22話ー➂ 究極の悪意






「こんな事は王の立場として言うべきでは無いが、この神界の秩序は磐石とは言えない。知っているか?十神柱とは名ばかりで、もう彼らの半分が表舞台から退いているという事を。」


「「!?」」



 それは知らなかった......

 十神柱の内、国民が認知しているのは4人しか居ない。


 しかしそれも、現在5人しか十神柱がいないなら確かに辻褄が合う……



「かつて先代の頃......神界は今より栄えていた。現在では軍事力、経済力、団結力、そして新たに神界に参入してくる、若者の潜在能力までもが......降下の一途を辿っている。」


「......そう、ですか。」



 参入してくる若者の潜在能力?

 それは次代の担い手の才能や、潜在的な成長限界という意味か?



「にも関わらずだ!脅威は3代目の頃と比べて、むしろ膨らんでいる......」


「その……脅威とはヴァラルの事でしょうか?」



 軍事力、経済力が以前より衰えていることは知っていた。

 しかし未来の担い手の潜在能力までも落ちているとは……


 もしかすると、全神王はただの役職では無いのか?

 話し口からして、神族の階級に座する者以外に、何らかの影響をもたらす可能性が高い。



「……今のヴァラルは封印されている状態だ。いわば今のヴァラルは残りカス......己が悪意だけなのだ。」


「……意思のみの存在が、肉体を得ることは可能なのですか?封印を意識だけで抜け出すなど、とても現実的には聞こえません。」



 ビンゴ!やはり「ヴァラルが封印されている」という情報を上層部は握っている。

 つまりこれは意図的な隠蔽工作に、十神柱や全神王が携わっている裏付けだ。


 しかし封印というと、引っかかる事もある。

 意思だけを封印から抜け出けださせるなど、可能なのか?


 魂や根源を、封印された状態で精神だけ抜け出し......

 さらにその後、長い時間存続するなど、常識的に考えてありえない。



「私達では不可能だろう。だが、ヴァラルほどの猛者になれば不可能とは言い切れない。

 だからこそ封印が解けてしまえば、私達では到底太刀打ちできぬ。」


「それは……天上神界最強......アウルフィリア様でもでしょうか?」



 4代目は少し悩んでから話し出した。



「それは......分からない。はっきり言う。アウル様は十神柱の中でも次元が違う。十神柱の誰も彼女の強さを測ることが出来ないのだ。神界で黄金神の強さを測れる域にいるのは......剣神・栄治郎と武神・音羽の2人だけだろう。」


「し、師匠が!?」



 十神柱並の実力者とは聞いていたが、それ以上だったとは……



「何度も十神柱に勧誘したが......断られていてな。それもそのはず、十神柱は一般の国民に過度に肩入れをできない。彼らは自身の道場に異様な執着がある。まぁ……未来の担い手を育ててくれる故、良いのだがな。」


「言いそうですね。あの師匠は信念でしか動きませんから。」


「私達よりお金もってないですものね……」



 師匠は貧乏ではない。

 ただ実力順当にいけば、僕らよりも遥かに高収入のはずなのだ。



「無駄話が過ぎたな。今回の謁見は公的なものではない、他言無用だ。それと遺跡調査の件は準機密事項だ。情報の漏洩には気をつけてくれ。」


「「はっ!」」



 僕らは謁見終了の作法に習い、4代目全神王の部屋を後にした。









 僕は再びギルドのエントランスに戻ってきていた。



「でよルーク。スタンピードの対抗参加するか?」


「そうだね。少し時間もあるし、久々にガリブと派手に暴れるとするよ。」



 せっかくガブリもいるし、エリーも誘ってみるか?

 久々に5人揃って冒険するのも楽しそうだ。



「っしゃぁ!そう来なくっちゃな!!んじゃ!明後日の朝8時に現地集合な!!」


「あはは。相変わらず適当だな。分かったよ。」



 1日が53時間あるため、8時は全然朝では無い気もするが......

 この大雑把さに何度も救われたし、いい事にしよう。



「せっかくだし今日僕の家で夜ご飯でもどう?久々にみんなで集まろうよ。」


「お!いいねぇ!ベレス!ルークの家で飯だってお前予定は!!」



 ガリブはかなり離れた場所に、大声で叫んで問いかけた。


 正直.......恥ずかしい。

 普通に通信魔法を使ってくれ……頼む。



「行く行く!予定は空ける予定だから心配すんなやー!!」



 予定を空ける予定???何だそれ......

 それドタキャンじゃねぇよな?頼むぞ!?



「おっしゃ!大丈夫そうだぜ。焼肉で頼むわ!!」


「いや図々しいな!?肉はお前らが半分持ってこいよ?」



 そうして僕とルシアはギルドを後にし、帰り道に肉の調達をした。




 この時はまだ......

 スタンピードで予想外の事態が起こることを、僕はまだ知る由もなかった。


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