15話ー➂ 条理を超越した誰か






「モニター画面に『素晴らしい』って表示されている......」


「それは......どういうこと?」


「さっき私が文を読み上げた時には......こ、こんなことは一切表示されてなかったわ!!」


「は?データを読んだ人にだけ見えるよう、元々細工が施されてたんじゃ......」



 蔵書データは、本と同じなのだ。

読者の手に渡った後の本に、作者が文章を書き足すことはできない。それと全く同じだ。


 いくら超的な技術力を誇る神界でも、

本の......ましてやただの蔵書データを介して、誰かに語り掛けるなど不可能なのだ……


 しかし、そんなあたりまえの常識は......

その後浮かび上がってきた文字によって、一瞬で吹き飛ばされた。



【君たち二人がこの本に辿り着く時期は、予測では少し先だったが......嬉しい誤算だ。やはり君たちは、比類なき輝きを持つ稀有な光だな。】



「ルーク!!画面が閉じられない!切り替わらないのよ!!私ヘマなんてしていないわ!嘘じゃない!!」



 ルシアの声には明らかな動揺が混じっている。



「分かってるよ。大丈夫だ。」



 僕も何が起こっているか理解できず、その異常な現象に戦慄した。


 しかしここで僕が冷静さを欠くわけにはいかない。

ルシアをなだめていると、その後も続けて文字が浮かび上がってきた。



【ルシアよ。怖がる必要はない。君のハッキングは概ね完璧だ。それと輝く光よ、ヴァラルの情報が欲しいなら天上神界立図書館で『植物学入門57』という書物を借りてみなさい。】



「ルーク!!どうするのよこれ!」


「僕らじゃどうしようもないよ......」



 再び文字が浮かび上がってきた。

すべてが常識や条理を超越しており、理解の範疇を超えている。



【今後、大きな出来事が起こる。その時、路頭に迷ったら管理者を探して頼りたまえ。彼らには『天啓集結』と伝えなさい。.......ではまたな。】



「あ......操作できるように、」


「急いで閉じるんだ!ルシア!」



 ルシアは急いでハッキングを中止し、モニター画面を閉じた。



「何だったの、これ……ルーク、どうする?」


「どうしようもない。敵の罠でないことを祈るしかないよ……一応コピーした本の内容も消去しておこう。」


「そうね……やむを得ないわ。」



 何とも不可思議な出来事に、僕たちは動揺を隠せない。

やむを得ず情報を消去するしかなかった。


 流石に、こんな事態を引き起こした本の内容を、残しておくわけにはいかない。

世界の核心に迫る、重要な情報が含まれていたかもしれないが、この不可解な状況では致し方ない判断だ。



「今日は休ませて......気疲れが尋常じゃないの。」


「確かに……不可能と不可解の連続だった。ベッドもすぐそこだし、少し仮眠を取ろう。」



 僕たちは視線を交わした後、ルシア疲れ切った表情で枕に倒れこんだ。

 これまでの緊張感が一気に解けたのか、少しだけ安堵した顔で僕の方に体を寄せてくる。


 そしてルシアは僕の体の上に自身の体を半分重ね、漏れ出すようにか細い声で話しかけてきた。



「ルーク、疲れたよ......怖かった。もう、いや......」


「ごめんね。今度からはこんな事させないから。」


「それは、いいの……今はギューってして......それでゆるす、もん......ZZZ」



 彼女の言葉に少し微笑みながら、僕の上で安らかな眠りについた。


 しかし僕の方はそうはいかなかった。



『植物学入門57』この書物について思案を巡らせた。

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