51話ー➁ 知略と知謀
おかしい……あの時のルシアの攻撃は、ザラームの命を奪うには十分な威力だった。
いや、それどころか、オーバーキルすら狙える破壊力だ。
四肢はほぼ失われ、残された魔力の大半も再生に使っている。
これまでの戦いで見せた彼の行動パターンや性格からして、こういう状況では回避に徹するはずだった。
防御を選んで再生を一瞬止めるような動きは、彼の行動原理から大きく外れている。
「ルーク、今なら仕留められるわ。早く!」
「動くな!!」
「!?」
「下手に動けば殺られる。」
ザラームじゃない。ザラームに干渉して指示を下した第3者がいる……。
誰だ……誰なんだ?考えろ。この状況で指示を下せる候補はそれほど多くはないはずだ。
概念存在か?いや、これまでの情報からして、あれらは恐らく意思疎通が取れる存在ではない……。
では仲間か?いや……あの攻撃に間に合う速度で言語を圧縮し、即座に指示を与えるには……
ザラームと同程度の実力者である害厄王では不可能だ……
そもそも、それができる相手から何かメッセージが届いたとして、刹那の間にそれを飲み込み、即座に従えるだろうか?
そう考えると元々ザラームと面識があり、刹那の指示にも従うことができる相手……と考えるのが妥当だ。
もちろん、他にも可能性は12通りほど考えられる。
だが、この状況で導き出される最も高い可能性は――
「ヴァラル......」
「え?」
「多分、今の彼はヴァラルからの直接指示が来ている。」
保険をかける余裕のある相手ではない。
だからこそ、結界術で居場所を隠すことはせず、元いた地点から距離を取ることに専念した。
結界に魔力を割くよりも、移動によって対応するほうが現実的だったからだ。
だが、なぜ今このタイミングで奴が動きを変えた?
元の地点から離れすぎたことで発見までに時間を要したか、それとも――
思考の優先順位を即座に組み替えた。今考えるべきはこの先どう動くか。
ヴァラルに読み勝ち、この場を生き延びる。それが今の最優先だ。
「ルシア。グラディスで召喚魔法を創造する準備を。数は66。一体一体の基本骨子は今共有した通り。」
「わ、分かったわ。」
この魔法を今すぐに発動する予定はない。あくまで相手の出方を見るための布石だ。
もっとも、状況次第では即座に発動する用意はある。
ヴァラルがどれだけ指示を送ろうと、瀕死で重傷を負っているザラームにこの召喚魔法を捌ききる余力はない。
「……仰せのままに。」
しかしザラーム僕らから距離を取った。
「ルーク。発動していい?距離が出ればこちらが……ルーク?」
「な……なんだと。」
ルシアの言う通り、これは悪手だ……しかし、あの攻撃を読める相手が、果たしてこんな悪手をあえて取るだろうか?
だとすれば、何か仕掛けがあるのか?いや、ザラームにそこまでの余力はもう残されていないはず……
ザラームに干渉している相手が、もしヴァラルでなければ?いや、元々これはザラーム一人の作戦?
それともここ自体が幻?そもそも……これが僕の走馬灯である可能性もあるというのか?
……だめだ、思考がまとまらない!
「ルーク!!しっかりして!!回復しようとしてる!!」
「ぐっ……召喚魔法・リトルルーク起動!!」
僕を動揺させるために距離を取った可能性が高い!しかし、罠である可能性も捨てきれない……
ここは慎重に、安全策を講じつつ、召喚した人型魔道人形に遠距離からの攻撃を徹底させる!
「闇の...歪力......」
「なに!?ここで仕掛けてくるのか!?ルシア防……」
……違う。何かがおかしい。今の彼にそんな余力があるはずがない。
だとすれば、何だ?一体どんな指示を受けている?結論を出す前に、その答えは向こうから現れた。
リトルルークの放った遠距離攻撃が不自然に湾曲し、こちらへ向かってくるのが目に入った。
「ルーク!リトルルークの遠距離魔法が来てる!防いでいいの!?」
「可能な限り余裕を見せて防いで。」
「陽動なら……慌てた方がいいんじゃ……」
「大丈夫、想定通り......むしろ勝ち筋が見えた。」
ザラームであれば、先ほどのような行動は取らない。
相手がこちらと同等以上の思考力を持つと想定し、作戦を練り直しておいて正解だった。
今のザラームには、こちらの攻撃に弱点があれば、ヴァラルであってもそこを突く以外に選択肢はない。
ザラームの体力が限界を迎えている今、行動は必然的に限定される。
頭がキレるがゆえに、確実に狙ってくる。それがヴァラル……いや、お前達にとって致命的な誤算となる。
ヴァラルの知略がいかに優れていようと、今のザラームでは、こちらの作戦に対応しきれない状況が生まれるのだ。
その知略の鋭さを敗因にしてやるよ......
「ルシア。遠距離攻撃を中止。リトルリークをこの陣形でザラームに突撃させて。」
「ルーク……何をするつもり?この陣形なら突破される事は……」
「そうだね……」
「……分かったわ。」
今のでルシアも察してくれたようだ。これまでとは違う状況に直面していることを。
ルシアはリトルルークを立体的にザラームの周囲に展開した。
遠距離攻撃用や幻術、デバフ特化のものを後方に配置し、それぞれ2体以上の近接戦闘特化型を護衛として配備する。
ザラームに一定の距離を保ちつつ、間接攻撃を繰り返し、決して直接接近はしない。
仮に接近された場合は、近接型が防御を固め、デバフや幻術型が能力を弱体化させる。
そしてその後、最もリソースを割いた、遠距離攻撃型が後方から一斉射撃を行う。
計180体による精密かつ完全な布陣である。
「ルーク……あっさり陣形が完成してしまったわ……何かおかしいんじゃ……」
「……攻撃開始。」
一抹の不安は残ったが、僕はリトルルークは一斉に砲撃を開始した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ついに始まる黒幕ヴァラルとルークの知略戦!
勝つのは圧倒的な優位に立つルークか!?それとも究極の純悪か!?
ヴァラルとルークの間接的な戦いが幕を開ける。
もし面白い、続きが気になる!と思った方は
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