61話ー② ヴァラルを殺す化物








「ヴァラルの存在を公表する。これまで隠されてきた初代や2代目の歴史、神界で起こってきた真実.......そして真都の隠蔽など、その全ての機密を解除する。」


「それは......未曾有の大パニックになります!一部でクーデターが起こっても、不思議じゃありません......」



 驚愕の表情を浮かべた僕に続けて、ルシアも慌てて口を開いた。



「そうです!そんなことをすれば、全神王様の支持率は……神王降ろしが始まる可能性だって......」



 4代目全神王はルシアの言葉に対して、ゆっくりと深く頷く。



「私はこれまで......神界をより豊かにしようと、懸命に向き合ってきたつもりだ。そうして臣民の生活は確かに豊かにした。しかし……私は民のにはなり得なかったのだ。」


「心の......柱?」


「心の柱だ。3代目もその前の先代達もそうだった。何を成したかではなく......かなのだ。 民の心に安堵というくさびを打ち込めなかった王……それが私、四代目全神王ゼレス・サーラントだ。」



 僕は何も言えなかった。確かに、4代目は確実に神界に平穏と豊かさをもたらした名君だ。

 しかし、何故だか「絶対的な神の王」という印象を感じたことはない。


 客観して見れば神界の歴史上、最も安定している時代にも関わらず……

 誰もがこの先の未来に少なからず不安を抱いている。


 ......そして沈黙を破るように、アウルフィリア様が口を開いた。



「ゼレス、それ以上はよせ。お前は十分に名君だ。先代は2代目による印象操作があったのも事実。本当に『神の王』と呼ばれるに相応しかったのは、恐らく初代ちちうえだけぞ?」


「アウルフィリア様。十神柱の皆さん......あなた方がいなければ、今頃私は......四代目全神王を失脚しています。」



 するとアファルティア様が微笑みを浮かべ、穏やかに言った。



「生き物は助け合うものですよ?何かあればいつでも頼ってくださいませ。立場上、こんなことを言うのは憚られますが......私たち十神柱にとって、あなたは愛娘のような存在なのですよ?......ギネヴィアさんと彼には特にそうだと思います。」


「......部下たちが見ているのですから、無様な姿はもう晒せませんね。ルーク、ルシア、今の話は忘れてくれ。」


「心にしまっておきます。それはそうと、十神柱の皆様に一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」



 十神柱の4人は一瞬目を顔を見合わせ、誰が答える?という無言の会話をしている。

 ――そしてアウルフィリア様が代表して答えた。



「構わぬ。述べてみよ」


「先ほど真に『神の王』と呼ばれるに相応しいのは初代だけ、とお話ししていましたが......2代目は『神の王』と呼ばれるに相応しくなかったのでしょうか?」



 アウルフィリア様は少し黙った後......威厳に満ちた声で静かに話し始めて。



「......あの方は指導者ではなく戦闘者だ。神の王、というよりは最狂の戦神と呼ぶのが正しいだろう。」


「そ、それほどの存在だったのですか?」



 指導者ではない?これまで二代目の情報リソースは、ほとんど雷華様の話によるものだった。

 しかし、段々と二代目の人物像も掴めてきた気がする......


 次に口を開いたのはアファルティア様だった。



「正直、暴君......と言っていいでしょう。逆らう文明には草木も残さず鏖殺を命じ......その姿勢は民に対しても貫かれました。ですが、間違いなく『無敵の王』でした......何せあの方は、ヴァラルを97回殺していますから......」


「は……?」


「これまで、ヴァラルの死因のほぼ全てが『灰の神』によるものです。」



 確かにその部分については、前々から疑問があった......

 何度消滅しても蘇るというのは、何度も殺していなければ分からない事なのだから......

