27話ー➁ 無意識下に入る技術!?





「さて。申し遅れました!私武道流の今代の全伝継承者にして、最高師範を務めさせて頂いております 天道 音羽 と申します。師匠からの紹介状確かに承りました。責任を持って指導致しますね!!」



 うわぁこれあれや......

 ルシア師範に入ります宣言したやつだ。案の定ルシアは隣で汗ダラダラだ。


 にしても気づかなかった、この人に覇気がなさすぎて......


 他と袴の色も違うし......

 後ろに大層な刺繍があるから、もしやとは思っていたが......


 まさかこの女性が師範だったとは……

 ん?この人......4代目全神王様が話していた、天界最強の武神じゃね!?



「こちらこそ名乗るのが遅れてました。ルーク・ゼルトルスです。」


「ルシア・ゼルトルスです。」


「ちなみにあの人から何も聞いていないようですが......私の夫は栄治郎さんですよ?

 あなた方の剣術のお師匠の天道 栄治郎です。」


「そうなのですか?いつもお世話になっております。」



 おぃぃぃ先生ぇぇぇ!!!何も聞いてねぇぞぉぉぉ!?



「立ち話もなんですので、さっそくお2人の指導に入らせて頂きますね。指導できる事があれば良いのですが。」


「ご、ご謙遜を……」



 僕らは道着に着替えた。

 どうやら袴は、初段の段位を持つ人から着用が許されるらしい。


 僕らは3級スタート。



「お2人にとっては徒手での技術は、剣では応用しにくいかもしれません。しかし身体操作の技術は様々なところで応用が利きます。ではまずルークさんから始めます。」


「はい!」


「5秒、倒れないでくださいね?」


「かしこまり……え?」



 その瞬間......僕は天井を見ていた。

 体には何のダメージも衝撃もない。気付いたら倒れていたのだ。


 どうやって倒されたのか......

 どうやってやられたのかさえ、僕には分からなかった。



「あらぁ?栄治郎さんったら......本当に剣術ばかり教えているのですね。あの人らしいと言えばそうですが。ルークさん何故倒されたか分かります?」


「全く……分かりませんでした!!」



 どう投げられたかさえもさっぱりだった。

 オマケに、投げ技特有の地面との衝撃も、特に感じなかったのだ。



「うふふ。ルシアさんが不思議そうな顔をしていますよ?ルシアさんどう思いました?」


「ルーク……何やってるの?音羽様は普通に歩いて近づいてきたのよ?その後ゆっくりあなたを倒しただけ……」


「は!?」



 ルシアが見ていた光景ではどうやら、音羽様はゆっくり歩いて近づいてきたらしい。

 だが僕はそんな事に気付けなかった。



「すなわち身体操作を極めれば、こういった事が可能になるのです。今のは相手の無意識下の中に自分を刷り込む技術です。」


「どういう事ですか……」


「今日街ですれ違った人々の顔や、服装。思い出せますか?」


「いえ.....」


「それは目に写っているのに、『無意識に要らない情報』として処理しているからです。そしてそれを、意図的に相手に行えるのがこの技術です。今はルークさんだけに行いましたが......」



 そう言った直後、音羽様はルシアの後ろに立っていた。

 いや恐らくそう見えただけなのだろう。



「このように、この場全員の無意識下に入る事も可能です。」



 今回は僕ら2人とも、音羽様が移動している事を認識できていない。

 ルシアはあまりの恐怖に呼吸が乱れ、冷や汗を流して震えていた。



「こうした無意識への刷り込みをできる人はとても少ないです。しかし対応できるように鍛錬は必要です!」


「そう.....ですね。」



 そうだ......磨いた戦術を、披露する間もなく殺されては意味がない。

 これから更なる強者と戦う上で、これへの対策は必至だ。



「少し身体操作の重要性を分かって頂いた所で!体術に入りましょうか!恐らくお2人にとっては不思議な事が沢山起こると思いますので!」


「「はい」」



 いやもう既に不思議ぃぃ~。

 あたかも今のは大して不思議じゃない、みたいに言わないでくれ......



「ではお次は、お2人でどうぞ。できる限り体術に関連した技術だけで、お相手しますよ?袴の下にズボンのようなものを履いているので、投げて頂いても結構です。」



 そうして僕らは2人で音羽様に向き合った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る