第52話 進化そして最悪の剣...

52話ー① 輝光の鱗片





「任せて。死んでもあなたの隣を走り続けて見せるわ。」


「できれば、死なずに頼むよ?」



 ルシアの言葉にわずかに微笑みながら、僕は目前に迫る高速接近反応を見つめた。

 その距離と魔力の波長からしても、おそらくザラームだろう。


 まさかあんな大規模な策を成功させても、倒しきれないなんて……もうこちらに残された策はほとんどない。

 ザラームとの戦闘開始前に仕込んでいた罠も、ほぼ全て使い果たしてしまった。



「ルーク?」


「……」



 そもそも、今のザラームの状態が不明だ。

 瀕死のままなのか、それとも何かしらの回復手段で元に体を治しているのか……

 考えを巡らせるが、状況は不明瞭なままだ。


 ザラームは依然として瀕死の重傷なのか、それとも何らかの回復手段を使ったのか……

 速度の速さからして、ザラームとは別の何かという可能性も否定できない。

 まさか幻術?確率は低いが、最悪としては走馬灯の可能性も?


 ……だめだ、考えがまとまらない。とめどなく溢れてくる数多の可能性が僕の判断を鈍らせる。



「ごめん、ルシア。今、策が何も浮かばない……」


「なら、私の考えた無謀な策に乗ってくれない?」


「え?」



 ルシアの口から語られた作戦は、最適解とは程遠い、非常に単純な内容だった。

 しかし、今の僕には他に思いつく手も手がない。迎撃態勢を整え、ザラームを迎え撃つ。








 ――十数秒後......




「どこだ!雑魚どもが!!」


「おい。」



 僕は隠蔽を解き、ザラームの目の前に立ち塞がった。

 ザラームの傷はまだ深い。しかし、その肉体は確実に回復に向かっている。

 やはり、僕は……読み合いに負けたのだ。自分が戦略で負ける日が来るとは......



「次はどんな小細工を仕掛けている?素直に白状すれば命だけは助けてやってもいいぞ?」


「はっ!見え透いた嘘すぎてシラケるな。それとも……怖いのか?」


「挑発には乗らん。冷静に貴様らを嬲り殺……」



 ザラームが言い終わる前に、僕は彼へ斬りかかった。

 無駄なやりとりは不要だ。今、この瞬間も僕が求めるのは勝利なのだから!



「ちっ、血迷ったか、馬鹿め!!」


「そうだ!!」



 遠距離攻撃も、策も魔法も一切使わない。ただ僕一人が、肉弾戦でザラームに挑む。

 それが、ルシアが導き出した答えだった。ルシアの作戦は僕たちが急成長することを前提に作られている。



「ならば……死ね!!」


「断る!!」


「闇の……逆鱗!!」


「!?」



 ザラームが叫んだ瞬間、闇がざわめき、どす黒く鱗が宙を舞い始めた。

 そしてその鱗が彼の体にまとわりついていく。全身が逆鱗で覆われたその姿は、まるで龍人のようだ。


 その威圧感は以前と大差ないが、この鱗がただの防御手段ではないことは明らかだ。

 かなり高い防御力を誇る鱗……またはカウンターの役割を果たす何かの可能性が高い。



「貴様を殺すのが先か!俺が死ぬのが先か!!削り合いだ!!」


「はは、厄介だな……」



 もし、これがカウンター技なら、ルシアの作戦は半分以上崩れる。

 ――逆を言えば半分しか瓦解しない。



「ここで!!貴様らを仕留める!!」


「光の翼燐……」



 何故だろうか……頭にイメージが浮かぶ。ザラームの力に対抗するイメージが。



「そんな猿真似が通用すると思うか!!」


「あぁ……楽しい……」


「な、に?」



 その瞬間、ザラームの背筋に悪寒が走った。論理的に導き出されたものではない。

 本能だ――今、この男を殺さなければならない。生かしておけば、とてつもない脅威になる。


 そんな漠然とした焦燥感......



