第一章 始まりの平穏 編

第1話 晴天の下に始まる平穏




 


 自宅の庭に寝転びながら美しく晴れた空を見上げている。

何の変哲もない、穏やかな一日の始まり。


平和そのものを象徴するような静けさの中で、僕はお気に入りの木の木陰で読書にふける。



「今日は1日、ゆったりと過ごそう......」



 そう思っていると、



「ルーク。昼食を食べましょう?」



 声の方に目を向けると、薄紫色の長髪をなびかせる部屋着姿の美少女が立っている。


 彼女はルシア、僕の嫁だ。

どうやら彼女は昼食を用意を終えて、僕を呼びに来たようだ。



「りょーかい。ここで食べない?」


「最近この小屋を使っていなかったものね。なら机と椅子を持ってくるわ。」


「ありがと。」



 広大な草原に建つこの小屋は、本邸から約1キロ近く離れている。

そして以前、住んでいた家でもあるのだ。


 この小屋は今住んでいる場所との間に遮蔽物がない。

そのため、草原の向こうに本邸がぽつんと見える。


 ルシアに昼食を持ってこさせるのは少し気が引けるが......

こんな爽やかな日には動きたくない。


 彼女が持ってくる間、再び空を眺めて――



「お待ちどうさま。」



 彼女は驚くほど早く戻ってきた。

僕らは1キロ程度なら刹那の間に移動できる。


余韻を楽しむ時間などなかなか取れない。

しかしそれは、僕ら『神族』が強大な力を持つ証拠でもある。


 ルシアは収納魔法から熱々のシチューを取り出し、小屋の外に設置した小さなテーブルに並べ始めた。



「相変わらず凄まじい魔力操作だね。収納空間内で、液体を溢さないようにするなんて。」


「戦闘中は無理。集中できる時だけよ?それと......あなたに教わったんだけど......」



 そうだそうだ!僕が彼女に教えたんだった。

液体を皿ごと収納魔法に包含するなんて、我ながらくっだらない技術を磨いたものだ。


 だってそうじゃないか?

普通に容器に詰めればいいだけの話なのだから......



「感謝してね、このルーク様に~。」


「はいはい……早く食べましょう。魔力がもったいないわ。」



 僕らは昼食を食べ始めた。


 机に並ぶのはビーフシチュー、固めのパン、生野菜のサラダ......

何とも昼食らしからぬ組み合わせだ。


 味は......うーん。普通。


 何も考えずにあり合わせでテキトーに食事を作ったのだろう。



「ルークは今日休み?」


「そう。久々のオフだよ!本でも読んで過ごすつもり。君は?」


「これから仕事なのよ......とある銀河の太陽系にある地球っていう惑星を視察するの。」



 ルシアは惑星の監視し、惑星文明のバランスを調整する仕事をしている。

今日は新しく担当する惑星の視察を行うらしい。



「あれ管轄が変わったの?地球ってどんな惑星?」


「えぇ......つい1年前にね。カルダシェフスケールで1以下の文明よ。危険はないから安心して。」



 カルダシェフスケールは文明の発達レベルを表す指標だ。

1以下でも相当発展している。


 文明がない惑星も多い中、文明が存在するというだけでそれは注目に値する。



「あそこ......僕の記憶では、トカゲみたいな生き物が這いずりまわってたような......」


「ルーク?それ、いつの話......?」



 僕らは神族と呼ばれているが、厳密にはそう呼ばれているだけで神ではない。

詳しい話はいいとして......僕らの寿命はほぼ無限に等しい。


 僕は現在5億歳なのだが、同族の中では若い部類に入る。

天上神界のお偉いさんの中には、幾つもの宇宙の誕生に立ち会った神もいるくらいだ。


 そんな他愛もない話をしながら、昼食を終え僕達は2人で読書をしている。


 隣で読書をしているのではなく、僕の体を背もたれにし腕の中で同じ本を読んでいる。

いわば座りバックハグだ。



「これはどういう意味なの?」


「これはね。僕の解釈だとーー」



 お互い読むペースがほとんど同じなので、こうして読みながら話し合いができる。


 しかしルシアは本の内容にはさほど興味がないようだ。

彼女はシャイなので、ハグの口実にしているだけなのだろう。



「な......なによ。」


「ん~?別に?共有感覚で何となく分かってるんじゃないの?」


「ぁぅ......」


「素直に言えばいいの。」



 うちの嫁は顔を真っ赤にしながら、必死に本を読んでいるフリをしている。

何とも愛らしい限りだ。


 そうして瞬く間に時間が過ぎていき......

遂にルシアが出発する時間になってしまった。



「そろそろ時間ね。行ってくるわ。」


「どうやって行くの?銀河間移動用の魔導船?」



 ルシアはニコッと笑って言い放った。



「飛んでいくわ。」


「え?と、飛ぶ??長距離転移魔術とか魔道具とか?」


「飛行魔術で行くの。長距離転移は景色を楽しめないから。」



 確かにルシアなら可能だろう。彼女は神族の中でも特に魔力が多いから。



「じ、じゃあ、気をつけてね。」



 僕がそう言うとルシアの体を淡い光が包み込んだ。

そして彼女の服は、右肩だけを覆う形でマントが縫い付けられた、魔道服に変化する。


紫を基調としたその服は、彼女の髪色とマッチしている為、よく似合う。


 こんな事を考えるのは悪いが......

今の服を着たまま、宇宙空間を爆速飛行する嫁の姿は......


うん、想像するだけでシュールだ。



「じゃあ、行ってくるね。夕食は外で何か食べておいて。」


「いってらっしゃい。」



 ルシアは小屋から少し離れた場所に移動し超高速で飛んで行った。


 衝撃波は軽減されているものの、僕の髪型を乱すほどの突風が吹き荒れた。

小屋は念の為、結界魔術で保護しておいた。



「……さて、本を読もう。」



 本は良いものだ。

僕は生前から知識欲が強く、新しいものを知るために本を読むのが好きだ。


 もちろん経験や冒険も大好きだから、未知で溢れているこの世界は探究心を大いにくすぐられる。


 近づくことさえ禁止された宇宙に浮かぶ巨大な門。


 別次元に隔離された未開の世界。


 現代でも再現不可能な特殊技術。


 果てにいるとされる異次元の存在。


 実在さえ確認されていない、この天上神界を建界した初代全神王。



 そうした未知が僕の知識欲を刺激する。

いつかこの目で見たい、知りたい!そう思えてくる。


 そうして本を読んでいるうちに3時間近く経過した。

1日は53時間。残り25時間を有効に活用しなければ。



「平和だ……空も綺麗だな。明日も休みだから夕食は抜きだな。どうせ僕らは食べなくても死なないんだし。......独り言乙......」



 そんな独り言を呟いていた時......

僕と全く同じ色の、深緑の長髪をたなびかせる『ロリ』が近づいてきた。



「おにぃ、招集。」



 僕は予感した。平和な休日の終わりを......











「主人公ルークのイメージイラスト」

https://kakuyomu.jp/users/nagisakgp/news/16818093077439362237


「ルシア・ゼレトルスのイメージイラスト」

https://kakuyomu.jp/users/nagisakgp/news/16818093077439686975


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どうもこんにちわ!G.なぎさです。


近況ノートにルーク、ルシア、エリーのイメージイラストがありますので、そちらも是非ご覧ください!


この度は第一話を読んでいただきありがとうございます!


プロローグとの雰囲気の違いに驚いた方もいるかと思いますが、ここから物語がスタートです!!


次回は早速、魔物との戦闘です!!ぜひご覧ください!!




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