10話ー➁ 神術教本完全版 ゲェットォ!!!
ソロモンは穏やかな表情を崩さず、口を開いた。
「まず君があそこで使った神術は~原初神の雷槍かな?」
「どういう事でしょうか?何か不可解な点でもあったのでしょうか?」
僕は眉ひとつ動かさず、無表情でとぼけて見せた。
あたかも魔道具を使った後に、他の誰かが人為的工作を仕掛けたかのように振る舞う。
「あの......夫の報告書に何かミスでもあったのでしょうか……」
ルシアは即座に察して、僕の芝居に自然と合わせてくれた。流石、片割れの嫁だ。
「そっか~。残念だな~?僕はあの秘匿神術道本の完全版と続版を持ってたのになぁ。君に写本を渡そうと思ったんだけど、残念残念。」
「あ。あれ使ったの僕です。なので写本ください!!」
「ちょっと……あなたね……」
うん、無理だった!
知識欲が全く抑えきかい。制御が聞かない暴走機関車のようだ。
あの本は内容の五分の四が消失しているが、残りの五分の三を復元するのに500万年もかかっていた。
その完全版、さらには僕の知らない続編まで手に入るとなれば、このチャンスを逃すわけにはいかない。
目の前のソロモンに対して、僕の瞳は輝きを増し、心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
長年追い求めた知識の結晶が目の前にあるという事実に、僕の興奮は抑えられなかった。
「うん。でも条件がある。まず二人とも僕の弟子になること。二つ目は上位神序列。ルーク君は2位、ルシアさんは7位まで上げさせてもらう。」
いや、前者の条件は最高すぎる。十神柱の教えを受けられるなんて夢のようだ。
聞きたいことが山ほどある。
後者の条件は当初の計画よりも多少目立つが、前の条件が良すぎて気にならない。
「わ、私もですか?」
「君もだよ。君も神術が使えるでしょ?魔力の練り方を見ればわかる。ルーク君の方は隠蔽が上手いから見ただけでは分からないけどね。」
「条件については問題ございません。神術教本、誠にありがとうございます。」
隣でルシアが呆れた顔をしているが、今は無視しよう。
「それでは報告に入ろうか。まず今回の呪術師で何か感じたことはあるかい?」
「感じたことと言えば......明らかに最上位神案件でした。上位神複数人でも対応を間違えれば全滅させられることでしょう。」
上位神であっても、僕やルシアのように突出した個の力がなければ到底対応できなかっただろう。
あの呪術師との戦闘は、上位神としてのレベルを遥かに超えていた。
そしてその後僕らは呪術師の呪法や、その現地の生態系の調査結果などを報告した。
「なるほど。それ程の呪術師がいたのか~。しかも結界術の強力な使い手ね。」
「私としては陽動かと......彼からは使い捨てのような印象を受けました。」
陽動の可能性は十分に考えられる。実際、今の神界の関心は、キノコに寄生する狂化ウイルスの方に向けられているのだから。
大きな出来事を起こせば、それだけ神界の意識を別の方向に向けさせやすくなる。
「なるほど。この少ない情報で陽動と判断したねー。それはどうしてかな?」
「はい。私たちと相対した時に結界中心部の小屋を守ろうとはしていませんでした。おおよそ何か自身の目的があるようには見えなかったんです......」
「……」
確かに違和感はあったが、敵の前で目的を馬鹿正直に晒すのは愚かな者のすることだ。
とはいえ、この呪術師の行動はそれを超えて、異常さを際立たせていたのもまた事実ではある。
「ただね、狂化の件との関連性を示唆するものはないね。はぁ~......」
少し考え込んでいる様子を見せその後、魔道神ソロモンは続けた。
「だけど、それがまた怪しい。これは十神柱が直接動く必要がありそうだね。」
「そ、それほどなのですか!?」
ルシアはまだ状況を完全には把握していないようだが、今回の件は明らかに十神柱が関与すべき案件だ。
あの呪術師がもし下っ端に過ぎないのなら……この事態はさらに深刻だ。
「全神王のゼレスちゃんにも動いてもらうしかないね……頼みにくいなぁ。」
「僕らに何かできることはありますか?」
十神柱に会える機会など滅多にない。
この場で何か好印象を与えることができれば、僕の目指す次代の全神王に一歩でも近づけるかもしれない。
「うーん……あるにはあるね。危険かもだけどさ?一連の件と関連がある可能性の高い任務を消化してくれないかい?」
危険……これは僕一人の問題ではない。
この言い方からして、ルシアと二人での任務を指しているのだろう。
僕が少しの間悩んでいると、ルシアは僕の手を優しく握り、にこやかに微笑んだ。
「私なら大丈夫よ。あなたの好きなようにして。」
ルシアはこの任務の危険性も、僕が抱える夢への焦燥も、そして僕が彼女のことを案じていることも......
すべて理解した上で覚悟を決めてくれたのだ。
彼女は消えてしまうかもしれない恐怖すらも受け入れ、それでも僕と命を共にすると決意した。
その瞳には揺るぎない信念と愛が宿っていた。ならば、僕の選択肢はただ一つ。
「……。魔道神ソロモン様。このお話引き受けさせていただきます。」
「分かった。じゃあ、今後僕の方から、依頼推薦って形でそれらきし任務を送るから。今日はもう終わりにしよう。」
僕らは深々と礼をして、部屋を退室した。
手にはしっかりと神術教本を握りしめている。
ギルドの亜空間の廊下を歩く中、薄暗い光が足元をぼんやりと照らし出す。
静寂に包まれた廊下に、僕たちの足音だけが静かに響いた。
この一冊の教本が、新たな知識と力への扉を開くのだ。
胸の奥で期待と緊張が入り混じった感情が高まっていく。
切り札以外で強力な術を習得することは、それだけ戦略の幅を広げる。
それだけ強くなれるということだ。
そして、この日が……
これからの運命の......最初の分岐点になった。
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