第7話 消息不明の危険領域
7話ー① ドロドロの脳筋共
旅行から帰ってきて数日が経った。
再び冒険者ギルドの扉をくぐると、活気と共に新たな挑戦の息吹が感じられる。
僕は冒険者としての顔以外にも、天界立ゼニスワールドアカデミーの講師の仕事をしている。
そこは、天界最高峰の教育機関であり、未来の担い手を育成する場所だ。
また、時折古くから続く孤児院の臨時教育講師としての仕事もしている。
広いギルドのホールには、冒険者たちの活気ある声と武器の音が響き渡り、その中で僕は一つの目的を持って歩を進めた。
市民の心を掴むには、ただ強いだけでは足りない。
彼らに語り継がれるようなストーリーが必要だ。
そのために、僕は冒険者としての活動を精力的に続けている。
実のところ、僕とルシアは冒険者の方が副業なのだ。
冒険者としての活動は、僕にとって全神王になるための重要なポイント稼ぎと、市民からの人気を得るための手段だ。
全神王の座を目指すには、魅力的なストーリーと圧倒的な実績が絶対必須条件だ。
「よぉ。待たせたな!!」
僕に声をかけてきたのは、筋骨隆々で橙色の髪をした男。
彼はエルガブリ、僕の親友だ。
気前が良く、情熱的なエネルギーに溢れている。
悪いことではないのだが……正直、暑苦しいと感じることも多い。てかダルい。
エルガブリの姿は鍛え抜かれた戦士そのもので、筋肉の一つ一つがしっかりと浮き上がって見える。体つきからして、いかにも脳筋だ。
しかし、彼には僕にない野性的な部分がある。
だから、一緒にいると新鮮で刺激的だ。そんなこんなで、長らく親友をやっている。
「いやぁ、久しぶりだね。最近は何かと忙しくて、ギルドに顔を出す余裕もなかったからね。」
僕がそう挨拶すると、ルシアも横から顔を出して軽く挨拶をした。
「久しぶりね。」
「おう。お前とはほんとに久々だぜ!最近お前ら別々で依頼受けてたもんな。喧嘩か?」
「ちが!?ただお互いの予定が噛み合わなかっただけで!不仲にはなってなんかないわ!」
不仲だと思われるのそんなに嫌なのか?
何故か慌てているルシアを横目に、僕はエルガブリに問いかけた。
「ガリブも嫁連れてくるんじゃなかったの?」
「そうね......いつも一緒に活動してるじゃない?」
エルガブリには、僕らと同じく片割れの妻がいる。
彼女の性格はエルガブリと瓜二つで大雑把で熱血、そして脳筋。
二人揃うと暑苦しさが倍増するのだ。
いつも二人で巨大な剣と斧を振り回し、まるで暴風のように戦場を駆け抜けている。
「あぁ?アイツなら昨日依頼に出てってよ。デケェ魔獣を叩き切って合流するらしいぜ!そろそろ来んじゃね?」
いやいやいや……前々から約束していたクエストの前日に、急に別の依頼を受けるなんて?そんな無茶をする奴がどこにいる?
「おいおい。んな事よりよ!お前の妹も来る予定だろ?そっちこそ居ねぇじゃねぇか。」
そう突っ込まれたので、僕はこれ以上ないほどのドヤ顔で返してやった。
「フッ。この時間になって来ないならエリーは寝坊だ。今日のクエストの参加は諦めろ。」
「おめぇの妹のがひでぇわ!」
そうこう雑談をしていたら、ギルドの入口が次第に騒がしくなってきた。
職員たちも何人か駆けつけ、ざわめきが広がる。
僕らも何事かと様子を見に行くと、見知った人影が目に入った。
「ちーっす。遅くなってごめんちょ。大蛇の生首が収納魔法パンパンで入らなくってよ~。」
いや汚ねぇ……これ以上近づきたくない。
返り血でドロドロになりながら、身の丈より大きな蛇の頭部を背負って運んできた女こそが......
親友の嫁であり片割れ、ベレスである。
エルガブリと同じ橙色の髪と瞳をしているのですぐに分かる。
「うぉぉぉベレスやったじゃねぇか。ボーナスが入るな!!帰れたらパーッと食おうぜ!!」
「いいじゃんいいじゃん!!肉が食いてぇ!よあたしは!!」
「よっしゃぁぁ!今夜は散財だな!!」
「おうよ!会計はあたしに任しとけ!!」
時折、脳筋の単純さが羨ましいと思うこともあるが、僕はこうはなりたくないと改めて感じた。
ギルドの職員たちが清掃魔法を発動させ、生首を慎重に収納し運んでいる。
そんな中彼らは軽く礼をするだけで、その後は何事もなかったかのようにゲラゲラと笑い合い、楽しげに談笑している。
礼節はどこえやら……
「1度家に帰るくらいの時間は待ってるのに……」
「考えるな。別種の珍獣だと思うように。」
何故エルガブリは、返り血でドロドロの女性と抱き合えるのだろうか?
僕には到底理解できなかった。
「主人公の親友 ガリブ・エルナードのイメージイラスト」
https://kakuyomu.jp/users/nagisakgp/news/16818093078207311597
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます