17話ー➂ 終わりの見えない壁
僕はギルドから少し離れた静かな場所で、アファルティア様に原初熾星王の情報を詳細に共有していた。
周囲の喧騒から離れ、集中して情報を伝えるために、最適な環境を選んだのだ。
その時、ルシアがふと疑問を口にした。
「あの……アファルティア様、その……ワンピースのまま向かわれるのでしょうか?」
アファルティア様は、自身のアパレルブランドを展開している。
十神柱の一員であると同時に、モデルや女優としても活躍しているのだ。
今彼女が身に纏っている服は、背中に翼を通すための穴が開いている。
デザイン性の高いのだが......
その可愛らしさは、日常生活で彼女がどれほど、人々の目を引く存在であるかを物語っている。
しかし、そのおしゃれな服装は戦闘には向いていない。
それにも関わらず、アファルティア様は出発直前である今も、戦闘服に着替える様子が見られなかった。
「心配してくださってありがとうございます。もしもの時は自動で装備を変える神法を常時かけていますご安心を。それに相手も原初熾星王程度ですから……元天族の私ならば傷1つ付かないと思いますよ?」
「熾……熾星王程度……か」
「なるほど……」
僕ら二人は少し顔が引き攣った。
「アファルティア様。もし大丈夫であれば、転移魔道具を起動させます。」
「え?勿体ないので、私が転移神術で全員転移させてしまいますね。」
「えっ?」
転移魔法は距離に応じて多くの魔力を消費する。
今回の任務地は遠方で、僕たちが同じことをすると片道だけで魔力の二割を消耗してしまう。
しかし、アファルティア様にとってその消耗は微々たるもので、複数人を一度に転移させても問題ない程の魔力量を保有している。
転移魔法にはもう一つのデメリットがある。
それは、転移後の疲労感だ。
通常の魔力使用では感じない疲労が、転移魔法では確実に体に影響を及ぼす。
しかし、アファルティア様はその膨大な魔力量と優れた体力で、このデメリットをまるで無視するかのように扱っている。
彼女が一行を無理なく転移させられるのは、十神柱所以なのだろう。
「ありがとうございます。」
アファルティア様は軽く微笑んで頷くと、両手を広げ、まばゆい光の魔法陣を足元に展開した。
その光は徐々に広がり、僕たち全員を包み込んでいく。
彼女の魔力が全身に染み渡る感覚がした。
「それでは、転移魔法を開始します。皆さん、油断しないように。」
彼女の声が響くと同時に、光が一層強まり、眩い閃光が視界を覆った。
瞬く間に風景が変わり、僕たちは任務地である大ガハラド星雲に到着した。
目の前には壮大な星雲が広がり、その中心には巨大な影が浮かび上がっていた。
一瞬でこんな遠方に来られるとは改めて驚かされる。
「ここが目的地ですね。皆さん、準備はよろしいですか?」
アファルティア様の言葉に、僕たちは深く頷き、臨戦態勢を整えた。その数秒後、ルシアが僕に話しかけてくる。
「ルーク......あれって......」
「......うん。間違いない。あれが原初熾星王だ......」
探すまでもなかった。
その姿は、僕の想像を遥かに超える巨大さで、一目で視認できるほどだった。
胴体の幅だけで五万キロメートルもあるその巨体。全長は見当もつかない。
まるで龍のような形状をしているが、至る所に触手や腕が乱立し、その姿は混沌とした異形の集合体だった。
目は不規則に八つもあり、口の中には六重構造の鋭い歯が並んでいる。
顔周りには触手が鬣のように密集して生えている。
近づくとそれはまるで動く壁のようだ。気色の悪い壁だ。
うねる巨大な壁。
その圧倒的な存在感に、僕らの攻撃が果たして通用するのかという不安が押し寄せる。
「ル……ルーク、これ大きすぎない?」
「原初ってつくだけでこうなるのかよ。近づいたらもはや壁……」
その瞬間、僕が壁だと思っていたものが突如として高速で接近し、猛攻を仕掛けてきた。
まるで生きた要塞のようなその動きに、全身が震えた。
「ルシア!!転移魔法で避けるんだ!!」
「ッ……!」
僕達は......高速接近する壁に叩きつけられた......
そしてルシアの......肉が壊れる音がする。
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