17話ー➃ 多重発動、『 三連神術 』





「ルシア!!転移魔法で避けるんだ!!」


「ッ……!」



 その巨躯は攻撃範囲が広すぎて、通常の回避では間に合わない。

咄嗟に転移魔法を発動しなければ、即座に飲み込まれてしまうほどだ。


 僕はなんとか転移魔法で回避できたが……ルシアの転移魔法は間に合っていない。戦闘続行できる状態な事を祈るしかない。


 対処できる範疇内だとはいえ、その破壊力は恐るべきものだ。


 一撃で全てが終わるわけではないが、ここで立ち止まることは許されない緊迫感が、僕の心を強く高揚させる。



「やばいな。楽しそうだ......にしてもルシアはどこまで吹き飛んだんだ?」



 ルシアは攻撃の衝撃で何処まで飛ばされたのだろうか?

そう思っているとルシアは転移魔術で帰還した。



「戻ったわ。無傷とはいかなかったけれど、もう再生は終わってる。再生阻害が組み込まれてない攻撃で助かったわ。」


「お二人とも。全力で戦ってもらって結構ですよ。危なくなったらお助けします。近辺に結界を張ったので周囲の被害はお気になさらずに。」


「はい。ありがとうございます!」



 一体どれほど巨大な結界を張ったのだろうか……僕らの肉眼では結界の端が全く見えない。


 アファルティア様が発動した結界は、透明でありながらも僕らを完全に保護している。


 結界の内部は見た目に変化がなく、宇宙の星々がそのまま見えている。

その結界の存在を視覚的に確認することはできない。


 しかし、この透明な防御壁が、外界の脅威から僕らを隔離し、全方位からの攻撃を遮断しているのだろう。


 アファルティア様の魔力量の多さが、どれほどのものかを改めて思い知らされた。

しかし、これで僕らは戦いに集中することができるのだった。



「ルシア!いくよ!!」


「えぇ!!」



 熽星王は依然としてこちらを敵と認識していないようで、その巨体を持て余すかのように尻尾で乱雑に攻撃を仕掛けてくる。


 その動き一つ一つが圧倒的な質量を伴い、空間を揺るがす。


 ルシアと僕は瞬時に間合いを取り、緊張感が走る中で神術を発動させる。



「第42階梯神術、カウンターバースト!!」



 僕の叫びと共に、巨大なエネルギーの波動が熾星王の尻尾にぶつかり、敵の攻撃力を吸収して反射する。


 熾星王の尻尾が激しく震え、その衝撃で周囲の宇宙空間が歪む。

尻尾が逆襲の力で跳ね返り、その威力に一瞬、驚く姿が見えた。



「ルシア!隙だ!!」


「分かってるわ!!」



 ルシアは瞬時に前進し、素早く魔力を集中させる。

彼女の周囲には無数の「原初神の雷槍」が輝き、次々と熽星王に向かって放たれる。


 その一撃一撃が精密に狙われ、熾星王の巨体に衝突していく。

雷槍が放たれるたびに、空間が一瞬白く光り、衝撃波が周囲に広がる。


 しかし、原初熾星王は未だダメージを受けたような素振りを見せない。


 恐らくここまでに放った神術を受けて......

その上で僕らを大した脅威ではないと判断したのだろう。



「くそ!神術の連続使用だぞ!?どんだけ硬いんだよ!!」


「硬さもそうだけど......この異常なレジストのせいよ......どうするの?このまま攻撃を続けるのは無意味よ!」



 通信神術でルシアが語り掛けてきた内容はもっともだ。

このままではいたずらに魔力を消耗するだけになる。


 こうなったらさらに強力で複雑な神術を、相乗効果を考慮した上で同時使用するしかない。


しかも悟られぬように無詠唱でだ。



「やってやるよ!!」


「何か策があるのね……こっちは一先ず任せて!!」



 僕は集中し、三つの神術を同時に発動する準備に入った。


 発動する神術は


 第45位階神術「空間凍結」

 第79位階神術「龍神王の閃砲」

 第35位階神術「破滅の豪雨」


 の三つだ。それぞれが大層な名前を持つが、実際に行うことは至ってシンプル。


 まず、「空間凍結」を発動することで、僕の意志が空間を凍りつかせ、その冷気が熽星王の動きを鈍らせる。


 そして、その凍結効果で再生能力も阻害する。

熾星王の動きを止め、その巨体を冷気で包む。


 次に、現時点で僕が誇りうる最強の範囲神術である、「龍神王の閃砲」で先ほど凍結させた巨体を粉々に破壊する。


 そして最後に、超広範囲にわたる殲滅型の神術である「破滅の豪雨」で破片になった敵の肉体をさらに細かく粉砕する。


 どの神術も単発での発動ならば、大きなダメージは期待できないだろう。しかし戦闘行為において、一つ一つの術の強さはさほど重要ではない。



「ハァァァァァ!!!」



 本来なら脳が焼き切れるほどの負荷がかかるのだが、僕の演算能力ならば問題ない。


 何故だか分からないが、神術構築ミスをする気がしない。

発動までは絶対に成功させられると確信しているのだ。



「ルシア!!一旦さがれ!!」


「もう下がったわ!!」


「よし!くらえ!!!多重三連神術!!!」



 僕は少しだけタイミングをずらしながら、一息で三つの神術を熽星王に向けて放った。

 無詠唱で発動した三つの神術が、まるで共鳴するように一つの攻撃となって炸裂する。


 まず、空間凍結が発動し、冷気が一気に広がって熽星王の巨体を包み込む。

 瞬時に広がる氷の結晶が、宇宙空間の冷たさと共鳴し、熽星王の動きを鈍らせる。


 次に、龍神王の閃砲が放たれた。凍結した巨体に閃光が突き刺さり、爆発的な衝撃波が広がる。


 まるで、この世の終わりのような叫びが宇宙に響き渡り、熽星王の体表が一部崩壊し、破片が宇宙空間に舞い上がる。


 最後に、破滅の豪雨が炸裂する。空間全体に広がる破壊の力が、舞い上がった破片をさらに細かく砕こうとする。


 豪雨のように降り注ぐ破壊の波が、熽星王の周囲を包み込み、水蒸気爆発のような激しい爆発が敵の巨大な体躯を覆い隠した。


 僕とルシアは、その光景を見つめながら、一瞬の静寂に包まれた。

 しかし、その静寂はすぐに終わりを告げる。



「どうなったの……」


「ダメだ。ほらあそこ。」



 宇宙空間に舞い上がった粉塵の中から、大きく波打つ巨大な影が見える。


 ダメージは多少与えられたのだろうが……

この程度のダメージでは、まだ原初熽星王を倒しきるには程遠い。


 魔道神ソロモン……何てクエストを寄こしてくれたんだ。二度と様なんてつけてやるもんか……



「ここまでして、この程度のダメージとはね……」


「ルーク……あれは」



 そして僕らは見た。

全ての眼球を真っ赤に染め上げ、怒りを露わにする熾天使の姿を。


 熾星王の体から放たれる怒りの波動が宇宙空間にまで伝わり、その圧倒的な存在感に息を呑んだ。


 そしてその周囲には、無数の中性子星が生み出され、視界の端から端まで埋め尽くされていた。


 その数と規模は圧倒的で、星々が僕らを取り囲むように配置されていた。



「……嘘だろ……」


「そんな……」



宇宙空間に舞い上がる粉塵の中には......未だに巨大な影が鎮座していた。

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