月さんへ向かって直進する。
その進路上に立つ僕など眼中にも入れていないようであったが、それはいささか油断が過ぎるというものだ。
鬼の剛力をもって、僕は棒を横に薙いだ。
狙いは馬の左前脚。
僕を視界にも入れていなかったナイトゴーレムは、一切の抵抗もなしに自身が乗る馬の足を砕かれ――たらよかったのだが、そう簡単には行かないみたいだ。
金属の棒と石の脚がぶつかり合い、ガィンッと硬質な音を響かせる。
幸いにも馬は動きを止め、その上に騎乗するゴーレムは怪訝な表情で僕を見下ろす。
まあ、実際にはゴーレムに表情の変化などないのだが。
ビリビリと痺れる手を無視して、僕は再度棒を構える。
もう一度同じように突進されたらキツイな、なんて思っていると、ちょうど白月さんの準備が整ったようだった。
「――離れてっ!」
鋭く放たれた言葉に従って僕は後退する。
刹那。
背後から巨大な氷塊が飛来していくのを僕の目が捉えた。
逃場はもうない。
ナイトゴーレムは回避行動に移ることも出来ず、直撃。
本来なら氷による物理攻撃に留まるのだが。
ここでさっき僕が仕掛けた“放水”が働く。
原理はよく分かっていないが、【氷魔術】による攻撃が水に当たると完全に氷結するらしい。
今回はそれを使わせてもらった。
ナイトゴーレムの体は全身余すことなく凍りつき、動きを止めた。
しかし、体が黒い靄にならないことから、まだ死んではいないことがわかる。
ので、“黒鬼化”を使ったまま、棒を氷へ振り下ろし、殴って、殴って、殴りまくる。
やがて氷にヒビが入り、十を過ぎた辺りでビシリと氷が砕けた。
ナイトゴーレムの体も一緒になって。
それでもまだ足りないのか、体は消えないのでさらに攻撃を加えて、しばらく。
大体十分間くらいはやっていただろうか。
ようやくナイトゴーレムの体は黒い靄になって消えていった。
最後の方は何をやっているのか分からなくてなるくらい頭の中は無だった。
今さになって手がジンジンと痺れるを訴えてくる。
疲れを取り除くように、ふぅ、と一息吐いて後ろを売り向くと、白月さんはナイトゴーレムのいた場所、つまりそこに転がるドロップ品を凝視していた。
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