49話ー➁ スイッチ......オン






 ひたすら場にそぐわない音楽は、空間を不気味な恐怖に包み込んだ。

 しかし立ち止まる訳にはいかない。


 まだ敵と決まったわけじゃないため、細心の注意を払って近づくことにした。

 音楽が聞こえる距離から考えても、そう遠い距離ではない。







 ――――そして到着したその場所は......遊園施設だった。



「……ここ遊園地? あとあれは何?」


「分からない……ここに残った残留思念かもしれない。」



 黒いモヤのような存在が、遊園地の中で騒いでいる。

 観覧車に乗り、メリーゴーランドを回し、風船売りの周りに集まっているのだ。


 無邪気に遊ぶ子供のような声が響き、奇妙なことに悪意は感じられない。



「……ルーク。この子達からは悪意を感じないわ。」


「……逆を言えばそれだけだよ。」



 違和感を感じた。まるで誰かがこれを見せているような不思議な違和感。

 幻術の可能性だって否めないのだが......残留思念自体は本物のようだ。



「な、なんかさっきから、あのモヤに見られてないかしら?」


「......ん?」



 そして先ほどから、こちらをじっと見つめる子供の残留思念......

 その子供が突然、風船の仕草をする......そしてで後ろを向き走り去っていった。



 ん?待て待て......僕はルシアが万全でないのに、どうしてこんな場所に来た?

 明らかに最適解ではない......確かに調査は必要だが、ルシアの回復を待った方がリスクは低い......


 じっと見つめる、......なるほど。

【頭上近くに敵、操られている、逃げられない......】か、教えてくれるなんて優しい子だ。



「ル、ルーク?」



 しっかしこれはやられたな……誘い込まれたんだ。

 僕は根源共有を通じて、ルシアにそれを共有した。


 いつの間にかけられていた思考誘導……僕達は完全に相手の術中にハマってしまったのだろう。

 根源共有の負担で、僕の思考力が低下しすぐに気が付けなかった。


 しかしまだ策はある.......これを逆手に利用して敵を嵌め返す。



【罠だ。僕に合わせて。】


「え?どういう……」


「さぁ、奥へ行こうか?」



 間違いなく思考誘導に掛かっていると、敵に信じ込ませ逆に誘導すればいい。

 その前にはまず、心理誘導のする必要があるのだが......



「……こ、こっちから音が聞こえるわ。」


「そうだね。この中で間違いない。」



 前提条件はシンプルだが、達成は極めて難しい。

 相手がこちらにさせたい行動を看破し、思考誘導に掛かっていない状態で演じ切らなければならないからだ。



「入ってみよう。隠蔽は忘れずにね。」


「分かったわ。」



 相手が思考誘導でさせたい行動は、現時点で5つに絞られる。

 具体的な内容は割愛するが、どの可能性でも音楽の方に僕らを誘導したいのは確定だ。

 そう思いつつ中に入ると、中はすでに朽ち果てておりボロボロだった。


 恐らくここに、何か強力な念が溜まっている......通路歩行型の室内アトラクションの可能性が高い。

 しかし他の場所は綺麗に見えて、この場所だけが朽ちた状態で見えるのはおかしい。

 敵の仕掛けた踏み絵の可能性がある......どっちつかずな発言をして出方を伺うしかない。



「ここは……お化け屋敷か何かかな?」


「分からないわ。でも子供達の笑い声が聞こえる。」



 残留思念の子供のメッセージが真実だと仮定すると、現時点で考えられるこの場所の可能性は三つ。


 ・僕達に何かを見せたい誰かの仕業か。

 ・こちらに敵意を持つ誰かが仕掛けた罠か。

 ・元々あったものを敵が罠に利用しているか、の三つだ。


 状況から推察するに、三つ目の可能性が最も高いが確証は持てない。



 ――しかしその瞬間、後方から甲高い声が聞こえてくる。



「あはは。マインドコントロールかかってんじゃ〜ん。良かったぁ。」



 ここで反応するべきか、そうでないかは不明......ひとまず無言を貫くしかない。

 ルシアも上手く隠せたようで、表立った反応はしてない。


 しかし相手の声色から疑っている事は分かる。

 恐らくルシアが途中で漏らした、最適とは言えない返答に違和感を持ったのだろう。



「あれ〜聞こえてない?それともビビって振り向けないのかなぁ?」



 そういうと彼女はふわりと僕の目の前に移動してくる。

 彼女は球状の木の根のようなものを頭に乗せており、不思議な光を纏いながらフワフワと浮いている。


 足腰の筋力量、体の使い方、重心の取り方から、彼女の肉体能力や身体操作の練度はかなり低いと見て取れた。

 つまりこちらから仕掛けるとするのならば、近接戦闘での不意打ちがベスト……か。



「……ルシア。もっと奥へ行ってみよう?」


「分かったわ。行きましょう。」



 はは......こちらの顔を伺いにきたのが仇になったな、バカめ!

 表情、目の動きや纏う気配から、彼女が嘘がどういうものなのか分かった。

 先程の「聞こえないの?」は完全にこちらへのカマかけだ。


 自分から聞こえない方が正解だ、と教えてくれるなんてありがたいほどの低能だ!

 となると、あとはこいつを殺った後の展開......ここに来る前に用意した仕掛けも使う必要がある。

 よし.......この後の展開は大体読めた。光の速度で詰んでやる。







 ――――そしてしばらく進み奥の方にやってきた。



 しかしそこは行き止まりとなっている。

 建物内の構造は空間がねじ曲がったような、不自然な形状をしていた。



「ん?あれは何だ?」


「ル、ルーク?さ、悪寒がする……」



 置いてあったのはボロボロになったクマのぬいぐるみだ。

 風化しているだけで別段変わったところはないが......本能で分かる。


 あれがこの強烈な吹き溜まりの中心だということが。



「吹き溜まりの中心……みたいだね。」


「ルークどうする?」



 すると後ろの方で中に浮かんでいる彼女が話す。



「触る?それとも切り捨てる?どちらにせよ触れたら精神が、おかしくなっちゃうだろうけどね〜。」



 敵が最も油断する瞬間とはいつだろうか?それは......自身の勝利が確定した瞬間だ。

 あとはもう一つ最大の難関をクリアすれば、こちらが圧倒的に有利な状況になる。



「ルシア……何があるか分からない。いつでも根源共鳴ができるように手を繋いでおこう……」


「えぇ……分かった。」


「無駄無駄。そんなんで防げるものじゃないよーだ。」



 バカ相手に心理戦で勝つのは楽勝だな。

 とにかくこれで、根源共鳴もノーモーションで発動できる。

 おまけに根源共鳴さえ発動できれば......ルシアの不調はチャラになる。




 .......条件は全て達成した......








 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 冷静に見えて、実は相手の術中に嵌っていた!?

 しかしルークはその戦略を逆手にとって、反撃の一手を考案する!


 完全にスイッチの入った、ルークの見えているこの先の展開とは......


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!


 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る