65話ー③ 深淵の瞳孔
濃い.......
ひたすらに濃く重い.......
深淵が、骨の髄まで入り込み全身を締め付ける。
腕の中に感じる温もりだけが、僕が僕であることを再認識させる。
視覚も、聴覚も、感覚そのものが深淵に呑み込まれ、すり潰される。
押し潰され、すり切られ、削ぎ落とされた余分な何かが、絶対的な深淵に還っていく。
終わりなき深淵への落下――それ以外の形容はない。
上も下も分からないが、ただ「落ちている」という事実だけは鮮明に理解できる。
――でも僕は、確かにみた......
闇の中に、それは浮かんでいた。
燃え盛るような朱印の瞳孔が脈打ち、その周囲を黒い霧が絶えず渦巻いている。
輪郭はなく、しかし確かに「目」としてそこに存在しているのだ。
形を持たぬはずの縁が周囲の空間を歪ませ、深淵そのものが目を形作っているかのような不気味ななにか。
ただ......見られている事だけは理解できる。
「何だ......あれは.......」
――瞬間......強烈な衝撃が襲い、僕の身体は巨大な壁に叩きつけられた。
受け身を取ろうとしたが、間に合わず、全身が軋む音を立てた。
それが「地面」だと気づくまで、数秒の時が必要だった。
「ルシア……無事か?」
声をかけるが、彼女は応じない。しかし腕に伝わる力ははっきりしている。
彼女は石像のように硬直し、決して僕を離そうとはしなかった。
その間に、僕は辺りを見回す。
そこは空中に浮かぶ要塞のような場所.......だが、要塞というよりも檻に近い印象を受ける。
至る所に発光する鎖が絡みつき、その不自然な光景が、目に見えぬ圧迫感を伴って迫ってくる。
「四代目……見当たらないな……」
四代目がどこにも見当たらない......先に中に入ったという可能性もあるが、何か胸騒ぎがする。
そんな思いを振り払うように、ルシアの抱擁がさらに強くなる。
「ルーク……」
「おはよ。君さ......起きたあとの第一声必ず僕の名前だよね......癖になってる?」
「い、いいでしょ、別に……」
「とりあえず目的地には付いたよ?」
ルシアは目をぱちぱちと瞬かせ、辺りを見回す。
完全に挙動不審な動きには怯えが混じっているが、幸い気にするべき相手さえ周囲にはいない。
「入口を探さないとだわ。」
「お、今回はお姉さん口調戻るの早いね?」
「っ......とにかく!入口を手分けしないで探すわよ!!」
「怖いの?......とからかいたい所だけど、2人の方が安全だね。アニメとか漫画でも手分けして〜の後は大抵ロクな事にならないし。」
探索を始めると、この要塞がただの建築物ではなく、古の城である事が分かった。
壁面に刻まれた文字は、かつて薬草屋で見た霊薬の立て看板と同じもので、多少なら解読できる。
しかし問題は侵入だ.......結界に阻まれ、どこをどう探しても中へ入る手段は見つからない。
飛び越えたりしようにも、光子エーテルの量すら制限されている状況では打開策が見当たらない。
「使えないなぁ、光子エーテル。折角手に入れはばっかりなのに、出番なしか。」
「ルーク、これを見て?」
「え?何が?てか何を探してたの?」
「プラグ穴よ。エネルギーを封じる空間なら、何で結界を維持してると思う?そこには絶対に結界を維持する為のシステムがあるはずよ?システムがあればプラグがある可能性は高いわ。」
入口じゃなくケーブル接続口を探しているとは......相変わらずの着眼点だ。
「なるほど……でも、プラグって言ってもいろいろあるだろう?電力用とか、データ入力用とか、それにワイヤレスかもしれない。」
「叩いてみて分かったわ。この擁壁の密度からして、複雑な機器が中に内蔵されている。そしてこの継ぎ目や、独特な音からアナログである可能性が高い。だからこのくらい不思議じゃないの。結界が維持されている以上、外部からのアクセス手段は存在するはずよ。いくら何でも入り方のない場所には送らないでしょ?」
「機械の事になると突然長くなるな......普通に入り方なんて無いパターンもあると思うけどね?」
「それはルークがひねくれてる証拠よ。」
互いに言葉を交わしながら、次なる手がかりを求め、歩みを進めていく。
まぁ、言われてみればその通りだ。一応3代目の計らいでここまで進めたのだ。
入り口そのものが存在しないというのは、流石に意地が悪すぎる。
そもそも、接触する意図が本当にないなら、ここに入る許可など出るはずがない。
「でも魔力が使えないんだよ?収納魔法で亜空間にもアクセスできない。
光子エーテルで代用しようにも、君のシステム端末を出せるサイズの穴を開けられるの?」
「システム端末ごときじゃ侵入できないわよ......それにちょっとなら光子エーテルを使えるのよ?魔力みたいに時間が経っても気化しにくいなら、小さなパーツを作って組み立てればいいわ。ルークも協力して?」
「……あんな複雑なもん組み立てられるのかよ。僕でさえ無理だぞ?」
「あのね……いつも使ってるあれも自作よ?」
「……マジすか。」
信じがたいが、ルシアがそう言うなら本当なのだろう。
僕の自宅には、彼女が本腰を入れるときに使うメインコンピュータが置かれている。
最近はハッキングの腕が上がり、神界の電子パネルが進化したことで出番が減っていた。
しかし、どうやらここで再び日の目を見ることになるらしい。
やっぱデカイのは正義なのかもしれない!
そう思いつつ、僕たちは組み立てを始めた。
「そのパーツは違う!こっち!あと組み立て順もそこ違う!」
「??同じやん……」
「どう見ても違うでしょ!よく見て!構造と使用金属を!!」
「……えぇ?」
ルシアの指摘にボロクソに言われながら、数時間が経過――
ようやく、遥かなる世界の深淵に巨大な浮遊型複数球コンピュータが完成した。
「久々に気合い……入れるわね。」
「いつも入れてないのかよ。」
「ぅ……入れてないです。」
「……おかげで真都にハッキング筒抜けしたわけだ?」
「ぅぅ……いじめないで……」
そ今後はそんなライトな感じでハッキングされては、組織の命運に関わる。
まぁルシアを天才ともてはやして、使い倒していた僕の責任でもあるのだが.......
「とりあえず頼むよ?」
「うん――フゥー......」
――来た。ルシアの極限の集中モードだ。
決して僕には真似できない究極の超一点集中状態。
目にハイライトが消え、瞬きすら忘れたその姿勢。
余分な感覚を一切削ぎ落とし、目の前の一点だけに意識を注ぐ彼女の集中力は異次元だ。
「自分の特性にも気づいてないもんな……」
「……」
浮かび上がる文字や立体図形は、空間の中を縦横無尽に動いている......
その全てをルシアは凄まじい速度で操作していた。
途中で一瞬止まる場面もあったが、それでも彼女は休まず操作を続けていた。
――そして、二時間後......遂にルシアの手が完全に止まった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
辛うじて意識を保ち、辿り着いたのは巨大な監獄城。
しかし入口が見当たらなく、ルシアがシステムを書き換えることに??
次回......ついに禁忌の秘匿存在が降臨する!!
もし面白い、続きが気になる!と思った方は
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【【お知らせ】】中盤執筆の為、しばし毎日投稿じゃなくなります。
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