18話ー➁ もう一つ上の領域『天武』






 そう呟くと、ルシアの周囲にこれまで以上に眩い光の粒子が集まってきた。

そう、僕達の手札は根源共鳴だけでは終わらない。


......もう一段上のステージがあるのだ......



『 閃光天武 』



 ルシアは現時点で使える最強の手札を引き出した。

閃光天武は根源共鳴で得た光子エーテルを一時的にだが、更に増大させる。


 消耗は格段に速くなるが、その分の能力リターンも極めて大きい。


 得られる能力のリターンは以下の三つだ。


 一つ目は、これまで以上の高レベルな身体能力強化。しかし、これはあくまで副産物に過ぎない。


 二つ目は、魔法創造グラティスの自動発動。

 今までは分析と解析、構築の手順を意識的に行っていたが、天武状態ではイメージだけで魔法を創造できる。


 三つ目は、異常なほどの再生力。並の再生阻害では一切回復を止められず、光のように一瞬で再生する。

 この能力の恐ろしい部分は、ルシアの状態が僕にも反映される点だ。



 例え僕が瀕死の傷を負っても、ルシアが天武を発現していれば瞬時に再生される。

 実質的に、ルシアさえ無傷なら僕のダメージはなかったことになる。



「複合術式・反魔力領域!」



 ルシアがそう言うと、紫色の衝撃波が周囲の空間を駆け巡った。

 原初熾星王は一瞬身構えるが、特にダメージを受けていない現実に少し戸惑いを見せる。


 しかし、直ぐに異変に気付くことになる。



「これでしばらく新しい中性子星は生み出せないわ。」


「分かった。次は僕の番だ。終わらせよう。」



 僕は纏っていた光を暗黒の膜で包み込み、暗い光を放つ光子エーテルの剣を作り出した。


 これは今まで、外に漏れていた光を全てこちらの制御下に抑え込み、凝縮するためだ。



『暗光天武』



 僕の纏っている光の質が変化する。

先程までが黄色や白の光だとしたら、これは紺色に近い暗い色の光だ。


 光と暗がりを同時に実現したような不自然な光だ。


 暗光天武の能力は至ってシンプルだ。



 一つ目は、空間自体に干渉できる光の武器の創造だ。これにより敵の物理的な防御力が無視できるようになる。


 二つ目は、肉体の限界を無視できる身体能力の強化。


 これは根源共鳴の状態でさえ、体が崩壊するほどの肉体改造をリスクなしで扱えるようになる。 これにより光速を遥かに超える速度での戦闘が可能になる。


 そして三つ目は、お互いの天武の全ての能力を二人で共有することができる力だ。



 この三つ目こそが暗光天武の真価だ。

天武は二人で発動して初めて真の完全な状態ととなる。


 勿論、練度まで同じになるわけではないのだが......



「終わらせてやる!」



 僕は原初熾星王の頭部に移動し、暗光の剣を限界まで大きく展開した。

何せあの巨躯だ、並の大きさの攻撃では意味を成さない。


 そして、ルシアから共有された魔法創造で、空中に加速効果を付与した足場を作る。


 極限の集中状態の中、巨大な光の剣を体の後ろに構える。

そして全身のエネルギー回路に、限界まで光子エーテルを注ぎ込む。



「......瞬光連斬......」



 僕は原初熾星王の頭部から尻尾まで一息で駆け抜け、その間に通過した全ての部分を超高速で切り裂いた。


 光の軌跡が空間に残り、鮮やかな閃光が一筋の流星のように煌めく。


 その一撃一撃が原初熾星王の巨体を鋭く切り裂き、無数の光の刃が降り注ぐ。

巨体が次々と切り裂かれ、断片が宇宙空間に舞い上がる。


 刃の一閃が炸裂するたびに、原初熾星王の叫びが響き渡り、爆発的なエネルギーが四方八方に広がる。


 僕の斬撃が織り成す光の舞が戦場を照らし出し、原初熾星王の巨体が崩れ落ちる。


 ギギャァァァァァァァァァァァァア!


 胴体の幅五万キロメートル、全長三百万キロメートルはあろう原初熾星王。

今その巨体は、再生が間に合わないほどに細かく切り裂かれ、崩壊を始めた。


 その姿は壮絶な彫刻が崩れ落ちるかのようで、その破片はついに暗黒の宇宙空間へと消えていった。



「ぐっ……」


「ルーク……流石にもう……」



 根源共鳴により僕らの魔力量は万倍単位で膨れ上がっている。


 本来ならまだまだ根源共鳴の状態を維持できるのだが、今回は対象のサイズがあまりにも大きすぎた。


 この巨体を切り裂くために、「長さ十万キロメートル」という途方もないサイズの攻撃手段を作ったため、消費エネルギーも尋常ではなかった。


 しかも、原初熾星王の肉体を切り裂けるほどの魔力の密度を誇る剣だ。

もう僕らに根源共鳴を維持できる力は残っていない。


 僕らは再びいつもの状態に戻った。



「やったわね、ルーク……」


「あぁ、アファルティア様の力を借りずに倒したね!」



 根源共鳴は解けたとはいえ、通常状態に戻った僕らは魔力を含め全快している。

 根源共鳴は元に戻ったとき、それ以前の消耗を全て回復するのだ。


 有能すぎる.......つまり、上手く使えば二度の無条件完全回復が実現する。


 あまりに大きな傷を負ってしまうと、二回目の完全回復は意味を成さないのだが......



「まさか根源共鳴の力を使い切ることになるとはね……」


「明日の反動が怖いわ......これだけ力を使ったのだから。反動で数日間は根源共鳴はできないわね。」



 実は時間制限に加えて、一度限界まで力を使ってしまうと連続して使えないという弱点も存在するのだが……


 まだ余力を残した状態で、根源共鳴を終えれば連続使用も可能なのだが......

今回は全ての力を使い切ってしまった。


 しかし、その瞬間、僕らはある異変に気づいた。



「ルーク……あれ何?」


「え?」


黒く......大きく......不安と共に、何かが膨れ上がっていた。




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