第55話 遥かなる頂より......

55話 観測のゼニス






 ――――起源樹の世界――――



 小さな小屋の中、一つの小さなベッドに、一人の女性が静かに横たわっている。

 外の窓からは見渡す限りの平原が広がり、

 家の中は数室しかない簡素な造りだが、どこか温かみがあり生活感が漂っている。


 そこは、深い愛情に満ちた空間だった。



「......ぅぅ。」


「お目覚めかい?随分と不調だねぇ?この世界で君が意識を取り戻したのは実に1万年ぶりだ。」


「外の子供たちは......外では何年経ったの?」


「時間の流れを弄っておいた。外では精々週単位だ。」



 実に一万年ぶりの起床。それは彼女の様態が決して良くないことを現している。

 しかし彼女は死ぬわけにはいかない.......何故なら彼女は生命存在の要であり、均衡そのものだからだ。



「もっと時間弄ってくれてもいいじゃん......一秒とかにしてくれたらもっと回復できるかもだよ?」


「君は生命だ。有限の中に生まれた存在は、そこから大きく逸脱しない方がいい。」


「......他の人には、私の範疇からでろでろーって言うくせにぃ!」


「それには君の生存が必須条件だからな?」


「結局そこなの?」



 ミリティアの存在は、全生命の基盤であり、彼女がいなければ生命は成り立たない。

 生命という存在には、致命的な欠陥がある。それは、生命が他者や環境に依存しなければ存続できないという点だ。

 繁殖には異性を、生存には摂取を、存続には他者を......様々な外的要因を必要とする。


 もちろん様々な進化を遂げ、全ての種がその法則に当てはまるわけではないが......

 それでも一切の外的要因を必要としない生命種は存在しない。



「それにピュアは特別だしな。」


「ぅぅ、照れる......」



 ミリティアは小さく顔を赤らめ、照れたように呟いた。

 その仕草は、まるで子供のようだ。彼女は生命の源泉でありながら、その姿はあまりにも若く、儚い。



「元よりこの世は有限や無限などといった観念はない。それを君の『相殺』で打ち消して生命を存続できる環境を維持しているだけ。意味わかるな?」


「私が死んだら......」


「そうだ。生命存在は一瞬で無に帰る。」


「それはダメ......」



 ――全ての生命はミリティアの消失と共に死滅する――


 ミリティアはその言葉に怯え、目を伏せた。

 生き続ける.......生命の宿命であり、ミリティアが背負う重い責務――

 生命に課せられた絶対的な事実であり、致命的な欠陥でもあった。


 そう......これだけ多種多様に進化しても、生命は未だ赤子の段階......母の力なしには生きられる域には達していない......



「そもそも君の見た目からして......まだ人間で言う18くらいだろ?大体子供の自立は40半ばくらいだからな?」


「え?それだとさ?私が若くして赤ちゃん作った、変わった人になっちゃわない?」


「ほぅ、赤子の時に赤子作ってんな......カオスだなぁ?」


「笑う体力がないよぉ......」



 その言葉を交わす間にも、矛盾が生じていた。ミリティアは、時間の流れが一定でない世界に長く留まっている。

 さらに時間の外に存在する『ソレ』と共にいる。そのため彼女が経験した年数と、生命の進化の度合い.......

 それが次第に噛み合わなくなっているのだ。


 いくら回復の為とはいえ、生命が自身の力だけで存在可能になる前に、彼女が寿命で死ねば......

 その時点で......生命という存在そのものが、この世から完全消失してしまう。



「まぁいい、ほら見ろ。この前来た君の子供たちが戦っているぞ?」


「ダメ......これ反動で死んじゃう!お願い......助けてあげて!!」


「助けはしないが......実はこの成長速度がほんの少しだけ予定を超えている。」


「ど、どういう事?」



 それは生命を知り尽くす、ミリティアでさえ衝撃を隠せない内容だった。

 初めから大きな運命と力を与えられたにも関わらず、それさえも超越する可能性を見せていた。



「この二人なら.....片割れという生命のできるかもしれんぞ?」


「なら尚更、終わった後の反動から助けないと!!」


「いや、助ければ可能性の芽は潰れてしまう。いいかい?助けすぎる事はするんだよ。心配なのは分かるが、忘れるな。」


「......ぅん。」



 ミリティアは、子供のように拗ねて小さく頷いた。

 だが、その表情には、どうしても納得できないという感情が浮かんでいる。



「一先ず最終到達存在に一報入れとくか......多分気づいてるだろうがなぁ。」


「リリィに?そういえば今何してるの?最近顔見せないけど......」


「あぁ、あいつは今、灰と居る。最終目的以外は灰に合わせてるだろうからな。」


「灰の最終目的、それって......」


「そう、私の撃滅だ。あぁ......楽しみだなぁ。」


「......ムッ。」



 そうして、ミリティアは再び永い眠りについた。

 次に目覚めた時、全てが変わっているとは知る由もなく……。








 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 初代全神王の登場です。過去回想や別作品では既に登場してたりしましたが......

 ちなみにゼニスという名前は、至る所に出てきています。


 そして次に彼女が目覚めたときの世界とは?次回から戦いに戻ります!!


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!


 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!





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