パーティ結成初日(2)
「ですから、私は私で魔物を倒すので――」
「いやいやいや、でも昨日、君のお母さんは一緒に行動しろって言ってなかった?」
僕は彼女の言葉に間髪入れずにツッコミを入れる。しかし、彼女は何をいっているんだ? とばかりに疑問符を浮かべた。
「はい、そういっていましたね。だから近くには居ます。でも戦うのは別々ですよ。報酬もお互いが倒した分だけ」
彼女の言葉に僕は絶句する。これこそまさに「開いた口が塞がらない」というやつだ。
「それってさ……僕たちがパーティ組む必要ある?」
「まあ、母から出された条件を破らないという意味では……必要かと思いますけど」
たしかに白月さんは僕とパーティを組めなければ探索者を辞めなくてはならなくなる。
でも僕は別だ。
彼女とパーティを組めなくともなんら支障はない。
でも一度頼まれて、受け入れたからには最後までやりきりたい。だから僕は彼女に問う。
「白月さんは、僕とパーティを組むのは嫌なの?」
「いえ……嫌というか」
どう言葉にしようかと考えているのか、少しの間沈黙、そして一拍おいてから言葉を続ける。
「一人の方が稼げそうなので……パーティを組むと報酬は分配しなきゃですし、それに私、口下手だからすぐに人を怒らせてしまうので」
最後は尻すぼみになって表情に陰りが見えた。
稼ぎについてはどうにかなる。というか彼女は何か勘違いをしている。
本来はパーティを組んで効率よく戦う事でより多くの魔物を倒し、それに従って報酬も多くなる。
そうなれば必然的に一人当たりの報酬だって増えるんだ。
でも、彼女はパーティを組めば分配しなければいけない、という点から何か思い違いをしていたのだろう。
僕も探索者になって日が浅い故に知識が豊富とはとてもではないが言えたものではない。
しかし、探索者という資格を得るにあたって少しくらいは調べてきたつもりだ。
例えばあるサイトではダンジョン三階まで登った経験のある自衛隊の人が実体験を綴って投稿したりなんてものや、最近流行りのヨウチューバーと呼ばれる職を持つ者たちがダンジョンを攻略する様子を動画にして撮影、投稿したりといった話もよく耳にする。かくいう僕もそういった人達が流した情報には大変お世話になっている。
だがしかし、話を聞いている限りでは彼女はそういった情報は調べていないのだろうことがよく分かった。
もったいない。
そう思いながらも、しかし同時になぜそれくらいのことも調べようとしないのか、と怒りも湧いてくる。
僕は意志の力でグッと怒りを飲み込んで静かに口を開いた。
沈黙を破るように切られた口火は、視線を地面に落としたままの一人の少女に向けられる。
「まず、一つ言いたいんだけど、多分君一人で魔物を倒してドロップ品を換金するよりも僕とパーティを組んだ方が絶対に稼げると思うよ。それだけは保証する。……それに、口下手って言うなら僕も同じだしね」
「同じ同士仲良くなれるかも」。そう返すとポカンと呆気にとられたように惚けた顔で白月さんは立ち尽くす。パクパクと口を動かし、反論の言葉を探すも、しかし見つからない。
「で、でも……」
「それじゃあ試しに今日だけ、パーティを組んでみない? それでダメなら僕は君の言うことに従うよ」
僕の駄目押しに白月さんはタジタジだ。
さっきまでの強気な態度は鳴りを潜め、口をつぐむ。
昨日、僕に命の危機に陥ったところを助けられたという事実がそうさせるのかもしれない。
だが、好都合。
僕は気恥ずかしそうに視線を外そうとする白月さんと無理矢理にでも目を合わせて離さない。
こうすることで相手から好感を得ることが出来るって何かの本に書いていた気がする。
……多分書いてたはず。
まあ、それはともかく白月さんは僕の強気な姿勢に押されたのかついには承諾の意思を示した。
ただし、僕が先ほど言ったようにパーティを組んだ方が稼げるということが立証出来なければ僕が白月さんの言うことに従う、という条件つきで、だが。
もちろん僕としては歓迎だ。
これでようやくダンジョンに入れる。
長々とダンジョンの門前で喋っていた為かふと時計に視線を落とすと時刻は八時半を指していた。
なかなかのタイムロスにハァと溜息を一つこぼすと背に背負った短槍を手に取る。
ズッシリとした金属の質感が僕の中の闘争本能を昂らせて意識が切り替わる。
白月さんを見ると彼女も腰に差した短剣を引き抜き、天を衝く巨大な塔――ダンジョンを睥睨した。
「さあ、行こう。これが僕たちがパーティとして初めて入るダンジョンだ。精々期待しておいてよ、絶対に損はさせないから」
「まあ、これでパーティ解散なんてならないように頑張ってください。期待だけはしておきますけど、ガッカリさせないでくださいよ?」
互いに好戦的な笑みを浮かべながら軽口を叩き、顔を見合せた。
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