第12話 光を覆い隠す暗がり

12話ー① 片割れの力でも......覗けない? 





  2日も!? ただ気配斬りを受けただけのはずなのに......

しかし、ルシアの頬を伝う涙を見て、それが真実であることを悟った。


 窓の外は夜の静寂に包まれており、薄明かりが部屋を淡く照らしている。

ルシアの涙が、僕がどれほど長く意識を失っていたのかを物語っていた。


 部屋には緊張が溶けたような安堵感が漂い、静かな夜の光がカーテン越しに差し込んでいた。



「ずっと片割れの力で呼び掛けてたのよ?目が覚めて良かった......」



 片割れの力で呼びかけていたのなら、ルシアも相当疲れているはずだ。

彼女の消耗が心配だ。



「し……仕事も休んで2日も根源共有を?それも抱きしめたまま??」


「ちょ!? うるさいわね! そういう事はいちいち突っ込まないで!」


「!?」



 根源とは僕らの存在全てを司る、魂や精神よりも遥か奥底にある存在の核心なのだ。


 それを2日も繋げていたとなると、ルシアの疲労や消耗は計り知れない。


 根源を繋げることで、記憶や痛み、感情が互いに流れ込み、さらには思考や自我まで影響を受ける。


 そのため、自分自身を保つだけでも大変な負担がかかる。

心配していると、ルシアがその心を察したようで、優しく教えてくれた。



「大丈夫。根源を繋げたのは1時間前からよ。だから心配しないで? 根源を繋げて呼んだらすぐに起きたもの。」


「1時間も?……ルシア。僕も休むから今日はもうゆっくりしよう。流石に心配だ。」



 数分間でさえも、想像を絶するほど辛い。

僕も以前、ルシアが瀕死の状態に陥った時に使ったことがあるので、その苦痛は理解している。


 誰かの痛みや人生が流れ込むことは、それだけで辛いことなのだ。

僕たち生命体は、一人分以上の感情を許容できないように作られているのだから。



「流石に休むわ......そこまでバカじゃないから。」


「ルシア......ありがとう。」


「ちょっと……いきなり何よ……もぉ。」



うん?今はちょっとツンモードらしいな。



「あなたのためならこのくらい......だから気にしないで。」


「あぁ。そうだね。僕もそうだし?」


「ッ……くぅ」



 ルシアはあからさまに照れていた。顔を赤くし下を向いて隠そうとしている。



「そういえば……何か変な夢を見てたんだよな……」


「聞かせて! 意識がない時どんな夢を見てたの?」



 ルシアは一瞬で深刻そうな顔に切り替わった。

先ほどまで赤面していたのが噓のようだ。


 しかし一つ不可解な点がある。



「ん? 根源共有の状態だったのに、僕の夢を覗けなかったの?」


「えぇ……だから今の話を聞いて変だと思って……」



 つまり、あれは単なる夢ではないのか?

もっと深い部分に根ざした、僕自身が忘れている真実の断片か? それとも、ただの幻想か?


 その疑問は僕の中で渦巻き、答えの見えない迷宮へと導いていく。

現実と夢の境界が曖昧になる中、僕はその真相を求めて思考を巡らせた。



「ひとまず休んでからにしよう。ルシアの顔色も良くないし、明らかに疲弊してるから。」


「分かった......後で聞かせてね?お休み......」


「お休み~。」



 ルシアは僕に対するホールドを更に強化してベットに横たわった。


 神族にとって睡眠は確かに必須ではない。

しかし、疲弊した時には精神の整理や自然治癒力の向上といった効果をもたらす。


 寝なくても回復はするが、眠ることでその回復が早まるのだ。

特に精神的疲労が大きい時には、回復手段として睡眠が重宝される。


 神族の体が休息を求める理由は、単なる肉体の疲れだけではないのだ。

しかし個人差がかなり大きく、特にルシアは睡眠での精神的疲労回復効果が大きいらしい。


 とにかく僕も眠りについた。


深い......深い眠りに。


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