タイマン
“鎖縛”によって振りかざした腕を雁字搦めに拘束されたサイクロプスは苛立たしげに、その元凶である僕へと鋭い視線を投げかける。
しかし、僕は屈しない。
体を奮い立たせ、再び“鎖縛”を発動。
続けて右腕のみならず、身体の束縛を試みる。
鉄と鉄の擦れ合う音を伴って、薄鈍色の鎖は僕の手のひらから飛び出す。
鎖は、自らの意思を持っているかのようにサイクロプスへと迫る。
だが、サイクロプスも、同じ攻撃をそう何度も許すほど、甘くはなかった。
右腕を縛り付ける鎖を、その巨腕の膂力をもって引きちぎり、さらに飛来する鎖を掴み取った。
これにて、僕の“サイクロプスを拘束してタコ殴り”策は失敗に終わったわけだが……でも、時間稼ぎとしてなら、十分。
僕はすでに、体力の限界を迎え、地面に倒れ伏していた智也の体を回収を終えていた。
「か、なで……?」
困惑したような顔だった。
驚愕の中に安堵が入り混じり、口をパクパクとさせながら、智也は僕の顔を呆然と見つめる。
「なんで、ここに?」
続けて疑問の声が聞こえた……が、今は、その質問に答えている暇はない。
「それは後で答えるよ……今は、下がってて」
「あ、ああ……」
重い体を引きずって、智也は戦場を離れていく。
しばらくして、智也の驚いたような声が聞こえたが、それは今はいいだろう。
僕は一分の隙もなく、サイクロプスを睥睨する。
同時に、サイクロプスもまた、鋭い眼光を閃かせ僕を威圧していた。
なるほど、これがこいつのスキルのうちの一つ、【威圧】ってわけか。
確かにすごい。
ただ睨まれているだけなのに、押しつぶされるような重圧を感じる。
まあ、しかし……所詮はそれだけ。
「大丈夫、戦闘に支障は……ない!」
動く。
僕には今、武器がない。
でも、サイクロプスの硬い体に攻撃を通せるだけの武器が必要だ。
なら、どうする。
手が、ないわけではなかった。
あれを、もう一度。
使うのは、実に半年ぶり。
緊張はない、戸惑いもない、ただあるのは、己が内に秘められた戦意のみ。
サイクロプスがニヤリと笑って拳を握った。
僕も、対抗するように、歪な笑顔を見せる。
「吠え面かかせてやるよ、でくの坊が……ッ!」
黒色に染まった僕の体。
加えるのは――【液体化】。
黒の体を流体に溶かせ!
全身じゃないくていい。
腕を変えるだけでいい。
それで十分、僕は強い。
ドロリ、と両の腕が固体から液体に。
よし、と頷く僕に、サイクロプスは変わらず気味の悪い笑みを浮かべていた。
ちょっと、少しだけ、イラっとした。
「ムカつくなぁ、その顔」
胸に溜まる苛立ち。
いつもは、魔物相手にこんなことを感じたりしないのに……今日はなぜか、いやに感情的になりやすい。
それは、白月さんへの想いを伝えようとしたところで、こいつら魔物に邪魔をされたからだろうか。
――自分でも、よくわからない。
モヤモヤと燻るこの感情は、サイクロプスにぶつけてやろう。
僕は、久方ぶりなこの体の感覚を慣らすべく、一度、腕を大きくしならせる。
ブォンという派手な風切り音。
遅れて、叩きつけた地面の抉れる音がした。
うん、絶好調だ。
半年前のあの日に使った時よりも、だいぶ体の動きがスムーズになっている気がする。
それに、心なしか、攻撃力も上がっているような気もする。
僕は再びサイクロプスへと目を向ける。
勝てる……かどうかは、五分。いや、もしかしたらそれ以下の可能性すらあるが、でもどうしてか、逃げようとは微塵も思わなかった。
「うーん……」
――今日はアレ・・使ってもいいよな?
僕は、おもむろに左手を前方、サイクロプスへと突き出し、そして――
「“転移門ワープゲート”!」
黒い穴が、虚空に生まれる。
躊躇いなんてない。
一気に漆黒の世界へと足を踏み入れ、次の瞬間、僕はサイクロプスの背後にいた。
「――死ね……!」
狙うは首筋。
位置は絶好。
サイクロプスは一瞬でその場から消え去った僕の姿を、未だ捕捉できていない様子。
液体化させた右の黒碗を、振る!
“黒鬼化”による肉体硬度の強化と“液体化”によって得た、人にはありえない柔軟性を兼ね備えた体から放たれる、超威力の一撃。
討った――!
そう、思った時だった。
グリンッ、とあり得ない姿勢から、サイクロプスの顔が僕を向いた。
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