第63話 多重魂魄『キリトゥーア』

63話ー① 神界の貧困層






「おねぇ置いてきてよかったの?」


「あぁ……あいつは多分、ルシアがいると出てこないだろ?」



 僕たちは第二惑星シレティムの地下市場に足を踏み入れていた。

 泥臭く、くすんだ茶色の景色は、この場所が豊かではないことを一目で伝えてくる。

 無数のボロボロの特設テントが並び、怪しげな物品が無造作に置かれている光景は、まさに“貧困”そのものだった。



「そこの……おにいさん。1ゴールド以下でいいから、このゴミを買っていってよ。」


「遠慮しとくよ。悪いね。」


「そう……かい。」



 売り手は、疲れ切った声で諦めると、また次の客を探すように視線を泳がせた。

 彼らが売ろうとしているのは、本当にただの“ゴミ”ではない。


 ゴミ山から掘り出した、わずかでも再利用可能な物を拾い集めて、小銭を稼ごうとしているのだ。

 これは集団的な極貧によくみられることで、ゴミ山かた少しでも使えそうなものを拾い。

 袋いっぱいに詰め込んで1円~2円で売って政経を立てているのだ。



「神界にも。こゆ人、いる。」


「神界とはいえ、根本にあるのは資本主義だ。それに、この人たちの多くは、望んでここにいるんだよ。もうどうしようもない。」



 法整備がされている天上神界においても、こうした貧困層が一定数存在する。

 そのほとんどは、何らかの理由で追放された者か、自らの意思でここに留まる者たちだ。

 信じがたいことだが、こうした環境を“理想”と捉える種族も存在する。



「ごめんなエリー。最近来てないから、道がよく分からないんだよ。」


「おねぇいる。こゆとこ、入り浸ってたら、怒る。」



 これから僕らが向かうのは、天上神界でも屈指の暗殺家であり、情報屋として知られる人物のもとだ。

 エリーが紹介してくれたのだが、どうやって知り合ったのかは、いまだに謎のままだった。

 そこへ行くには、定期的に構造が変わる異次元通路を、正しい順序で通らなければならない。



「毎度その道順情報はどっから仕入れてんだ?」


「……内緒。」



 エリーはにやりと笑い、答えを濁す。

 貧困層が密集する地下路地の薄暗い通路。


 その迷路のような路地を正しい順に曲がっていかなければならない。

 エリーは迷いなく、スイスイと路地を曲がっていく。



「果たしてキリが出てくるか……トゥーアが出てくるか……」


「キリ。最近トゥーア……見ない。」


「トゥーアが出てきたら何されるか分からないもんな。」


「ん……基本、味方?気もする。」



 赤黒い照明がかすかに光り、壁や地面にはネズミや虫が這い回った跡が無数にある。

 天井は段々と低くなり、閉塞感が増していく......薄気味悪さも相まって常人なら苦痛を感じるレベルだろう。

 この風景はまるで下水道のような薄気味悪さを醸し出していたが、僕たちには……。



「懐かしいね……昔はこういうところに隠れてたっけ?」


「ん……落ち着く。」


「……それには賛同できんわ。」


「ん、知ってる……知ってる。」



 かつて、こうした場所で何度も逃げ延びた記憶を持っている。

 捨てられた廃村、下水道の中――そうした場所に身を隠しながら過ごした日々を、思い出していた。

 いったいどれほどの時間を、あの逃亡の中で過ごしただろうか……。



「逃げて、追手を殺して、また逃げて……これの繰り返しだったよな。」


「懐い。未だに、分かんない事だらけ。」


「そうだね……色々と疑問はある。僕たちが連れてかれる前は豊かな世界だったと思うのに……出てきたら大分終わった世の中になってたよな〜。」


「それ。戦争、始まる直前。逆に助かった?」



 僕たちを連れ出した『最強生体兵器創造計画』――それが意味するところは明確だ。

 恐らく僕たちの知らなかった水面下では、何年も前から戦争の準備が進められていたのだろう。

 結果的に僕たちが元々いた国が勝利し、生体兵器の開発が間に合わなかったこちらの国が敗北した......のだと思われる。



「何か水まで流れて、ホントに下水道みたいだな?」


「今回、多分そう。下水道、繋がってる。」


「……でも流れてる水は……猛毒だね。穏やかじゃない。」



 無味無臭の激毒――それがあたかも普通の水のように流れている。

 迷い込んだが最後、対策を持たない者は、蒸発した毒素にやられ、じわじわと死に至ることになるだろう。



「おにぃと私なら、飲める。おねぇ、お腹壊しそ。」


「勝手に飲ませるな。」


「ほぇ?」



 無駄話をしていても、目的地らしき場所にはなかなか到達しない。

 歩き続けること数十分――ついには猛毒を流すスペースすらなくなり、人2人が辛うじて並べるほどの狭い通路へと進む。



「気味悪いな……道間違えてないよな?」


「ん、ヘーキ。」


「だったら前より長くなってるな……かれこれ30分は歩いてる。」


「そろそろ、着く。」



 そう言いながら歩き続け、ようやく行き止まりへと到達した。

 そこは不気味な赤と緑の照明で照らされ、13個の扉が並び、それぞれの扉には4種類のドアノッカーが掛けられている。

 異質なこの光景が示しているのは――この先にいる人物が、並みの存在ではないということを示している。。



「……前より複雑になってるな。さては誰かに手前まで侵入されたのか?」


「今回。右、11番目扉。楕円ドアノッカー9回。」


「……マジでどこで仕入れるんだその情報。今は僕が使ってた頃とは、情報入手の方法も違うだろ?」


「内緒。覚悟決める。トゥーアじゃないこと、祈って。」


「よし……」



 僕たちは深く息を吸い込み、指定された扉の前に立つ。


 コンコンコンコンコンコンコンコンコン……

 右から十一番目の扉を、楕円のドアノッカーで九回叩く。

 音の響きからして素材は真鍮――天上神界では馴染みのない金属だ。



 ――すると、不気味な軋み音と共に扉が開いた。









 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★



 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 ルシアを置いて二人で訪れたのは......神界唯一の貧困集落。

 そんな貧困集落からさらに奥へと進んだ先に......不気味な扉が?


 次回、お目当ての暗殺家登場?でもその性格は......


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

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 【【お知らせ】】中盤執筆の為、しばし毎日投稿じゃなくなります。




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