61話ー③ 天輪の亀裂 ~刻まれた決意と繋がる宿命~
――――機密解除から……11日が過ぎた。
僕たちが恐れていたような大規模なクーデターは発生しなかったが、空気は明らかに変わった。
「平和の時代」から「激動の時代」へ──わずか数時間で、その様相は一変したのだ。
四代目全神王への不信感は想像以上に深刻であり、機密を主導した三代目への批判も次々と噴出した。
天上神界に住む多種多様な種族.......それぞれの視点から抱いた怒りや失望の声が、溢れ出す濁流となって押し寄せる。
「ルーク?これから神界はどうなるのかしら……」
ルシアが心配そうな瞳で、僕を見つめながら問いかけてくる。
「それは僕にも予想できない。天上神界は、種族も思想も多種多様だしね……」
「もぉ……そういう答え求めてたわけじゃないのに。」
「僕にも分からないってことだよ……」
事実、世論の反応は分裂していた。
『国家に機密があるのは当然だ』という冷静な意見もあるが......
『隠されていた事実があまりに大きすぎる』とする批判的な意見が大多数を占めていた。
自分たちが長らく侮られてきたことに、怒りを爆発させる種族もいれば......
『そんな敵に勝てるわけがない』と怯える種族もいる。
総じて言えるのは、肯定的な意見がほとんどないということだ。
特に記憶改変の事実や、生活を豊かにする技術の秘匿といった事実は、国民の怒りを煽り立てる要因となっている。
「ルークにも予測できないこと、あるのね……」
「おい.......僕をなんだと思ってるんだよ。」
「じゃあルーク、十神柱はこれからどうなると思う?」
僕はしばし考え込んだ。
機密解除の影響は四代目だけではなく、十神柱にも波及しているからだ。
機密解除により十神柱が、初代から神界を支え続けてきた存在だと明らかになった。
だがその事実は、彼らへの敬意ではなく【機密の首謀核だったのではないか】という疑念を呼び起こしてしまった。
「僕の予想だと、失脚はしない。でも、これまでのような影響力は失うだろうね......」
「それは、具体的にどんな影響を及ぼすの?」
「想像を絶する影響が出るよ。新しい政治勢力の発足、株価の暴落……あとは『ヴァラル対策』と『内部改革』の優先順位を巡って、神界が分裂する可能性が高い。」
「そんな......」
「これまでの支配文明としての地位は、確実に危うくなる。そして僕たちは【ヴァラル対策派】の中心として動く。今後は中立的な立ち回りが、逆効果になるだろうから気を付けてね。」
「わ、分かった......」
あの発表から、ほとんどの十神柱が非難の対象となっている
――アファルティア様はその聖女的なイメージが崩壊した。
モデル業やアパレルブランドは「欺瞞を覆い隠す飾り」と揶揄され利益も激減。
人々の目に映るのは、彼女の慈愛と美しさではなく......その背後に隠された疑惑となった。
――ソロモン様に至っては、彼が学長を務める魔道学園の辞任が決定......
彼が築き上げてきた魔道の名声さえも、神界を欺き.......先のある若者を洗脳した教育であると批判を受けた。
――ギネヴィア様は、働いている姿を見せなかったこともあり、「存在意義が薄い神」とまで揶揄される始末。
彼女の力を知る者がどれだけいたとしても、見せるべき場面を逃し続けた彼女は.......今そのありもしない贖罪を求められている。
最も、本人はどこ吹く風なのだが.......
――――しかしそんな中.......唯一、アウルフィリア様の評価だけが上昇していた。
他の十神柱が非難の嵐に晒される中、彼女だけがその黄金の威光を失うことはなかった。
機密解除によって明るみに出た彼女の功績――
技術革新や経済安定への尽力、戦乱を未然に防ぐ調停の記録......
そんな歴史的事実は......彼女が神界を支えた、最も堅牢で揺るぎない神柱であると証明していた。
アウルフィリア様の存在は.......長年に渡る神界の歪みが露見した今だからこそ、より一層際立っている。
【【アウルフィリア様だけは、違う。】】
そう信じる声は日に日に増え続け.......
