第44話 シジルム・アイオーン

44話ー① 法理に縛られし概念悪






 私は欠陥していた......



 生まれながらに欠如していたのだ......



 他の全てと相容れぬ、邪悪なる概念を持って産み落とされた。



 決して不遇で劣悪な環境に生まれたのではない。

 恵まれた体と慈愛に満ちた家族を持ち、何不自由ない裕福な環境を天より与えられた。



 それでも……私は、生まれてきた瞬間から違和感を感じていた。

 まるで、肉の体に無理やり押し込められたかのような......



「シジルムー?ご飯よ~。」


「いただきます......」



 それに気付かずどれだけ......

 無駄な時間を過ごしたことだろうか。



「どう?美味しい?」


「うん。とても美味しい。ありがとう母さん。」



 強烈な吐き気を催す......


 決して料理の味がまずい訳ではない。

 ただそれは私がこの空間に、強烈な不快感を抱いている事に起因する。


 どれだけ上手い料理も、

 糞がこびり付く便所で食せば、等しく下劣なものになるのが道理というものだ。


 この猛烈な不快感は、私に絶望と地獄のような苦痛を与え続けた。

 私はこの耐えがたい嗚咽に耐え続けたのだ.......


 それが明日へ繋がる道になる可能性を、愚かにもしていた。






 ――――



 時は流れ、私は学校へ通うようになった。


 極めて平凡で、絵に描いたような平穏が続いていた。

 私は、自分とは異なる存在を理解するための思案を怠らなかった。



「学校ではだれよりも熱心に、神様の信託を聞こうとしていますよ。教師一同教えがいがあります!」


「まぁ。シジルム!凄いじゃない!貴方は努力家なのね。」


「シジルムは父さん達の誇りだ。」


「ありがとう。今後も最善を尽くすよ......」



 皮肉な事だ、邪悪にも良識が備わっていたのだ。

 しかし情操の不安定性なこの年齢は、自身の幸福を決定づけるには時期焦燥だ。


 私の知見が狭いだけで大衆の『幸福の定義』には、何か見落としている真理があるかもしれない。








 しかしあの日は訪れた。


 己の性を理解してしまう出来事が起こったのだ。

 それは些細な偶然の積み重ねで起こった幸福な事故だった。


 街頭が立ち並ぶ賑わう街。

 人混みに押し流される中、赤子を抱えていた母親の布が、ふと解けた。



「あっ......」



 間の抜けた1人の母親の吐息を、私は今でも鮮明に思い出すことができる。


 誰一人として害意を持っていたわけではない。ただ道に人が犇めき合っていた、それだけだったのだ。

 1人の男が勢いよく女にぶつかった。その拍子に女の手から赤子が離れた。


 身体に固く括り付けていたはずの赤子が宙を舞った。

 そして......


 馬車にひき殺されたのだ。



「キィェェェェェェァァァァ!!!」



 まるでこの世に不幸を全てその身に宿したかのような......そんな音を女は出したのだ。

 あれは悲鳴や絶叫などといった生易しいものではない。


 心の底からとめどなく弾け出てくる絶望、後悔、怨嗟そんな幸福を濃縮した音だ。

 今まで、誰1人として気に留めなかった女の発する音で.......


 周囲の全てが硬直し、時間は止まった。



「ぁぁ......」



 周りの女共は嘆き悲しむ。


 男たちも涙を流す。


 馬車を引いていた男は己の行いの深い喪失感で呆然とする。


 その場は不幸な気運の波に包み込まれた。



 母性の狂愛と無垢の圧死によって。




「.......ぁぁ。」



 その中で......



「ぁぁ......」




 唯一私だけが......。



 ......安らぎを得た......









 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 過去の回想......いったいこれは誰の過去なのか?

 察しがついている人も多いと思いますが、奴の過去です。


 まだ現在の状態では本編に登場してません。


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

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 更新は明日の『『21時過ぎ』』です!


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