50話ー➁ 『暗光』と『濁闇』






 ザラームから漏れ出す殺気が、先ほどまでとは明らかに違う......これは、本物の怒りだ。

 僕は共有している感覚を通じて、ルシアに指示を出す。



「ルシアは周囲に警戒しつつ、全力で僕を強化してくれ。君が思いつくありったけを頼む。」


「でも、ルーク……片手で戦うのは……」


「これ?大丈夫、大丈夫。」



 僕は笑って、さっき切り落とされた右腕を再生してみせた。



「へ?再生阻害がかかってたはずじゃ……」


「切られる瞬間に、自分で切ったんだよ。予め体内に仕込んでた収縮ワイヤーでね。」


「そ……そんなものを予め?」


「ザラームでなくとも、格上と戦う可能性は高かったからね。こういう小細工は必要だよ。再生阻害がかかる前に、自分で切断すればいい。」



 ワイヤーは体の至る所に数センチ刻みで埋め込んでいる。

 そのおかげで、体の至る部位の自力切断が可能になった。唯一の弱点は、新たに再生した箇所にはこの仕掛けがないことだろう。


 ――するとザラームが煽るように話しかけてくる。



「腕が治っただけで何が変わるというのだ?何も変わらん!!この実力差は決して埋まらんぞ!!」



 ザラームが嘲笑するように言ってきたので、僕は煽り返してやる。



「はは。そんなこと言って~。傷、再生しきれてないよ?」



 彼の体の傷は完全に回復しきっていない。

 以前のルシアなら、ザラームの再生を妨げることはできなかっただろう。

 しかし今は違う。彼女は再生阻害術式を組み込み、確実にその再生能力を邪魔している。

 完全に再生力を封じ込めるには至っていないが、ザラームは焦り始めているはずだ。



「核を外した時点で貴様らの負けだ。負け惜しみはよせ!!いでよ。常闇の懐剣。」


「それはどうかな……」



 僕は暗光剣を構えて、静寂の中で待つ。先ほどと違い、ザラームの目には油断がない。

 格下である僕から仕掛ければ手痛いカウンターで一発退場になる。分かっているが故に待っているのだ.......

 そして、周囲に広げた闇の領域で、ルシアの気配も見逃すまいとしている。


 こちらからは仕掛けられないと、そう考えているのだろう。

 しかし、静寂を崩したのは僕の方だった。



「バカめ!!血迷ったか!!」



 ザラームの剣戟と、闇で作られた槍が僕に集中して襲いかかる。

 確実に回避不能、逃げ場のない絶対死の攻撃......。



「ルーク!!」



 ルシアが心配そうに叫ぶ。その顔は恐怖に歪み、僕を守ろうと隠蔽を解いて全力で接近してくるが……

 間に合わない......僕はこの攻撃を食らうだろう。もちろん、僕が本当にそこにいればの話だが。



「グァァァァ!!」



 今死んだのは実像分身だ。しかも即席で作ったものではなく、長い時間をかけて構築し、自身の装備効果まで再現した精巧な分身だ。

 分身体は悶絶の声を上げ、ズタズタに引き裂かれる。



「所詮は弱者の浅知恵だな!!女!!次は貴様だ!!」


「イ、イヤァァァァ!!」



 今のルシアの叫びも演技だ。

 僕はその完成度に改めて感心しながら、隠蔽を解かないまま、ザラームの懐に飛び込んだ。



「暗光・線斬!!」



 光のエネルギーを細い線のように圧縮し、腹部から全力で斜め上に切り上げた。



「ぐぁぁぁ!!何だこれは!! き、貴様生きて......!!」



 さすがは害厄王!即座に僕の隠蔽を見破り、こちらに向き直った。

 しかしその顔は痛みと怒りに満ちており、僕は次の策略もうまくいくと確信した。



「闇の波動で今度こそ消えろ!!」



 ここが正念場だ。ここで殺されれば、この後の作戦は全て無駄になる。



「やってみろ!!」



 ザラームが放った暗黒の巨大エネルギー光線。

 僕は光のエネルギーを収束させ、防御を展開した。

 だが、面での防御では一瞬で破られる。そこで、僕は鋭利な三角錐の結界を構築した。



「何!?しかし、そんなもので防げるわけが……」


「ギリギリ押し負けるか……だったらこの結界、回転させるしかないな!!」



 三角錐結界を回転させる行為は、防御としては逆効果。エネルギー接触面の摩擦を増やすからだ。

 しかし、僕の目的は防御ではなく攻撃だ。



「まさか、この光線の中を突き進む気か!?」


「攻撃は最大の防御だからね!」



 結界の先端をザラームの喉元へ突き進ませる。

 だがあと少しのところで、ザラームの姿がぼやけて消えた。



「はっ、お前たちにできることを、俺ができぬはずがないだろう?実像分身だ。今度こそ本物だな?死んでもらう!!」


「クソ、ここまでか……」




 ――よし、全て計画通り。お前が深手を負う番だ、ザラーム。


 勝ちを確信したザラームの死角から......ルシアが姿を現した。







 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 ルークの細かすぎる罠に嵌っていき、どんどんとダメージを負うザラーム。

 そしてルークの事前仕込みはまだまだ炸裂します。


 死角から現れたルシアの攻撃は成功するのか?


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

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 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!


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