作戦共有
彼が提案してきた作戦の内容としては至ってシンプルなものだった。
まず、この作戦を実行する上で最も重要になるのは、彼が転移結晶とともに手に入れていたというアイテム。
ポーション同様に服用することによって効果を発揮する類いのものらしいのだが、その効能はポーションと比べても破格なのだとか。
小泉が言うには、それ一つ飲むだけで、自身のレベルを一時的に十倍にまで引き上げることができる……らしい。
数はたったの一つだけなので、使い所は考えなければならないが、それでも破格すぎる。
僕や冬華が使えば、あの、一切勝ち目が見えなかった合成獣のレベルでさえも軽々超えることになる。
いやまあ、僕の方が冬華よりも若干レベルが高いため、使うとすれば僕のほうになるのだが。
でだ。
肝心の作戦内容なのだが、強化アイテムを使って一気にレベルアップ! そのノリでダンジョンを攻略しちまおう! ってなもんだ。
アイテムの効果が持続している内にどれだけ魔物を殺し切れるかが重要になってくるだろうな。
とはいえ、果たしてそれだけでダンジョンの完全攻略まで持っていけるだろうか。
そもそもこのやり方で魔物を倒して、従来と同じように経験値が入ってきてレベルアップできるのかということさえも分からない。
また、レベルアップできたとして、さらに上の階層でも通用するものなのか。
僕だけがレベルアップしても冬華と小泉がそのままであればダンジョン攻略は難しい……などなど、数え上げればキリがないほどに不安要素はある。
「うーん……」
「どう、思う?」
頭を悩ませる僕に、小泉は問うた。
彼の案を聞いて、たしかに勝機はあるだろうとは感じた。
しかし、運に頼る面も多い。
穴は大きく、絶対に成功するとは限らない。
でも――賭けるに値するだけの価値はあると感じた。
「冬華は、どう思う」
僕はふと気になって彼女へと話を振った。
「……危険、ではありますね。特に、奏くんの占める死のリスクが大きいように思えます。ただ、成功するそれと同時にこの状況を脱することの出来る可能性も十分あるように思えます。なので、これは奏くんが決めてください。私は……貴方の意見に従うつもりです」
「そっか……わかった。なら、やろう。どっちにしろ、現状僕たちが取れる手段なんてのはたかが知れてるんだ。このまま野垂れ死ぬくらいなら、賭けてみよう」
「それでいいな」という意志を込めて、僕は小泉へと視線を向けた。
それに対して、小泉はニヤリと笑って一つの小瓶を取り出した。
「それは?」
「……こいつが、さっきも言ったこの作戦の鍵になるアイテムだ」
小瓶の中には緑色に淡く光る液体が入っていた。
見た目だけ見るとなんとも怪しげだが、ダンジョンで手に入れたアイテムだと認識しているとすごい効果があるのだろうな、という考えになるのだから不思議だ。
「これはお前に使って貰う。いいな?」
「ああ、もとよりそのつもりだ。覚悟も出来てる」
「よし。なら、あとは作戦を実行する場所だ。こっちにも、ある程度の目星は付いている」
小泉は再び【ダンジョンマップ】を起動させた。
「この階層には……っていうより、どこの階層にもあるらしいんだが、
「……なるほど、そこにいってひたすら魔物を殺せってわけか」
たしかに、この階層ではおまり多くの魔物とは遭遇していない。
時間制限も考えれば、フルで動いてもそう多くの魔物を倒すのは難しい。
そして、倒す量が少なければ上の階層へと進むこともできない。
あの合成獣レベルの敵に囲まれたら、いくら今の僕のステータスが十倍になったとしても殺される可能性も大いにあるわけだが、そこはもう割り切っている。
いや、もちろん僕だって死にたくはないが、それを出来るのが僕しかいない以上、もう迷っているわけにもいかない。
小泉はまだしも、冬華の命が僕の腕次第で助けられるのだと考えるとやる気も出てくる。
「怖気付いたか?」
「いいや、問題ない。行こう」
僕たちは、作戦の決行を決めると、すぐに行動を開始した。
こんなところで魔物に襲われれば今考えた作戦だって全部無駄になってしまうからな。
襲ってきた個体をアイテムを使って強化を施し勝つことはできても、持続時間の関係上、次の階層へと進むだけのレベルを上げることは出来なくなってしまう。
そうなればもうジリ貧。
ここで野垂れ死ぬ結果になるだけだ。
だから僕らは、魔物に接敵しないように用心しながらも着々と足を進めていった。
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