訪問者
前にステータスを確認した時は、確か十かそこらだったはず。
ということは、以前から九つものレベルアップを遂げていた、ということか。
あのオーク戦では何度かのレベルアップは自覚してはいたし、体の奥からせり上がるような熱は今でも心に焼き付いている。
となれば、あの程度の筋トレじゃあ体力が余ってしまうくらいには強化されているのも当然といえば当然なのか。
いや、これについては別にいいんだ。
気になるのはスキル欄。
【魔魂簒奪】のスキルレベルである。
以前ステータスを開いた時に【魔魂簒奪】のレベルを三から四に引き上げたことはハッキリと覚えている。
しかし、現在のスキルレベルは五。
それに応じてSPも自動的に消費されているようであった。
僕の知る限りではスキルのレベルを上げるには自らの意思をもってSPを消費する。
それ以外に方法はなかったはずだ。
だからこそ、これはおかしいと、そう思ったのだ。
とはいえ、単純に僕の知識不足という可能性も考えられるし、自分でやったのを忘れている……なんてこともあるかもしれない。
まあ、そんな間抜けなことをするとは考えづらいが。
取り敢えず、現状何か不具合があるわけでもないし、この問題は一旦保留としておく。
さて、筋トレもヤル気をなくなったことだし、当初の予定通りスキルの発動確認でもしておくとしよう。
幸いなことにまだまだ時間は有り余っている。
まずはスライムの能力でもある“液体化”。
“適応”は……今は無理だし、ちょうどいいだろう。
ドロリ、と体が液状に変態してそれと同時に着用していた患者服が床に落ちる。
動作確認のためにしばらく部屋中を動き回っていたのだが、以前と比べて明らかに移動スピードが上がっていた。
これまではスキルレベルが上がってもここまでの性能の変化は見られなかったのだが……どういうことなのだろうか。
続いて検証した“黒鬼化”、“水纏体”のどちらも明らかに性能の向上が見られた。
レベル五。
もしや、この区切りの良さが何か関係しているのだろうか。
退院したらギルドで情報を収集しよう、と内心で決意を固めたところで、いつのまにか時計の針が十二時を回っていることに気がついた。
陽の昇りきった快晴の空が時間の流れを知覚させ、それと同時に自室のドアがコンコンと叩かれ、特に警戒することもなく、僕は入室の許可を出した。
すると、「失礼します」と若い女性の声。
扉を開くと、そこには見慣れた姿があった。
黒い艶のある長髪に、胸は少し寂しいながらもそんなことを気にさせないスラっとしたモデル体型、そしてそこらのアイドルよりも断然整った顔立ち。
入ってきたのは白月さんその人だったのだ。
何の用だ? とは思わなかった。
おおよその予測は付いている。
源をダンジョンに同行させることについての詳しい事情でも聴きにきたのだろうさ。
メールでは一応の承認を確認したが、それでも腑に落ちていない部分があったからこその訪問。
僕はベッドに腰掛け、さらに白月さんに椅子に座るよう促す。
彼女は僕の言葉に特に何をいうでもなく従って椅子に腰掛け、一息つくと、早速とばかりに口を開いた。
「それで、あの件についてですけど……藤堂さんを連れていくこと自体は別に構いません」
ここで、僕は「おや?」と首を捻った。
見た感じではそこまで否定的では無いようだ。
藤堂というのは源の苗字だったか……白月さんもよく覚えていたな。
あの時は僕たちのことなんて興味ないって感じだったが、よく考えれば僕のこともちゃんと覚えていたんだよな。
「でも、ギルドから――というか立花さんに教えてもらった情報によると、ポーションを手に入れるなら、フロアボスからのドロップが一番確率が高いとのことでした。七階層であれば、他の魔物からでも落ちることはあるそうですが、圧倒的に効率が悪いのだとかで……なので、藤堂さんもボスと戦うことになると思います。私が心配なのは、彼がちゃんとついて来られるのか、ということなんです。レベル的にも私たちとは差があるでしょうし」
さらに、わざわざギルドで情報を集めて来てくれた……と。
それに、源の心配まで。
白月さんと源の仲が悪い、というのは僕の考えすぎだったのかもしれない。
「なるほどね……」
彼女の懸念は最もだ。
そもそも、ボスからのドロップだって確定というわけではないうえに、ボスの実力は未知数。
だが、源の実力という面では心配はいらない。
その根拠として、彼は既に単独・・での四階層到達を成し遂げている、というのがある。
四階層に到達するだけならば、僕たちはとっくに済ませている、だが、それがソロでとなると話は別だ。
普通、探索者は四人程度のパーティを組むことを推奨されている。
まあ、僕たちは二人だけのパーティであるが。
そんななかでのソロ。
大変危険ではあるが、しかし、その分経験値は独り占めだ。
レベルだけでいうならば、僕たちとそこまで大きい差はないだろう。
コンビネーションに不安は残るが、そこは七階層にたどり着くまでに調整できればいいことだし、問題はない。
それを話してみると、白月さんは微妙な表情を浮かべながらも、納得したようであった。
曰く「実力があるのなら、自分がどうこう言うつもりはない」のだとか。
彼女の言葉に、素直じゃないな、と僕は小さく苦笑を漏らした。
その後、退院後のスケジュールを確認、調整し、雑談を交えていると、いつのまにか数時間が経過していた。
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