第57話 悪の根源

57話ー① 世界の敵







 僕は何の躊躇もなく、爆弾を起爆させた。

 爆発音が宇宙に轟き、その状況にザラームが絶望の叫びを上げる。



「あああぁぁぁぁぁ!!! そんな……俺は、誰も守れなかった……」



 彼の瞳には、大きな絶望が映っている。

 ヴァラルの指令を忘れてまで助けに来る相手......やはり僕の予想は敵中だ。



「終局の時か。もはやこれまで、拙者を殺せ。」


「それはできぬ相談だ。倉本重蔵よ。お前は神界より生け捕りの命が出ている。」


「生け捕り?拙者を?」


「終わりの門の封印器の一つを、持ち出した疑いがかかっている。」



 倉本重蔵は、どうやらその理由から生け捕りにされる運命にあるらしい。

 詳しい理由は知らないが、神界には倉本を殺せない事情があるようだ。


 そう考えていた矢先......遊園地の映像が映し出されると、目の前に広がったのは衝撃的な光景だった。

 惑星は爆発で消し飛んだはずなのに、遊園地の建物がそのまま残っているのだ。



「は?」


「ルーク......爆弾を起爆したんじゃ......」



 思わず声が漏れた。無傷でそこに横たわっている害厄王の姿が、信じられない。

 しかし先程と一つだけ違う点がある。


 ノイズのようなものが纏わりついていてよく見えないが……誰かがいる。

 ――その正体が誰なのか、アウルフィリア様の一言で明らかになった。



「まさか……貴様、ヴァラルか。」


「ルーク……私、震えが……」


「こ、こいつが……」



 分かる......画面越しでも伝わる圧倒的な邪悪――それは凡そ一個の持てる悪意の濃さではない。

 画面越しだけではない、その方向からまるで刃物のような肌を刺す『悪』が放たれている。

 究極的な悪意をが感じ取っているのだ。


 すると、ヴァラルが一方通行のモニター映像を通じてこちらに語りかけてきた。



……相も変わらず、忌むべき幸福ふこうに溢れている。』


「ヴァラル!!」



 アウルフィリア様が叫ぶ。

 しかしヴァラルは、彼女の言葉を無視して淡々と話し続ける。



『悪とは……大衆の総意が生み出した、存在しえぬ幻想に過ぎぬ。』


「成り立ちをどれだけ問いただそうと意味が無い!お前のせいで人々の幸せが奪われる。ならばお前は忌むべき悪以外の何物でもない......!」


『元来この世には、善も悪もない。そこに思想が存在あるだけだ。大衆という暴力は善だの正義だの、そういった類の悍ましき虚実を作り出す。』


「それは暴力ではない。それは美しき人々の思いだ。」



 ヴァラルの言葉が、頭の中で深く絡みついて離れない。

 その存在そのものがこちらの思考を掻き乱し、心の奥に不安を根付かせているようだ。



『その思いを美しいと定義するため、どれだけを醜いと断じてきた?』


「なに?」


『その美しさからあぶれし者を、どれ程すり潰してきたのか。』


「ふざけるな。何を言おうと貴様が犯したことは変わらない!!」



 ヴァラルの存在が、圧倒的なまでに重く僕たちにのしかかる。

 彼の発言があまりにも狡猾で、言葉を発するだけで人の心に入り込み、根幹を揺るがせる。

 一瞬でもヴァラルの言葉が正しく聞こえてしまう自分に、背筋が寒くなるような恐怖を感じる。



『して?忠義の黄金よ。白き巨鳥は息災か?』



 何を意味するのか、言葉の真意は理解できなかった。

 しかしアウルフィリア様が隣で強烈な殺気を放ち、その疑問が吹き飛んだ。



「き、貴様ぁぁぁぁ!!母上にあれだけの傷を負わせておいてよくも!!」


『喜んで貰えて何よりだ。次はより大きな不幸こうふくを成就させよう。』



 その言葉に、僕とルシアは凍りついた。

 これは挑発などではない.......ヴァラルの底知れぬ本心から湧き上がった言葉だ。


 ――こいつが......こいつが世界の敵、ヴァラル。

 幾星霜の時を経て、その名だけで神界を震撼させ、遂には絶対純悪とまで言われた存在。


 殺しが好きとか、人を苦しめるのが楽しいとか......そういうありふれた悪ではない......

 より深く、より根本的で.......まるでこの世の悪を一人に押し込んだかのような悪意の化身だ。



「ふざけるな!!貴様と『アレ』のせいで母上がどれほど弱り果てたか!!母上を傷つけた貴様だけは断じて許さん!!!」


『貴様の許しなど要らぬ。私が私を許せばそれでよい。』


「貴様……今すぐその我が黄金で滅してやる!」



 落ち着きをはらみ、威厳さえあったアウルフィリア様は、強烈な憎しみの感情を叫び、力を込める……

 今いる場所からヴァラルを殺すつもりなのだろう。しかし、僕の胸の奥で不安が膨れ上がる。

 ヴァラルが何の策もなくこんな事をするのか? もしかするとアウルフィリア様の注意を散漫にする為の……


 ――何故遊園地が無事なのか?その規模の攻撃を防ぐ結界を、瞬時に構築した?

 そもそも何で、こちらの監視神術に向かって話しかけられる?


 起爆装置は確かに作動したはず......守る意味があるのか?

 害厄王の二人だけを守れば、居場所も特定されないはずなのに......。



「まさか」


「ル、ルーク?どうしたの?」


 そもそも爆弾は起爆したのか?でも爆圧こっちに.......待て、ただそれだけだ!

 僕は周囲を探知し見渡した、すると.......そこには僕の切り落とされたうでがあった。



「!?」



 爆風圧はフェイク!爆発していないのを隠す目的と、僕の腕をこちらまで吹き飛ばすためのもの!?僕の構築した爆発の術式も、既に向こうに掌握されている可能性が高い!




「不味い!!」


「ルー......」



 思いがけない恐怖が胸を掠め、僕は叫ぶように警告した。



「全員自分の身を守れ!!!」


『ニヤァ......』



 僕たちは眩い閃光に全身を包まれた......








☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 遂に初の接触を世界の敵、ヴァラル。

 その圧倒的な知略と纏わりつくような言葉に、あのルークが翻弄される?


 次回......ルークの腕を爆破したヴァラルの、意外な意図が明らかに?


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

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 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!



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