その存在は『神界の最後の砦』として、人々の認識に深く刻み込まれていった。
――僕はルシアに話を続けた。
「ルシア……今後の僕たちは、アウルフィリア様と友好的だと強調する必要がある。」
「どうして……悪くない人を悪いように扱えってこと?」
やはりルシアは頭がいい。
今の一言だけで僕が言いたいことを察し、すぐに反論を投げかけてきた。
「多分、これから神界は『アウルフィリア様を新たな全神王にすべき』って意見で溢れてくる。本人たちが対立関係になくても、神民は四代目とアウルフィリア様を対極の存在として見なすだろう。【愚王】と【救世主】という先入観でね......」
「無理よ……アウルフィリア様は政治家じゃない!あの人は騎士……最強の戦士と最高の指導者は全く違うのに......」
「それでも、生き物は期待を捨てられないんだ。現状を変えるために、何かに頼ろうとする。」
「そんなの勝手じゃない……ダメだったら勝手に失望して……神界の民度は高いんでしょ?どうしてそんなに短慮なの!!」
ルシアの言い分は理解できる。
でも、その根本は少し間違っている。
今の彼女は知識があるからこそ、四代目や十神柱の側に立って意見を述べている。
そして、ルシア自身は優れた頭脳を持ちながら、それを過小評価している。
その過小評価が、神界の一般国民に対する不信感となり、感情を先走らせてしまっているのだ。
「それは違うよ。僕たちは人より、多くのことが見える位置にいるだけ。運が良かったんだよ。」
「でも……」
「神民は愚かでも短慮でもない。むしろ国民の側に立って考えずに、感情だけに流されて短慮と言うなら、君の方が愚か者だよ?」
「ぅ……私だって……分かってるよ。でもあんなに尽力してきた人たちがどうして……」
ルシアは僕の言葉を飲み込みつつも、納得できないという表情を浮かべていた。
彼女は僕よりも優しい。
これまで神界のために尽力してきた四代目や十神柱が.......
今まさに悪者として扱われている現実にどうしても納得がいかないのだろう。
「そんなもんだよ?受け止めつつ、気負いすぎないのが一番さ。」
「何でよぉ……」
でも......君はどうかそのままでいて欲しい。
その優しさと純粋さを僕は何よりも救われている......
もし僕が全神王になれたら......
君や君の子供が......純粋なままでいられる神界を、創ってみせる。
でも、今は――
「行こう、ルシア。こうしている間にも状況は刻一刻と悪化してる。」
「ちょっとくらい……うずくまらせてよ……」
「ダメだ。このままじゃヴァラルの思うつぼだ。」
「それは……絶対いやだ。」
ルシアは憔悴していた。
今回の件で彼女の心がどれほど傷ついたか、僕には痛いほど分かる。
でも、もう時間がない。
ルシアには言っていないが、内通者がいる可能性も高いのだ。
「僕たちがヘマをすれば......神界は負ける。これから僕たちの就く役職はそういう類のものだ......だからやろう、二人で。」
「やる......頑張る......」
僕たちは心に決意を刻み、一本道を突き進むことを選んだ。
もう後戻りもやり直しもできない。
――ヴァラルを倒す。
この瞬間......先神が背負ってきたその意思を.......
――僕たちは初めて、真にその身に刻んだのだ――
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで長らく読んでくださりありがとうございます!
とはいっても序盤終了っだけなので、まだまだ終わりはしませんよ!!
批判される四代目全神王、信用失墜する十神柱......刻一刻と忍び寄るヴァラル。
己の進む道と立場をはっきりと定めた、ルークとルシアの今後の運命とは?
そして中幕......遂に始まる全面戦争!!その衝撃的な結末とは......?
もし面白い、続きが気になる!と思った方は
『応援』や『レビュー』をしてくれると超嬉しいです!!
【【お知らせ】】中盤執筆の為、しばし毎日投稿じゃなくなります。
少しお休みを頂いて、根の太い作品を執筆できればと思っています!
また休止中は「仲間集め編」という番外編をちょろちょろ更新します!お楽しみに!
『満輪因果の叛逆譚』はバリバリ平常運行です。
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