「ヴァラル様!こやつは……!」



 ザラームは上位の存在へ助けを求めるが、ヴァラルの指示に変更はなかった。



「もっと……光を、もっと自由に!!」



 イメージしろ。この場を光で埋め尽くす。止めどなく溢れる光の波動を――押し広げろ。

 世界に押し広げる。闇を光で打ち払うイメージて!中から無限に溢れ出すイメージで!!



 ――濃く、広く、速く!!光を闇に押し付ける!!!



「何なんだ……何なんだ貴様は!!!」



 思い浮かぶ限りの全てを具現化すればいい。手段に縛られるな、戦闘行為そのものを制約するな。

 召喚、剣戟、爆破、デバフ……それぞれの完成度を落とさず、全て同時に展開すればいい。

 今、ここで終わりを迎えても構わない。ありったけの力を――


 この先、全てを失うことになってもいい。だから今この瞬間、ザラームと戦える力を……!

 1秒後に死んでしまう強度の攻撃を、絶え間なく打ち出し続ければいい。

 そして次の行動はさらに強く、さらに自由に!!


 きっと一秒後に死ぬ僕を......ルシアが生かしてくれる。きっと同じ速度で高みへ歩んできてくれる!!



「いい……凄くいいな!!分かってきた!!輝源エーテルの核心が!!掴んできた……僕達の存在の本質を!!」


「何を言っている!!……ありえん、いくら重傷で弱体化していようと……この俺が!こんなにも一方的に!」


「ハハハ……アハハハハ……!」


「グバッ……何を笑って......」



 その瞬間、ザラームの心を支配したのは――恐怖だった。

 確かに二人の力は、限界を超えて高まっているが......それでも実力は辛うじて自身が上回っているはずだ。

 瀕死のルークに対して、圧倒的に優位な立場にあると思っていた。それなのに――。


 ザラームは感じてしまった。自分より弱いはずの相手に恐怖を――

 負ける、そして殺されるという思考が、頭をよぎった。

 それはある意味で必要な思考かもしれない。だが、同時にその恐怖は彼の選択肢を狭めていった。



「やめろ!ふざけるな!!この……俺が!」


「楽しい……自由だ。」



 ザラームは、半ばパニックに陥っていた。自分に言い聞かせるように同じ言葉を繰り返す。

 それは、彼の高すぎるプライドのせいなのか?それとも、深層に隠された劣等感か?


 そしてついに震えきったザラームの本能は……

 遂にヴァラルの指示とわずかに異なる行動を選択してしまった。



「なっ!?」


「終わりだ。」



 その瞬間を......限界を超え、極限状態のルークが見逃すはずもなかった。



「ハァァァァァァ!!!」


「クソがぁぁあああああ!!!」



 一点集中の一撃――そんな制限された手段は取らない。

 一点集中の一撃を、無限に叩き込めばいい。矛盾していることはわかっている。

 だが、今の僕ならそれが可能だという確信がある。




 ――限界の限界の限界の……更にその先の世界へ――




「残光……」


「やめろ!俺は!!俺はまだ何も!!!うおぁぁぁぁぁぁ!!!」



 召喚した魔道兵、飛び交う無数の魔法弾、光で再現された銃火器、化学兵器、散布される毒――

 そして僕自身の剣撃。全てが瞬きの間に、一箇所に集中した。

 今のザラームに、防ぎ切れる力はもうない。もはやヴァラルの指示でどうこうなるレベルのものではない。



「ルー、クが……勝った?」



 巻き上がった粉塵により、ルシアも僕も、視界の先にあるものは何も見えない。

 だが、確信している――ザラームを殺した。絶対に避けられるはずがない。



【……………】





 その後の展開を全て予想し切っていたのは……




 ……ヴァラルただ1人だけであった……







 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 ルシアの作戦に乗ったルーク......

 その作戦は自分たちの急成長を前提にした、少年漫画のようなものだった。


 意外にも上手くいった作戦の結末は?


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!


 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!

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