63話ー② 『終わりの門』と『鍵穴』
――不気味な軋み音と共に、何の変哲もない金属の扉が開く。
「おにぃ......一応警戒。」
「あぁ、進もう。」
奥に進むと、本がびっしりと並んだ小さな部屋に辿り着いた。
最奥には小さな椅子があり、黒いスーツに黒いネクタイを締めた男が座っている。
顔に本を載せて眠っているようだが、僕たちには分かる――彼は眠ってなどいない。
「なんや?来たんかいな。招かれざる客っちゅうわけでも、なさそうやな?」
そこにいたのは、紺色の髪をしたおかっぱ頭の男。
服装は整っているもののその外見はどこか滑稽で、口調も相まって全く強者の威厳を感じさせない。
目は常に瞑っており、確かに素人が見れば眠っているように感じるかもしれない。
「キリか......良かった。君の事だから、僕たちがここに来た目的、もう知ってるんだろ?」
「おにぃに、協力お願い。」
彼の情報収集能力を考えれば、僕たちの来訪目的くらい既に察しているだろう。
この情報収集力に、ルシアの情報ハッキングを組み合わせれば、組織のパフォーマンスは飛躍的に向上する。
「当然や、知っとる。その上で言わせてもらうけどなぁ、ワイを舐めとるんか?言い訳あるなら言うてみぃや?」
「キリ、聞いて、おにぃは......」
「ワイはルークはんに聞いとるっちゅうのに。次、勝手に話したら殺すで?発言には気ィつけや。」
鋭い言葉に、一瞬で場の空気が張り詰めた。次の僕の第一声は極めて重要だ。
もし機嫌を損ねれば、この交渉はその場で決裂しかねない。
しかし......僕は好奇心で少し寄り道をしたくなってしまった。
「鍵穴についての情報を......手に入れたと言ったら?」
「は?嘘はあかんやろ嘘は。どうやらルークはんに期待しすぎやったみたいやな......」
次の瞬間――キリは僕の首元に禍々しい短刀を突き付けてきた。
その速さも驚異的だが、それ以上に恐ろしいのは気配の無さだ。
......地獄のような環境を生き抜いたエリーですら反応できなかった。
「顔なじみやから、次の発言までは生かしたる。人生最後の一言になるかもしれへんで?」
「おにぃ!!」
「しゃべるな言うたやろ。」
彼の言葉が終わるか終わらないかのうちに、エリーの身体は高温の鋼糸でバラバラに切り裂かれた。
しかも、その糸には呪いが編み込まれており、驚異的なエリーの再生さえ遅らせる仕様になっている。
だが、完全に殺すつもりではないは分かっていた。
先ほどエリーに向けた殺気は、威嚇程度のものだったからだ。
「次の一言で決まるで?人生最後の一言や。よう考えや。」
「......」
「なんや、無言かいな?ほな、次は妹はんと嫁さんを.......」
「ぁ?」
「.......!?」
一瞬、僕は反射的にキリを上回る殺気を放ってしまった。
ルシアを引き合いに出して挑発する魂胆に、つい殺意を持ってしまった。
もちろん、すぐに冷静になり殺気を収めたが、この一瞬が勝負の鍵となる。
刃が首から神核へ動き出す前に、一言でこの状況を覆さなければならない――
本当は面白そうだから、もう少し黙ってようと思ってたが......このままじゃ殺されちまう。
「倉本重蔵......」
「なっ!?」
その名を告げた終えた瞬間、キリの刃は15㎝ほど首から下に食い込んでいた。
それもこれも、あの害厄王の名前が地味に長いせいだ。
圧縮しても、あの害厄王の名前を口にするには時間がかかる。
「君の中にある、『鍵』......それと同種のものを神界から持ち出したんだって?」
「まさか......今の話ホンマかいな。」
アウルフィリア様が言っていた―『終わりの門の封印器』を倉本が持ち出したと......
彼もまた、何かの門を探しているらしい。そしてそれは『終わりの門』の可能性が高いと踏んでいた。
彼の名前からも自身が何かの扉または鍵である事は、前々から当てをつけていたのだ。無策ではない。
「やっぱり聞き覚えがあるか。」
「あかん......失敗やった。ワイ自身が鍵っちゅう話だけで、そこまで辿り付くかいな普通......」
「......鍵も一つじゃない、だから情報屋なんてやってる。何なら呼び方も場所によってバラバラなんだろ?」
「......鍵はワイというより、トゥーアやな。ワイはその出がらしみたいなもんや。」
トゥーア――それは彼のもう一つの存在。
別の魂なのか、あるいは全く異なる何かなのか......とにかく彼の中には二つの人格が共存している。
そしてこのトゥーアは、この世界の根幹に深く関わっている可能性がある存在だ。
「結局トゥーアは何なんだ?最初は二重人格かとも思ったけど......」
「ワイにも分からへん。呼びたいんやったら呼ぶさかい、どないする?」
「遠慮しておくよ。不安要素が多すぎるしね。」
「せやな。」
トゥーアは時に聖人のように振る舞い、時に残虐な怪物へと豹変する。
予測不能の性格を持つ彼を、僕とエリーは常に警戒しており、専用の逃走手段をいくつか準備しているほどだ。
時には人の命を助け、無償でその知恵を振りまくが、時には前触れもなく凄惨な出来事を巻き起こす。
しかしそれは決して気まぐれというわけではない。僕は交渉を続けた。
「で?どうだい?僕なら優先的にその情報を十神柱や四代目から仕入れられる。僕の元で情報収集をしたら、今以上に段違いの成果が出ると思うけど?」
「......見返りに働けっちゅうことか?せやけど、それだけやとまだ足りんわ。ワイが居場所を固定する理由にはまだ足りへん。」
「欲張りだな......なら箱庭の主に、右腕と呼ばれた騎士がいるのは知ってた?そしてその人に会わせられると言ったら?」
「なん......やと......」
その反応を見て、僕は確信する。『終わりの門』と『箱庭』には何かしらの関係がある。
そして彼がその繋がりを知っている以上、僕の言葉は彼の中で無視できない重みを持っているようだ。
実際その騎士はアウルフィリア様なのだが、その情報は当然ここでは提示しない。
この場で情報を出しすぎるのは禁物だ.......人物が分かれば、自力で接触を試みるかもしれないからだ。
キリは唸るように息を漏らし、細目を開けて僕を見据えた。
――しかし.......もう君はチェックメイトだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
キリと接触したルークとエリー......
エリーが切り刻まれる中、ルークは冷静に優位を確立する。
『終わりの門』そして『鍵穴』とは?様々な思惑が交差する運命の仲間たち。
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【【お知らせ】】中盤執筆の為、しばし毎日投稿じゃなくなります。
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