50話ー➂ 実力を覆す戦闘IQ






「クソ……ここまでか……」



 僕が呟くと、ザラームの顔に満足げな笑みが広がる。



「そうだ。その顔が見たかった。その希望を失っ……グァァァァ!!」



 彼の言葉が途中で途切れた。今度は、隠蔽して近づいたルシアが、背後から切りつけたのだ。

 今度の一撃は、爆風で飛ばした剣とは違う。ルシアが全力で放った渾身の斬撃だ。

 深々と背中を裂いたものの、核までは届かなかったが......これまで以上の致命的な傷を与えた。



「ゼェ……ゼェ……」



 ザラームの息が荒くなるのが聞こえる。



「ホントにお前は小物だな。僕に夢中になって、ルシアの把握を疎かにするなんてね。」


「俺は……探知をしていた……油断など……」


「探知してたね?でも、注意深く観察してなかった。だから、途中でルシアが実像分身と入れ替わったことに気づけなかったんだよ。」



 事実、ルシアは僕を助けに来ようとザラームに接近していた。←ここまでは無演技


 そして、僕がザラームに斬りかかったタイミングで距離を取るフリをして、実際は実像分身に入れ替わっていた。

 本物のルシアは、隠蔽したまま接近を続けていたのだ。



「自分を……自分の命懸けの攻撃を囮に使ったのか!」


「そうだよ?最高だろ?」


「最悪だ……」



 ザラームは傷を少しでも回復させようと、会話を引き延ばそうとしているようだが......

 もちろんそんなチャンスを与えるつもりはない。完全に回復されたら、こちらの勝ち筋はほとんどなくなってしまう。


 てか敵が圧縮音声で僕たちに話しかけてくるなよな……



「法術創造!!ホーミングライト!!」


「ベストタイミングだよ、ルシア!」



 法術創造グラディスの力を使って、ルシアが放った超大型神術は空を埋め尽くすように展開される。

 それは一撃だけでも恒星を貫くほどの威力を持ち、その上ルシアが制御をやめるまで自動追尾し続ける。


 万全の状態のザラームなら、これらの魔法はほとんどダメージにならないだろう。

 だが、今の彼は毒によって体が麻痺し、魔力の流れが滞っている。

 さらにその魔力の大部分は回復に使われている。文字通り傷口に塩ならぬ、神術を叩き込んでやる。



「ルシア、一つ一つに毒とデバフを付与して。効果はこれでお願い。」


「分かった。」



 ザラームは瀕死の状態でもなお、その魔法を回避し、打ち消している。

 しかし、僕は次の攻撃に向けてエネルギーを練り込んでいる。今はルシアがメインで戦い、僕は補助に回るしかない。



「ルシア、しばらくメインを頼む。」


「任せて......命に変えてもアイツを倒す!!」



 いや……倒すのは厳しくないか?まぁでもそのくらいの心意気の方が、こちらとしても心強い。

 恐らく僕の予想だとアウルフィリア様が駆けつけるまで最低でもあと3分はかかる。



「こんな……弱者共に!!ヴァラル様の右腕である私が!!」



 ザラームの動きはどんどん鈍くなっている。ルシアの攻撃が予想以上に効いているのだ。

 これは、嬉しい誤算だ。僕はルシアに指示をしながら、弾幕や足止めなどで支援をする。



「ザラームは前方に距離を詰めてくる。その時に強力な融解毒を散布して。恐らく無視して突っ込んでくるから、散布した先に貫通重視の魔弾を大量設置して。右側だけ魔弾の密度を少し下げて誘導......」


「分かったわ。じゃー右に誘導したら、右に集中攻撃を……」


「いや、ザラームは左に避ける。」


「え?なら左に……?」


「いや、必要ないよ。代わりに、今共有したこの地点に数センチの結界を設置して。あと今追尾している魔法の追尾軌道を後方からにして欲しい。もちろん全部悟られないように。」


「ん?は?数センチの結界?と、とにかく了解。」



 僕の予想通り、ザラームは密度の高い左側に回避した。

 彼は密度の低い部分を誘いだと考え、裏をかこうとして左に回避してきたのだ。ホント読みやすい。



「ハハハ!!それが策か!!凡庸だな!!お前の浅知恵で男も一緒に死ぬ!!」



 彼がそう言い放った瞬間、ルシアが設置した極小結界に接触する。

 その瞬間――彼は後ろに飛びのいた。


「え?何で後ろに……?」



 反射的に後方へ飛び退いてしまったのだ。

 僕の仕掛けた術を、体が勝手に警戒して距離を取ったのだろう。


 防御に割くリソースを極小結界だけにできたので、ルシアにかなり余力ができた。

 これでこの余力を攻撃力上昇のバフに割くことができる。



「誘導完了。これで自ら神術に飛び込むバカの完成だ。」


「ルーク……あなた、どこまで……」



 その瞬間、追尾軌道を変更した神術がザラームの背後に集中した。今の彼に回避する術はない。

 閃光が無数に降り注ぎ、ザラームの姿は一気に小型の太陽のような輝きに飲み込まれた。



「クソがぁぁぁぁぁ!!!」



 ルシアの追尾弾が炸裂し、閃光の中にザラームは消えていく。



「ルーク、このままいけば……」


「いや、普通に勝てないよ。ザラームはまだ本調子じゃない。」


「え……?」


「ルシアと同じように、ザラームも何かの不調に襲われているはずだ。でも、それがいつまで続くかは分からない。」



 本来のザラームは、今の数倍の力を持っているはずだ。彼が全力を出せば、十神柱2人でも倒せるかどうかだろう。

 今のダメージも予想外で、ラッキーではあったが、いつ状況が変わるか分からない。



「でも……それなら私たち……」


「生き残るよ。全部読み切ってみせる。もしダメだったら、2人で死のう。」


「……殺させないから。」


「……ほら、制御が甘くなってる。ちゃんと集中して。」



 ルシアの言葉はいつも、僕を強くしてくれる。

 だから、なおさらやるべきことは一つ


 ――絶対に、二人で生き残る。そう、僕は改めて固く決意した。









 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 どうやらルシアと同じ理由の不調を、ザラームが抱えているようで......

 そして段々と成長していくルシアの精神......


 ルークの奇策はどこまで通用通用するのか?


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!


 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!



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