44話ー➂ 純悪の誕生





――――神聖大教皇、国民演説の日――――



「それでは新しい神聖大教皇の、ありがたいお言葉を拝謁したいと思います。」



 巨大な広場に一堂に集まる民衆。

その民衆の善意を受け取った瞬間。



 ......私は悟った......



 到底1個人ではあり得ぬほどの正の感情が、私1人の為だけに向けられたのだ。

 広場に集まる数百万の大衆の善意は.......


 結論を悟るのに、余りあるほどの愛を振りかざしてきたのだ。


 いや......悟ったという表現は適切ではない。

 結論が出た、という表現が正しいであろう。


 その後何を話したかはよく覚えていない。




 己の在り方は定まった。

 何があろうとも、この世界で安らぎを得ることはない。


 自身の幸福の形を明確にする。

 己にとっての安ぎが何かを理解する。


 回りくどい方法ではあったが、この短期間で確信できたのは僥倖......

 世界の全てを犠牲にしてでも......私は自身の幸を追い求め続ける。


 しかし神か......やはりそのような存在はいない。

 いるとして?己の幸福を他者に預けた大衆の行いは、正気の沙汰とは思えん。


 己の幸福は自身の手によって成就されるべき、大願なのだ。



「......私こそ悪。」



 絶対悪、純悪、巨悪にして邪悪......しかし必要悪ではない。


 ......私こそがこの世の悪意......



「己のあり方は定まった。ならば残るは成するだけ。邪悪を凌駕し、巨悪をも穢す絶対悪に......闇をも染める究極の『純悪』に......この世を私の悪意で染め潰すその日まで......私は奪い続けよう。」





 .......手始めに、盗賊を手引きし故郷を滅ぼさせるよう画策した。

 家族に拷問?その程度ではあまりにも純度が低い。


 そう......個により最上の不幸は異なる。



 母は......不幸になってもらわねばならない。





 ――――――――――


 私の手引きした盗賊が、今まさに私の分身に拷問をしている。

 母の眼前にて『神聖大教皇』に上り詰めた、誇らしき我が子が引き裂かれている。


 本物の私は術で身を隠し、間近でそれを堪能する。



「あぁ......シジルム。」


「母上......」


「さぁ息子との別れは済んだか?ババァ!」



 母が最上の苦痛は、息子の裏切りなどではない。



 ......眼前にて自身の子がもだえ苦しみ死ぬ事だ......



 そこに己が手で、望まぬ息子を殺めるという美しい花を添える。



「いや!!もうシジルムに手を出さないで!!どうか私を!!」



 分身は辛うじて肉の原型を残すだけの、悍ましい姿になり果てている。

 当然これは幻術の類だが、母程度にそれを見破れる道理などない。


 いや、『母』という存在の本能は侮るべきではないか......

 細心の注意を払うに越したことはない。



「さぁぁフィナーレだ!!操作魔術、他者掌握!!」


「な、何をさせる気?まさか、やめて......やめてぇ!」



 盗賊の魔法で母を操り、私を虐殺させる。

 ここでいくつか、母の思考の逃げ道を潰す必要がある。


 母は私の体の至る所に刃物を突き立てている。

 無論、操作されているわけなのだが......



「母上、痛いです......どうか......おやめ、がぁ!!」


「シジルム!!ごめんなさい......もう嫌!!もうやめて!!!」



 母の手によって苦痛を与えられている事実を......

 私の口から母に再認識させる。



「私なら......こんな傷......拘束さえなければ......」


「いやぁぁ......もういやぁぁぁぁ!」



 殺してしまった方が、この子も楽なのではないか?

 そんな楽観的な思考に逃げられては、折角の不幸が台無しだ。


 私は生きる事を望んでいる。

 そして自身の傷を治す事ができる事実を母に与える。


 これにより、生きたいと望む息子を自身の手で殺めたという事実が完成する。

 だが心が壊れてしまっては意味がない。故に仕上げだ。



「ハハハ!!こりゃ傑作だぜぇぇ。」


「もうやめてぇぇぇぇ!!!」


「んじゃ終わらせてやるよ!!!言語操作魔術!!」


「あ.....声が......出な......」



 母の不幸は一般的であれば『子が不幸になる』ことだ。

 ここまででも十分鮮やかだが、仕上げは他にある。


 私の求める『不幸』はこの程度では収まらぬ。









 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 悍ましき悪意がその本性を露にする。蓋は既に開かれてしまった......

 黄金律の抑止力はついに、最凶の悪意に凌駕される。


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!


 更新は明日の『『21時過ぎ』』です!

 第44話は次回で最終回です。

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