58話ー② 始まりのシャボン玉
再び視界が明るくなると……そこは穏やかな過去の記憶ではなくなっていた。
僅かに記憶とはとは異なるが……とても懐かしい感覚が押し寄せてくる。
「お兄ちゃん……私たち、どこに連れていかれるの?」
「……分からない。」
「お兄ちゃん……お父さんとお母さんは、もう――なの?」
「……あぁ、そうだよ。」
そうだここは......実験施設に送られる輸送機の中だ。
僕た...ちは特異な力を持っていたため、その力に目を付けられて拉致されたんだ……
『最強生体兵器・創造計画オリュンポス』という馬鹿げた計画に巻き込まれて。
「私……死ぬの?怖くて、痛い思いして、ぐちゃぐちゃになって死んじゃうの?」
「大丈夫だ.......僕がいる。」
「うん……」
「怖がらなくていい......何があってもお兄ちゃんは生き残る。生きている限り、必ず助ける。だから......エリーは必ず助かるよ。」
くだらない……決意になんの意味があるのだろうか?
どれだけ覚悟があろうと、そんなもの力の前ではただの虚勢だ。
ことごとく全てを奪われて終わるだけ……それでも僕は、出来ないと諦めたことははい。
「ほんと?また......お友達に会える?学校に戻れる?」
「戻して見せる。ここを出たらそうだな......リンゴ農園でもやるか!」
「うん、やる......頑張る。」
「何があっても、僕がエリーを助ける。」
そうだ......例え死が僕たちを引き裂こうとも......
僕は絶対にエリーを助け出してみせる......
鈍い音の中で、僕は静かに己の心を奮い立たせた......
――再び場面は切り替わり.......
実験を終えたエリーが隣の牢獄に投げ込まれた。腕は不自然に変形し、内臓が摘出されたような跡がある。
出血も酷く、神経や血管が緑色に浮き上がっている。
.......それを見るだけで、エリーの受けた痛みが伝わってくる。
「痛い!!!痛いよぉ!!!お兄ちゃぁん!!もう嫌だよぉぉぉ!!死にたいよぉぉ!!」
「僕は生きてる!!僕が生きている限り、エリーは助かる!諦めるのは僕が死んでからにするんだ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「大丈夫だ……大丈夫だから。」
あぁ……僕はなんて無力なんだろうか。しかし、今日がダメでも明日もそうとは限らない。
実験を少しでも実験の方向性をコントロールして、互いの負担を軽減するしかない。
かといって無茶をすれば死ぬか、殺されるだろう......
限界の限界をギリギリを見定めて、僕の価値を少しでも奴らにアピールするしかない......
――やがて、僕の人体実験の時間が訪れる。
「新薬投与、バイタルに異常なし……血圧150、許容範囲内です。」
「……少し、寒いです。それに、心臓が苦しい。」
「ん?そうか?新薬投与の量を少し減らせ……」
「かしこまりました。新薬投与、初期設定値より16%減らします。」
「……」
......寒さと苦しみは演技だ。
これまで彼らを分析した結果から、今回の新薬の危険度はかなり高い......
彼らは基本的に異変が起きてから手を打つが、それでは手遅れだろう。
こちらから意図的に偽の状態を伝えることで、生存率を上げる必要があったのだ。
しかし......たかが16%投与量を下げたところで、危険には変わりない。
実際、血管壁の薄い部分が溶けて、内出血を起こし始めている。
――この状況で更に生存率を上げるには......もう少し大胆な心理圧迫が必要だ。
「がぁ!!うがぁぁぁぁ!!あああぁぁぁぁ!!!」
「何だ!?何か異常が起きているのか!?」
「バイタルの異常値は、依然として予測許容範囲内です!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ええい!機器など信用できるか!!設定した予測許容範囲値を見直せ!投薬をすぐに中止!!筋肉繊維強化薬の投与に変更する!!」
もしバイタルが一切の異常を示していなければ、怪しまれるかもしれない。
しかしこの数値はあくまで『予想許容範囲内』でしかなく、正常とは程遠いものだ。
目の前で苦しむ被験者がいれば、彼らは仮説よりも「今」を重視する。
彼らがどちらの情報を信用するかは明白だった。
学者は自身の仮説より、事実を追い求める存在......ならその思考を逆手に取ればいい。
もちろん、この戦略は乱用できないし、細心の注意を払う必要がある。
だが......彼らが強化してくれるというのなら、むしろ好都合。
とことん利用して、いつかこいつらの咽喉ぼとけを食いちぎってやる!
――――
......それから僕らはあらゆる実験に堪えた......
僕の知恵を共有することで、エリーも以前よりは状況が改善された。
生き延び、少しずつ力を手に入れていく……......
【そうだ、こうして生き残ったんだ。そして力を手に入れて施設を出て.......】
――ドチャッ。
僕の左から......鈍い衝突音が響いた......
「……あーあ、流石に今回のは無理だったか。」
「は?」
「ぉ……んぃぃ……」
「エリー……?」
隣の檻に……至る所がゲル状に変質した肉塊が、無造作に投げ込まれた……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
前回とは一転......地獄の始まりを思い出すルーク。
しかしそれは彼の覚えている過去と、段々と乖離していくのだった......
苦痛の濃縮。ルーク・ゼレトルス、始まりの絶望が今...再び呼び起こされる。
もし面白い、続きが気になる!と思った方は
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更新は明日の『『20時過ぎ』』です!
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