第51話 巨光と巨悪

51話ー① 閃光の覚醒





 思考が光速で加速する。ザラームとの激しい削り合いが続くが、辛うじて僕が優勢を保っている。

 周囲の状況が鮮明に見え、全ての動きが手に取るように分かる。


 以前にも似た感覚を味わったことがある。そう――これは「ゾーン」に入った状態だ。


 音が、まるで脳を経由せず直接情報として体の中に流れ込んでくるようだ。

 もはや、思考と反射の区別さえつかない。ただ、身体が動くままに戦い続ける。

 何もかもが心地いい……楽しいとさえ感じる。



「あぁ……」


「何故笑っている!!!」


「楽しいからだよ。今この瞬間が。」


「ふざけるなぁぁ!!!」



 分かる。打ち合うほどに、ザラームの本質が手に取るように見えてくる。

 次の攻撃の軌道も、狙いも、全てが鮮明だ。スイッチが完全にオンになった。

 この瞬間、僕は今までの自分とは違う存在になったのだと確信する。



 今なら、押し切れる……!そう、勝利を確信した。







 ――戦いが激化する中。



「ルーク……」



 呼びかけても彼はいつものように答えない。

 何かがおかしい。あの動きは普通に考えれば、明らかにルークの限界を超えている。


 恐ろしいことに、失速する気配さえなく、むしろどんどん加速しているのだ。

 そして私もまた、限界を超えた強化術をルークに重ねがけし、ザラームに傷を負わせるほどの閃撃を放ち続けている。



「こんなに無理をしたら、私たち……」



 思わず言葉を飲み込む。無理をやめれば死ぬ。

 今のまま無理を続けても反動で死ぬかもしれないが……そちらのほうが生存率は僅かに高いだろう。


 私はこの日初めて、本当の意味で覚悟を決めた。



「死ぬ気で戦う。ルークを殺すつもりでバックアップする!」



 視界が狭まっていくのを感じる。根源共鳴の力も、おそらくとうに使い果たしているからだ。

 しかしいくら私が限界を超えても、結局ルークがいなければこの戦いは成り立たない。

 私がしっかりしなければ彼はすぐに死んでしまう……私は限界を越えて彼に強化と回復を施さないといけない。


 ルークは今ほとんど互角にザラームと戦えている。でも……



「互角なら勝てる! ルークには私がいるから!」


「頼りに、してるよ。」



 私自身もさらに限界を超えてみせる!彼に追いつきたいなどという甘い考えは捨てる。

 今この瞬間に、彼に追いついて見せる――



「何だ……貴様ら! 一体なんなんだ!」


「天才だよ。」



 ルークのその一言とともに、ザラームの剣が弾き飛ばされ、完全に重心を崩したザラームの心臓部ががら空きになる。

 だが相手は害厄王。元々の地力に差がありすぎるので、そう簡単にはいかない。



「闇の! 蘭爆!」


「!?」



 ルークが切りかかろうとした場所に闇の魔力が収束していく。

 いくら自身の魔力とはいえ、ザラーム自身もタダでは済まないだろう。

 遂に彼はプライドを捨て、骨を断たせて肉を断つ戦法を取るしかなくなったのだ。



「不本意だが、もはや貴様らを殺せればどうでもいい! 塵となれ!」



 とてつもない密度の魔力が収束する。

 爆発すればルークと私はもちろん、周囲の天体や恒星さえも吹き飛ぶだろう。



「死ねぇ!!!」


「いや、ザラーム。君の負けだ。」



 ザラームの意識がルークに向いている間に、私は彼の後ろに転移していた。

 限界を超えた性能の隠蔽神術を作ったことで、私は完全に限界を超えている。既に視界は狭窄しているが、それでもいい。



「ルシア!殺れ!!」


「こんのぉ! 雑魚共がぁぁ!」



 心の中で頷く......


 声にする余力も......


 意思を伝える力さえも全て!身体強化に注ぎ込む!


 通常、近接戦闘ではルークの方が優れている。

 だけどそれじゃ足りない。満足できない。



 彼に並ぶんじゃない......今この瞬間!ルークを超える!!!




「何!? 何だその力は!」



 その一撃は......攻撃を指示したルーク、攻撃を放ったルシア、そのどちらの想定も上回る成長を見せた。

 おおよそ本人さえ把握できぬ程の成長と進化は……確実にザラームの命に届いた。


 広大な大宇宙に一筋の閃光が走る。

 その一撃は......絶剣の性能に頼らずとも、万全のザラームに届きうるほどの攻撃。


 今のザラームには、それに抗う力も策も残っていなかった。



「俺は……まだ何も……マリア……」



 誰にも聞こえぬ彼の嘆きは、閃光の余韻に飲まれて消えていった。



「ルシア……君は……」


「見直し、た? あな、たの想定内になんて……収まってあげないから。」



 私はまだ意識がある。戦闘を続けられるほどの体力も残っている。

 もちろん、身体はズタズタだが、意識を失っていない。狭窄していた視界も、万全とはいえないまでもはっきりとしている。


 あの瞬間、私は限界を超えたんじゃない。私は自分の限界を、成長によってさらに引き上げたのだ。

 つい十数秒前の限界は、今の私にとってはもう......限界ではないんだ。


 ――しかしルークの表情は再びこわばった。



「ルー、ク?」


「……まだ仕留め切れてない。そのまま戦闘態勢を維持して。」


「う、うそ……」


「君のせいじゃない。ザラームが想定と異なる動きをしたんだ。」



 相手は瀕死だ。しかし、ルークは動かない。

 さっきまでとは何かが違う……その感覚が、戦場に緊張を走らせている。



「一体あの瞬間に何が......」


「誰だ......誰なんだ......」


「え?」



 そうして私たちは再び臨戦態勢を取った。







 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 ザラームとの戦闘で遂に覚醒したルシア......

 しかし、それでもまだ届かず......ルークさえも出し抜いたその相手とは?


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 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!




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