65話ー④ 禁忌の秘匿存在







 ルシアは空中に浮かび上がる文字や立体図形を凄まじい速度で操作している。

 途中で一度止まる場面もあったが、それでも彼女は休まず、ひたすらに集中を続けていた。


 ――そして二時間後、ついに彼女の手が完全に止まる。



「ルーク……何分過ぎた?」


「2時間11分。随分長かったね?結構手こずったでしょ?」


「すごく苦戦した……このシステムを一から創った人は天才.......いえ神域だわ。」


「で?中には入れそう?」


「もちろんよ。でも......私が二時間かけてもそれが限界よ。」



 ルシアは中心に浮かぶ大きなシステム球体を回転させる。

 その操作に応じるように、城の結界と塀が複雑に組み変わっていく。


 まるで生きているかのように、発光する構造がゆっくりと形を変え、繊細なリズムで動き続ける。

 そして、僕たちの目前にある城壁が左右に分かれ、まるで巨大な渓谷のような裂け目が現れた。



「見た目以上に分厚い城壁だな……とにかく中に進もうか。」


「内部構造もマッピングできてるわ。目的の存在も中に確認。この監獄の中心にいるわ。」


「中心か……OK。根源共鳴が使えない以上、最大級の警戒をして進もう。」


「そうね……一応、こちらでもいくつか対策は作っておいたから。」



 四代目が未だ到着していないことが気がかりではある。しかし、今は僕たちだけで進むしかない。

 彼女の無事を願いながら、僕たちはモーセの奇跡のように開いた監獄の外壁を抜け、慎重に中へと足を踏み入れた。



 ――数十分後。


 僕たちは複雑に入り組んだ通路を走り抜けていた。ルシアのナビゲートは正確で、迷うことなく進む。

 彼女の言う通り、マッピングした地図との差異はほとんどないらしい。


 しかし、僕はこの通路の形状に違和感を覚え始めていた。



「この通路構造……それに、この太さと比率……」


「えぇ......多分未だ私達が発見していない、未知の構造形態ものよ。」


「ということは……ここに封印されてるというより、この場所そのものが封印監獄として機能しているんじゃないか?」


「建造物そのものが監獄として精巧に機能する仕組みってこと?それならあの不可解なコードも納得だわ。」



 ルシアが言う不可解なコードが具体的に何を指しているかは僕には分からない。

 しかし、この場全体が巨大な封印装置だとしたら――それを必要とする「何か」は一体何だというのか?


 そんな思考の中、突然ルシアが叫ぶ。



「そろそろ着くわ!気を付けて!!」


「分かった!」



 僕たちはさらに警戒を強め、通路を走り抜ける。そして数秒後――

 僕たちは通路の出口を抜けた瞬間、あまりの光景に息を呑んだ。



「これは……」


「宇宙空間?ここまで来て?」



 眼前には星々が淡く瞬き、その光の中に浮かぶ広大な宇宙空間が広がっていた。

 しかし僕たちの意識はその中心にいる異様な存在に釘付けになっていた――


 巨大な目玉だらけの液体剣が突き刺さった男がいた。

 全身を覆う鎖や封印札......その数は膨大で、鎖の先がどこに固定されているのかすら分からない。

 それは生物であると同時に、存在そのものが異質な“概念”の塊のようだった。



「何よ......これ。」


「どうして四代目の育て親をここまでして......?」



 ――すると、頭の中に直接響く声がした。



【ニヒルか?いや違ぇ......誰だ?】



 声が低く、深い響きは魂そのものを揺さぶるようだった。

 しかし、言葉を慎重に選ばなければならない。この存在は、生命体ですらない可能性が高い。

 ましてや今の僕たちは魔力を封じられ、光子エーテルも制限されている......まさに丸裸同然だ。



【警戒しなくていい。危害を加えるつもりはねぇからよ。】


「ならどうして封印されたのかしら?」


【......存在自体が禁忌なんだよ。それに、アウルさえいりゃ、別に問題ないだろ。】



 アウル......アウルフィリア様のことだろう。


 呼び捨てにする態度から、彼女とは親しい間柄だったことが伺える。

 友好関係を築ける相手ならば、人格に問題がある可能性は低い。


 もちろんこの話が本当だと仮定するなら......の話だが。



「結論から言う。ヴァラルが動き出した。今、僕たちはその対抗組織のメンバー候補として君を見定めに来たんだ。」


【ワリィ......外界には行けねぇ。管理者だっていんだろ?本当に危機なったら呼んでくれ。】


「それじゃ遅い。危機が訪れた頃には、もう手遅れなんだよ。」


【何と言われようと、ここから出る気はない。俺はここ以外にいちゃいけねんだ......】



“ヤバすぎる力”――そんな危険な力なら、ますます欲しい!

 仮に彼を被検体にすれば、未知の力を技術に転用できる可能性もある。

 現時点で見た限りでは、人格に問題があるようには思えない。


 いや......むしろ僕の友人と比べるとまともだ。

 その時、ルシアが耐えきれなくなったのか声を上げた。



「どうしてよ!そんな理由で守れる命を守らない気!?なら頂戴よ!!私はもっと全部を守れる力が欲しいの!!」


【ワリィな......この力は渡せねぇ。】


「あぁ!もういいわ!!無駄足だったわ!!ルーク帰りましょう?こんなのに時間をかけても無駄だわ!!」


「え?まだ何も交渉してないけど!?」



 ルシアが初対面の相手にここまで腹を立てるのは、非常に珍しい。彼女の琴線に触れてしまったのだろう。

 ここ最近、自分の無力さに打ちのめされているせいか、力があるのに助けない彼の行動に強い苛立ちを覚えている。



「行くわよ!もういい!!」


「ちょっと待て。僕は行かないぞ?感情に流されるな。見据えるべきは君の不快感じゃない。」


「ならゼレス様を探してから戻りましょ!その間に頑張って頭冷やすから......」


「えぇ......あんなに怖がってたくせに......」



 ――ルシアが踵を返そうとした、その瞬間だった。



【おい......待て。ゼレス来てんのか?】



 声に微かな焦りが混じった。その一言に、場の空気が一変した。







 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★



 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 会ってみた禁忌の秘匿存在は以外にも普通のおじさんで......

 戸惑うルークに何故かご立腹なルシア、しかし四代目の名前を聞いて雰囲気が一変?


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!



 【【お知らせ】】中盤執筆の為、しばし毎日投稿じゃなくなります。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る