第58話 『ルーク』の原点

58話ー① いっぱいのシャボン液





「お兄ちゃん。」


「?」


「お兄ぃちゃん!」



 気がつくと、僕は見慣れた並木道を歩いていた。

 隣には小さな初等部の通学バッグを持ったエリーがにこにこと歩いている。

 どうしてだろう……この道が懐かしく思えるのは。エリーとこんな風に歩いたことはないはずなのに。


 なのに、この光景は僕の心に深くしみ込んでいる。

 まるでそれがいつもの事のように自然に僕の中に入ってくる。


 ちなみに、僕は中等部の制服にバッグを持っていた。



「悪い!お兄ちゃん、全っっ然、聞いてなかった。」


「ムゥ......考え事してた?」


「いや、なんていうか……ここじゃない所にいたような気がする。」


「え?お兄ちゃん、もしかして厨二病?ついに発症しちゃった?……大好きだけどキモい、かも?」


「してねぇわ!相変わらず好意と罵声が絶妙だな!」



 すると、後ろから近づいてきた小さな集団が声をかけてくる。

 声のトーンから推測するに、エリーのクラスメイト達だろうか。



「あー!エリー、またお兄ちゃんに迎えに来てもらってる!放課後残ってまで一緒に帰りたいなんて、このブラコンめー!」


「私のせいじゃない。お兄ちゃんがカッコイイのが悪い!」


「うわ……ガチのブラコンじゃん。お兄さんの方は?」


「僕?頼まれれば迎えに行くけど.......何もなきゃ普通に一人で帰るかな?」


「お兄さん、めっちゃまともやん!」



 すると今度は、別の集団の女の子たちが興奮した声で話しかけてくる。



「エリリのお兄さんって彼氏とかいるんですか?」


「彼氏!?」


「あ、間違えました、彼女とかいるんですか?ずっとカッコイイなとか思ってて……」


「いや……特にいないけど……」



 ああ、そうだ……この惑星の恋愛文化は独特だ。

 初等部で付き合っている男女が全体の6割で、恋愛についての特別講義もある。


 親になる平均年齢は僅か17歳……

 高等部に通いながら託児所に子どもを預け、学問を学ぶのがごく一般的な常識となっている。



「いないんですか!うそぉ!!」


「あー、まあ……」


「私、立候補してもいいですか!」


「ちょっと、抜け駆け禁止!私も!!」



 女の子たちはキャッキャと盛り上がっている。実は、これは僕がモテているわけではない。

 確かに僕の容姿は整っているが、本当の理由は将来の結婚相手の確保である。


 いわばこの惑星は年齢を重ねれば重ねるほど、マトモで誠実な男は取られていく。

 僕の年齢で僕と同じスペックの男ともなれば、既にほとんどが恋人持ちなのだ。

 そしてエリーへの日頃の接し方から、ある程度人間性も分かる相手……女子からしたら超安全物件なのだ。



「ダメ!お兄ちゃんは、私が認めた相手じゃないと結婚しちゃダメ!」


「エリリ、お兄ちゃん独り占めしたいだけじゃん!」


「そうだよ!だからエリリン、未だに恋人いない歴=年齢なんだよ!」



 やめろ......その発言は僕に効く......

 あれ?でも僕には大切な人が......全てを投げ出してもいいと思える誰かが......



「うるさい!私は最悪お兄ちゃんと結婚するからいいもん!」


「いや、最悪って言うなよ!?」


「お兄ちゃん行こ!こんな恋愛脳のお花畑女たちといたら、お兄ちゃんが汚れちゃう!」


「いや、エリーにだけは言われたくないだろ……」



 そうしてエリーは僕の手を引き、そそくさと帰路に着く。

 しかし、後ろから女子たちの熱い声援が聞こえてくる。



「連絡先待ってまーす!」


「第2夫人でもOKでーす!」


「ムゥ……お兄ちゃん聞いちゃダメ。」


「はいはい……」



 いやはや、何とも恐ろしい。初等部のガキどもが一丁前に結婚相手を探すなんて……



「お兄ちゃん……私拗ねた。シャボン玉の歌、歌って?」


「……シャボン玉?何だそれ。」


「え?シャボン玉の歌。いつも歌ってくれるでしょ?」



 僕が......いつもエリーの歌っていた?一体どういうことだ......

 そもそも何だ?僕はここではないどこかに居たのか?それともただのデジャヴ......



「……た、たまにはエリーが歌ってくれよ。」


「ムゥ……良いけど私、歌上手くないから。」


「別に気にしないよ。」



 分からない……覚えていない……

 状況から推測するに、僕の記憶が作り出している過去の光景のはずなのに......


 それとも、こっちが現実か?



「シャボン玉飛んだ~♪屋根まで飛んだ~♪屋根まで飛んで壊れて消えた~♪」


「……!?……グハッ!」


「お兄ちゃん!ど、どうしたの!?」


「わ……分からない……」



 途端に、今まで体験したことがないほどの頭痛が襲い、視界が歪む。

 そして口から滲み出るように吐血し、その血はどす黒い色をしている。


 ――だけど思い出した.......ルシア、君の事を!!

 そうだ僕たちは戦った......そして反動で意識が途切れた。



「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」


「エリー......」



 ……エリーはこんな快活に話さない。

 何より、血の繋がりがないはずの兄弟で、下校を迎えに来ることなんて……

 そもそも、本当に血の繋がりがないのか?いや、それ以前にエリーと出会った日が思い出せない。



『思い出せ......お前の絶望を......』



 その言葉と共に、僕の平穏な記憶は暗転していった。








☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 暖かい妹との記憶......それは死後の走馬灯か?

 それとも新たなる命の再生なのか?

 二人の意識はどこに沈んでしまったのだろうか?

 

 次回......「始まりのシャボン玉」 絶望的なルークのオリジンが明かされる。

 

 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

 【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!


 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!



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