8話ー➄ 呪毒による重症
「ルーク!」
「くそ!そういうことかよ!ルーク!!!!」
「ルークっちの心配してる場合じゃないっしょ!全部の川に呪術が打ち込まるかもだぜ?あたしたちもやべぇよ!!」
僕は全身毒の飛沫に飲まれてしまった。
しかし、たったそれだけだ。
「ふぅ。焦ったな~。毒飛沫は全て武器で弾くしかないね!全員で防ぎながらあの枯れ木を破壊しよう!」
「良かった……生きてた。」
「当たり前だよルシア。」
「心配したんだから......」
僕が死んだら、数時間も経たないうちにルシアも命を落としてしまう。
これが片割れの厄介なところだ。互いに命を背負って生きている。
「ベレス!今回は君の神斧ミタスティスの能力が救世主だ!その固有能力で毒飛沫を全て前方に集中させられる!方向さえ分かれば......この四人なら対処できる!」
「なるほど!ルークっち、頭いい!」
偶然ではあるが、神斧ミタスティスの能力はまさに救世主だ。
これが無くても何とかはなっただろうが、無傷では済まなかったに違いない。
神斧ミタスティスによる結界は正式には武技と呼ばれ、魔力由来の結界ではない。そのため、今回の赤い毒で結界が侵食される心配はない。
「行こう!枯れ木に向かって突撃だ!」
どうやら僕らが枯れ木に向かい始めたことに焦りを感じたらしい。
全ての川に凶悪な速度で弾丸のような隕石が打ち込まれ、結界内は赤と紫のスプラッシュパラダイスとなっている。
しかし、僕らの周囲の毒飛沫は神斧ミタスティスの能力によって全て前方に、集められている。
僕たちは押し寄せる毒飛沫を弾き飛ばしながら枯れ木に向かって進む。
幸い、枯れ木までの距離はそれほど遠くはない。
「ルークっち!もうすぐ枯れ木に到着すんよ!前衛職のあたしらが叩き切るぜ!」
「分かった!頼む!」
そして僕達はたったの数秒で枯れ木に攻撃が届く範囲まで、距離を縮めた。
この呪法は確かに強力だが、最上位神には通用しないだろう。
そんな無関係なことをふと考えていると、再び呪術師の声が耳に届いた。
「バカな!あれだけ飛び散る飛沫を全て武器だけで弾き飛ばすだと!?」
「おっさん!あたしらは上位神だ。舐めんな!」
「終わりだ!俺らを侮んなバカが!」
ピカッ。しかし突然、枯れ木は不気味な輝きを放ち始めた。
「残念じゃな。」
「!?まさか!!」
「ガリブ!逃げ......」
二人が枯れ木を切り裂いた瞬間、それは自爆のような大爆発を起こした。
もちろん、木の中に含まれていた毒や周囲の川を流れる猛毒も一気に吹き荒れた。
「ベレス!!!」
ルシアが叫んだ直後、僕たちも爆発の衝撃に巻き込まれた。
数秒後、爆風が収まると、僕の腕はズタズタに傷ついていた。
ちなみにルシアは完全に爆風を防ぎ切り、一人だけ無傷で立っている。
「ベレス!エルガブリ!しっかりして!」
ルシアはすぐに二人を治癒魔法の膜で包み、呪術師から距離を取った。
爆風を僕らよりも近い距離で直撃し、僕らを守るために盾となった二人の体は、紫の液体に侵食され、皮膚が溶けてしまっていた。
その姿はまるで悪夢のようで、体全体が腐食したかのように見えた。
恐ろしい光景が目の前に広がり、ルシアは呪術師への怒りを露わにしている。
「これはルシアがいなかったら即死だったな。ごめん僕の判断ミスだ。」
咄嗟にルシアがかけた防御魔法と耐毒魔法により、ギリギリで即死を免れ、命を取り留めたのだ。
彼女にはいつも感謝しかない。そして僕は通信魔法でルシアに語り掛けた。
「結界自体は解除されている。また森に張られていた外側の結界も崩壊しているな。」
要するに、あの枯れ木はこの呪術師の結界術全ての根幹だったのだ。
呪法は一度使うと数十秒間発動できなくなる。
つまり、この森全体に貼られている結界にも、彼の呪法が関与している。
「バ……バカな!い、生きているだと!」
確かに生き残ってはいる。
しかし、パーティーメンバーのうち二人は瀕死の重症で、今すぐ専門機関での治療が必要だ。
二人を守りながら戦えば、勝っても手遅れになってしまう。
状況は限りなく最悪に近い。
「ルシア、結界は一時的に崩壊している。今なら転移魔法で逃げられる。二人を医療機関に連れて行ってくれ。」
「それじゃ......ルークは?」
今処置をすれば間に合う。僕とルシアで戦えばより安全に戦えるのだろうが......
この二人は間に合わなくなってしまう。
つまり、僕が一人残るのが最適解であり、ベストな選択肢なのだ。
「僕は残る。こいつを倒してから合流するよ。」
「分かった。できるだけ早く戻ってきてね。」
「大丈夫だよ。心配しないで。すぐに合流するから。」
そうだ。だからこそ僕は勝算があってここに残る。
「早く行って。もう二人は持たない。そろそろ森の結界の方が修復し始めるよ。」
「分かった。待ってるね。」
その言葉を最後に、ルシアは転移魔法で二人を結界の外の医療機関に連れて行った。
「馬鹿な奴め。勝ち目があると思っているのか?結界が回復しているということは、染毒燃庭の呪法も再度使えるということだぞ?」
「そうだろうね。」
「お前を殺した後、必ずいつかお前の嫁も殺す。お前の死は無駄だったということになる。」
中々にゲスな奴だ。僕も冷徹な方ではあるが、ここまで悪どいと逆に感心さえ覚える。
だが......こいつは一つ大きな勘違いをしている。
「何勝った気でいるんだよ? 雑魚が。」
「なぁに?気でも狂ったか?小僧!」
僕はそう言って、正面に剣を構えた。第二ラウンドの始まりだ。
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