62話ー② 奪われた異質な神核






 ――――氷爆から11分......


 暗闇の中、かすかな光が揺らめいている。

 どこか遠く、闇に閉ざされた世界の端から差し込むような微かな輝き。


 そして......



「よし、成功だ。まさかここまで光子エーテルが万能だとは......」



 ――すると隣のルシアも目を覚ます。



「んん……ルーク?」


「お!おはよう。」


「あなたね!何でいつも隠すのよ!」



 怒りのこもったルシアの声が、寒さを忘れさせるほどの迫力で響いた。



「ビビりまくってて......可愛かったから。」


「ビ、ビビってないもん!」


「それに、あの技は前に食らってね。前よりさらに強くなってたけど......対策はずっと考えてたんだ。ちょうど昨日、面白いことを思いついて試したくなったんだよ。」



 魔力は術者が気絶すると、複雑な術を発動することはできない。呪術でさえ事前に設定された術しか発動しないのが常識だ。

 しかし、光子エーテルはその限界を超えている。


 今回は「探知神術の範囲からアルクが出たら、自動で氷を解かす神術を発動する」という条件を設定したが、見事に成功した。

 光子エーテルは、術者の状態に関わらず複雑な術を自動発動できる......常識を覆すほどの可能性を秘めている。



「そんな行き当たりばったりだったの!?死ぬかもしれなかったのよ!!」



 確かにアルクを知らないルシアにはそう見えるだろう。

 しかし、僕は彼を長く知っている。彼の行動原理にはある種の一貫性がある。



「殺しはしないよ。ああ見えて意外と常識がある。瀕死にはするけど殺しはしない。それがアルクって奴なんだよ。」


「瀕死にするのは常識あるって言わないわよ?」


「......さぁ行こう!」


「ちょっと!?無視しないでよ!てか何処に!?」



 僕はスタスタと歩き出した。アルクの切り札であるあの技は、威力を大幅に抑えたとはいえ.......

 そう簡単に連射できるものではない。今なら彼はしばらくの間、貯め無しで大技を放つことができないはず。


 もし早い段階で僕が根源共鳴をしていたら、彼は持久戦を選んだだろう。そうなれば話し合いなど不可能だった。

 だが今、このタイミングなら――話を聞かせるチャンスがある。






 ――――数分後



「いたいた。さっきぶりだね?」


「てめぇ……死ね!!」



 アルクは氷塊をこちらに打ち込んできた。

 だが、そこに込められた冷気は明らかに先程のものよりも弱い。


 弱いと言っても、修行前の僕たちならお釈迦になっているぐらいの一撃だが……。



「アルク。話を聞いてくれ。」


「聞くかクソが!!」


「横暴すぎるでしょ!!ルーク!こんなの本当に仲間にできるのかしら!?」



 正直、このままでは無理だろう。

 彼は例え敗北しようとも、こちらの仲間にはならない。それでも僕には切り札がある。



「君の――――。」



 その言葉を聞いた瞬間、アルクの動きが一瞬止まった。



「……てめぇ。その話、確かな筋だろうな?」


「あぁ、間違いない。それに僕の近くは、ヴァラルに関する情報が入ってくるのが最も早い場所だ。」


「……チッ。イケすかねぇ野郎だ。俺様が特別に協力してやる。感謝しろボケ。だが!下についた訳じゃねぇ!!」


「分かってるって。また決まったらここに訪ねてくるよ。」



 よし……第一関門クリアだ。


 ヴァラルと戦うには、彼の力は必須だ。


 燃費は最悪だが、彼の広域攻撃は局所攻撃と同等程度の殲滅力を発揮する。

 大抵の場合、範囲攻撃は雑魚殲滅用にしかならない。

 しかし、彼の攻撃はその常識を打つ壊す可能性があるのだ。



「あぁ!?テメェの顔なんざ見たくねぇよ死ね!」


「はは……ならオンラインで……。」



 僕はそう言ってその場を後にした。





 ――――帰路




「ねぇルーク?あの時何を囁いたの?」


「……ルシア。異相転移現象って知ってる?」


「えぇ、もちろんよ。稀に時空間に突然現れる次元の穴よね?諸説あるけれど、別世界、別次元の空間と座標自体が入れ替わってしまっているとか……」


「合ってるよ。実際それに巻き込まれた生命は、これまで誰一人生き残った記録がない。」



 そう……誰一人生き残ったものはいない。正確には帰ってきたものはいない。

 ただしそれは、全身丸ごと異相転移現象の範囲に入ってしまったものに限る……。



「ルーク?まさか彼は何か関係があるの?」


「……極小の異相転移現象。それが彼の神核の中で起こったんだ。核の半分近くが消し飛んだそうだ。」


「え?じゃー彼は核の半分だけで生き長らえてるの?」


「……消し飛んだ核の周りのエネルギー回路を手術でねじ曲げて、もう半分の核が壊れないように神造義核で補ってあるんだよ……」



 核の半分を人工の心臓で補完している。

 魔力を流す神経回路も歪なのだ。それでも彼は、あれだけの力を有しているのだから驚異的だ。


 神核は最も抵抗力が強い場所......

 本来ならその場所で、そんな現象は起こらないはずなのだが......



「待って!待ってよ!ありえないわ!幾ら一部とはいえ、人工的に神の中核を作り出せる訳ないわ! もしそんな技術があるなら真の神界以上の超技術じゃない!」



 ルシアの声には驚きが隠せない。彼女の知識でも想像の範囲外なのだろう。

 僕は少し苦笑しながらその疑問に答える。



「……それを開発した狂気の探求者がいるんだよ。エリーと僕にとっては昔から馴染みの顔だよ。」


「どうして……そんな人がずっと日の目を浴びないの?」


「簡単さ……人体実験の為に殺しすぎたり、神界進歩の為と称して、禁忌の実験をヤリまくったりして神界そのものから追放されたんだからね!」


「それヤバい人じゃん!!!ルークの友達は全員犯罪者なの!? 今のところスカウトに来た人たち、殺人未遂とマッドサイエンティストなんだけど!?他に誰をスカウトする気!?」



 実を言うとそんなにヤバい奴ではない......なんて事は当然なくイカれた異常者だ!

 しかしヴァラルという邪悪に対抗する上では、狂っていれば狂っているほどいいだろう。


 ......常識や倫理、秩序を重んじて戦ってもヴァラルには勝てない。

 それは悲しいことに天上神界の歴史が、証明してしまっているのだ......



「んー。あと暗殺者?」


「ちょっと!?悪に対抗する正義の組織と、かけ離れな集団になってきてない!?」


「気のせいじゃね?」


「違うわよ!!」



 キレッキレのツッコミをその身で感じつつ、僕達は帰路についた……。








 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★



 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 何とアルクは神の心臓たる核の半分を失っていた??

 そしてルークが囁いた内容と、ヴァラルとの関連性とは??


 運命を共にする異質なメンバーが、因果に導かれ終結する!!


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!



 【【お知らせ】】中盤執筆の為、しばし毎日投稿じゃなくなります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る