 しかしまさか......一人が何度も殺しているとは想像もしていなかった。



「あの方は......頂にさえ屈しない究極の意思です。この世全てのの支配者でもあります。 私は初めてあの方の前にした時......お恥ずかしながら、恐怖にあまり失禁したほどです......」


「負の支配者......?」



 ――するとアウルフィリア様も再び重々しく口を開いた。



「ティア嬢。そのあたりにしましょう......今の彼らにまだ理解は難しいでしょう。」


「そ、そうね......必要とあらば、娘も妃も惨殺する人ですし......」


「......事実あの家族自体、それを良しとしていますから。」



 ......二代目全神王、尋常じゃないレベルのヤバい奴じゃん。

 え?こんなヤバいパパが大好きな雷華様って.......変態なのか?


 テラリス様が自分から一切、父に触れなかった理由が分かった気がする......



 ――こうして僕たちはさらに議論を進め、ヴァラルの動向と新組織の役割について確認した。

 遂に正式にヴァラル対策特別組織の最高責任者として任命されたのだった。






 ―――帰り道



「ルーク、組織のメンバーはどうするの?全神王の実績作りにもなるし、規模を大きくした方がいいんじゃない?」


「いや、基本行動メンバーは少数精鋭にするよ。広げるのは組織じゃなく繋がりだ。僕らに属さない集団との連携で、それ以上のパフォーマンス出して見せる。」


「そんなこと可能なの? そうなると外注になる部分も多いのかしら?それって質は担保できるの?」


「もちろん!明確な基準値を公表して外注同士で競争させる。いざとなったら即切り捨て、という焦燥感を利用すれば質は担保できる。 神界なら可能だよ。」



 天上神界は超複合文明だ。さらにヴァラル専用の対策組織となれば、協力を申し出るものは後を絶たないだろう。

 企業イメージや技術力のアピールにもってこいなのはもちろん、みんな自分の命が掛かっているのだから。


 エリーの知恵も借りて金も運用できれば、神界経済に大きな好循環を生み出せるだろう。

 そしてその中心にいるのが僕だと認知してもらえれば......一つの実績にはなるだろう。

 当然不足の事態や想定が甘い部分もあるだろう、それは天上神界政府の積極支援で補完できる。



「あ、あくどいわね......で?メンバの心当たりは?そもそも何をもってヴァラル対策とするの?」


「まず、天上神界が手の届かない範囲でもヴァラルの動向調査......そして管理者との接触とパイプ。だけど最初はほとんど4代目の意向に従う形になると思う。」


「そうなの?私まだ話を飲み込み切れてないんだけど......」


「ヴァラルだけに特化した組織が欲しい、ってうのが本音だろうね。多分50年くらいは敵も全面攻撃はしない。それまで組織の強化に努める感じになると思う。」



 組織として完全に本領を発揮するまでは、恐らく神界の目になり足になることだろう。

 何せこれまで秘匿していたが故に、神界はヴァラルに対し自由に動ける体制も組織もない。


 ......でもこれは見返りを期待させてもらいますよ、四代目。



「幹部の一人はエリーちゃんよね?巨大なスポンサーにもなるし.......他はベレスたち?それ以外は?」


「何人か心当たりはあるよ。そういうルシアは誰かいないの?」


「......気になる人材はいる。」


「ひとまず......仲間集めだね。僕の方は曲者ばっかりだから、ルシアにも付き合ってもらうよ?」


「ここまで来たら、どこにでも付いていくわよ......」



 この日、僕たちは本当の意味で悪に立ち向かう事を決めた。

 これがこの後の運命の最大の分岐点の一つとなった......



 ―――しかしこの時の僕は知らなかった。

 ―――残された猶予はあと僅かもないという事を......









 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★



 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 ヴァラル対策組織のリーダーに任命されたルークとルシア......

 しかし、この先待ち受けているのは、前提条件を全て破壊する出来事だった。


 次回ついに序盤の最終話、輝冠摂理の神生譚は新しいフェーズ


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 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!



 【【お知らせ】】中盤執筆の為、しばし毎日投稿じゃなくなります。





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