15話ー➁ 著者:頂点者『初代全神王とロードルーラー』





「ありがとうルシア!助かるよ!」



 そう言ってルシアはハッキングを始めた。

彼女の指先はキーボードを舞い、画面には次々と難解なコードが流れていく。


 その手際の良さは見事で、僕のハッキングがいかに適当で無計画だったかを痛感させられる。



「あぁもう。そこにセキュリティロックをかけてるのね……逆探知対策もしないと。」



 僕はあらゆる知識を持っている。普通の神より遥かにハッキングの知識や技術に長けている。

だが、ルシアはこの分野において天界屈指の才能を持つ存在だ。


 彼女のハッキング能力はまさに天賦の才であり、その卓越した技術は他の追随を許さない。

ルシアの手によってデータが解読される様は、まるで魔術師が呪文を紡ぐかの如く、優雅で精密だ。



「それで?ルークの方は何かヴァラルについて分かったの?」


「ん?あぁ。童話しか出てきていないから、童話の断片的な情報を組み合わせて、他の書物で名前を変えて登場していないか探してる。」



 ヴァラルという名前だけが規制されている可能性が高い。

しかし、その名前が使われていない書物まで規制されているとは思えない。


 ヴァラル自体は機密事項ではないため、その部分の情報管理は比較的緩いはずだ。

ルシアは目の前に浮かび上がる複数のモニターを操作しながら、冷静に話し始めた。



「ダメね。規模の小さい地方のデータにはヴァラルの記載はないわ。ただ……1冊恐ろしい内容の本を見つけたわ。」


「恐ろしい内容の本?その内容は?著者は?文学ジャンルは?信憑性は?」



 ルシアは少し間をおいた後に話し出した。



「著者は頂点者?信憑性は現時点では何とも……ただ内容は全て暗号化された文で書かれている。」


「解読はできそう?」


「解読自体は可能だわ。ただタイトルを聞いて内容を見るか判断して欲しい。タイトルは初代全神王とロードルーラーについて、よ。」



 初代……全神王!?もしやと思っていたが、やはり実在したのか!?


 先代の3代目が晩年に

「自分より以前の歴代全神王は、自身の権威を高めるための捏造だ」

と言ったのは、やはり嘘だったのか?



「解読を頼むよ。これはかなり重要な内容だ。暗号で書かれたおかげで、内容が分からず機密から漏れたものかもしれない。」


「天界の技術力でそんなミス……と言いたいけれど今回はあり得るわ。この暗号見たこともないもの......」



 初代全神王……もし実在するなら、その存在を知る神が当然いるはずだ。

それほどの人物を完全に隠蔽するのは不可能だろう。


 だから僕は、初代と2代目の全神王は架空の存在だと判断していた。

隠蔽するにはあまりにも大きな存在でありながら、その存在を知る者が一人もいないのだから。



「ルーク。解けたわ。一応転写もしておくわ。」


「内容は!何が書いてあるんだ。」


「……初代全神王は全ての頂点に立つ存在であり、世界の創造主である。この世界の全ては彼によって予め決められた予定調和の中にある。創造物が選べるのは、創造主によって与えられた選択肢を意志の力で選び取ることのみ。かつて、多くのものがその頂を目指したが、たどり着いたのは、アレと灰だけであった。」



 あまりにも荒唐無稽な内容だ……だがここまで暗号化されている内容だ。とても無視はできない。



「な……なんだよその内容……」


「私たちの生きる世界は箱庭と呼ばれる。この箱庭は、時間、空間、次元、さらには世界軸さえも関係なく移動する。しかし中に暮らす者たちには、その変動を認識することはできない。箱庭の中心、最終次元には無限を司る破壊の化身が存在し、外縁に連結された深淵の底には不変不滅の主がいる。そして、その二つに連なる6人の冠を与えられた存在たちがいるのだ。加えてその下には、ロードルーラーと呼ばれる管理者たちが配置されており、彼らは緊急事態の際に箱庭を守護する役目を担っている。要約すると、こんな感じね。」


「いや、意味が分からない……何一つ情報が繋がらない。」



 ただ、もしこの情報が正しいとすれば……初代全神王が実在した可能性が高い。



「ルーク、この本自体が空想の産物である可能性もあるわ。まずは著者について調べないとね。」


「他には何か書いてある?」


「えぇ。目次を見る限りでは......『概念存在』や『最終進化存在』、『偉大なる始まりの灰』、それに『頂点存在の起源』などが書かれているわ。」



 どれも壮大な内容だ……しかし、どの単語も聞いたことがなく、理解はおろか想像すらつかない。



「え?待って……そんな。嘘……」


「ルシア!どうしたんだよ!」



 ルシアは真っ青になり、全身が震えていた。

駆け寄った僕も彼女が見ている画面に目をやる。


 彼女の焦りと恐怖が伝わり、僕も全身に緊張が走った。



「モニター画面に『素晴らしい』って表示されている......」



先ほどまでなかった文字が......確かにそこにはあるのだった......

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