43話ー⑦(最終) 復元と再生の果実







 目を覚ますと知らない天上が飛び込んでくる。

 状況からしてなんとなく場所の予想はつく......きっと病院だ。



「......」


「エリー!!起きたのね!!お母さん心配したのよ......無事でよかった。」


「ぁ......ぃ。ぁぁ......ぅ。」


「そんな......まさか言葉を......失って......」



 私は言葉を失っていた......思うように話せない。

 体さえ上手く動かせない……まるで5感にも靄がかかっているような。


 でも分かる事もある......

 私は根本から何か別の存在に変えられてしまった。


 一体私は何になってしまったのだろう?

 どこに向かっているのだろう?


 その後......数か月かけて私は少しづつリハビリを行った。

 そして、拙いが何とか意思疎通ができる程度に話せるようになった。



「ママ、こえ。食べウ。」


「OK!切ってあげるね?……身体は動かせるようになったけど、言葉は戻らないね......」



 言葉は前のようには戻らなかった......

 しかしそれと引き換えに桁違いの自然治癒力、再生力を手に入れた。



「お、にぃ。どこ?」


「......エリーをこうした張本人なのよ?分かってる?」


「おにぃは?」


「エリー!私はあなたの身を案じて......」


「おにぃは?」



 私にとってそんなことはどうでもいい。

 お兄ちゃんが理由もなしに、あんなことする訳がない。


 弱っているからこそ......辛いからこそお兄ちゃんに会いたい。


 いや……そんなのは建前だ、ただただ会いたい。

 甘やかして欲しい、抱きしめて欲しい......


 私に果実を食べさせた事は本当にどうでもいい。些細なことだ。





 ――――



 警察や両親、精神科医などの協議の末、私は条件付きでお兄ちゃんと会えることになった。


 警備兵が部屋の外で待機している。

 またモニター室で両親が常に監視し、警察が部屋の外で常に待機しているというのが条件だ。


 お兄ちゃんは殺人未遂で検挙されたが、証拠不十分で罪には問われなかった。

 しかし家族内や周囲の扱いは、妹の殺人未遂だけで十分残酷なものになる。


 みんななんて酷いのだろう......

 お兄ちゃんは悪くないのに、腫物扱いするなんて......



「おにぃ、世界いち、やさし。」



 そして......面会の時間が訪れる。

 外で誰かの声が聞こえる、そしてドアノブが動いた瞬間……


 私の喜びは頂点に到達した……

 体順の細胞一つ一つが喜んでいる事が分かる。時間が圧縮されドアノブが止まって見えたほど、私は興奮していた。


 しかし……その喜びは、病室の中に入ってきたおにぃを見た瞬間、バラバラに砕け散った。



「お……にぃ?」


「......」



 あの時の顔が……今でも脳裏に焼き付いている。

 あの日の恐怖がトラウマとなり、時々あの瞬間という名の『悪夢』にうなされる。




 誰からの理解も、期待していない諦めの顔。



 許しを乞おうとさえしない覚悟の顔。



 私からの恨み言も飲み込むつもりで来た顔だ......



 そうかおにぃは......他人に許されるどころか......




 ......自分自身を許すつもりもないんだ......




「お、にぃ。なん、で?」


「......」


「だま、る。ちがう。リユウ。」


「......必要ない。」



 この顔を知っている......隠し事をしている時の顔だ。

 しかし染み付いた苦痛の濃さが違う……


 見ているこっちが死にたくなるような......心の奥底から苦しい顔。


 全ての罪を背負い込んで、心を閉ざしてしまったような......

 お兄ちゃんはそれを全て受け入れてしまっている。


 それは私にとって最悪の事態を意味した.......



「エリーが助かればそれでいい。きっともう奇跡は起こらない。」


「あっ.......」


「さようなら。君と僕の人生が交わることは......もうない。」


「え......」



 私はもうお兄ちゃんと会えないの?

 行かないで.......私を捨てないで........一人にしないで?


 いつもみたいに抱きしめて......甘やかして.......

 どうして?パパもママも、私からお兄ちゃんを取り上げるの?


 目の前が真っ暗になった......深い絶望を覚えた。

 処理できない絶望はすぐに逆恨みへ変わり、父と母を含めた世界全てに殺意を抱いた。



「ま、って。」


「......」



 去り行く兄の背中は......悲しみに満ち溢れたいた。

 その行動から私はお兄ちゃんの『愛』を感じた。


 このまま行かせてしまっては、いけない......

 きっと二度と手が届かなくなる。


 そして私は心の底から愛を込めて、に呟く......



「だ、い.......すき......」





 の動きが止まった。

 その時のどんな顔をしていたかは未だに分からずにいる。


 おにぃの記憶が無くなった以上……きっと二度と分からないのだろう。


 でも私だけでも味方でいたいと思った。

 今までがくれたものを……今度は私が返そうと思った。



「おにぃ。だい、じょーぶ」


「ッ......」



 1分11秒……そんな僅かな時間の間におにぃは病室を去った。


 は何かを背負っていた......それを感じ取ってはいたのけど......

 それが何なのか分かるほど、この頃の私は成熟していなかった。


 結局、この回帰でも私は施設の毒牙に掛かり.......

 無残な死を遂げることとなった......



【おにぃ......今度は、大丈夫。】



 ......意識が戻ろうとしているのが分かる。

 現世で何をしていたのかを思い出してきたからだ。


 夢も途切れ途切れになっている。

 それに伴い段々と私が現世で、何をしている途中だったか思い出してきた。



【ハルと......付き合う?ぅぅぅぅ。おにぃに聞こ。】







 ――――――



 視界が戻ると、私は美しい星空を見上げていた......



「リーちゃん大丈夫?」


「!?」



 膝......枕!?



「よかった......ごめんね。身体の調子は良さそう?」


「ポカポカする。おにぃみたい。」



 人の温もり。あったかい。安心する......

 分かる、この人も……私を害さない。



「お兄様がいるの?」


「ん、世界一のおにぃ。あとおねぇも。」


「嬉しそう。大切にしてるんだね。」


「ん。今日、彼氏。できた。」



 今、ものすごく幸せ。

 欲しかったものほとんど全部ある。


 だから。足元から、崩れないよう......死守する。絶対に守る。


 私が死ぬこと、みんなにとって一番の不幸。



「それ.....反則だよ......」


「ハル。照れてる。可愛い。」


「......ぅっ」


「幸せ。」



 私は幸せ一杯で二度寝した。









☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 エリーの再生力の謎が明かされた第43話。

 口調もただのキャラではなく、悲しい過去がありました。


 今幸せそうで本当に良かったです!!


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【♡応援】や【星レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!


 次回はなんと.......あの人物の初登場回となります。


 更新は明日の『『21時過ぎ』』です!


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