第54話 圧倒的な知略

54話ー① 瀬戸際の本音





「ルーク!!!!!」



 切り裂かれたルークを見て、私は無意識に叫んでいた。

 血飛沫が宙を舞い、時間が一瞬だけ凍りついたように感じた。

 目の前で崩れ落ちる彼の姿に、心臓が締めつけられる。



「ガバッ……」



 彼の息が荒い。私はその音を聞くだけで胸が痛んだ。

 何とか動こうとする彼の体が、重く響く血の匂いと共に地に崩れていくのがわかる。



「ダメ……そんなの……」



 彼の傷は深い。肉が裂け、骨まで達しているのではないかと思えるほどの傷口。

 血が止まらない。私は思わず自分の手を彼に伸ばすが、届かない――それでも彼を救いたいという思いが先行する。


 私の能力で何とか回復は間に合っている……けど、もし追撃されれば命は助からない。

 焦りが心臓を締め付けるように高まっていく。


 私は敵の事など忘れて、彼の元に駆け寄る。

 しかし……当然それを倉本という男が見逃すはずもなかった。



「お前から死ね。」


「!?」



 死……避けようのない圧倒的な終わりがそこにはあった。

 空気が歪み、彼の刀が私に向かって迫ってくるのを感じる。


 斬撃の軌道が目で追える限界を超えているが、なぜかその軌道が見えるのだ。

 ......私の肋骨にそれが突き刺さる未来が、鮮明に脳裏に浮かんだ。


 ――あぁ、こんな終わりが来るのか。


 こんな終わり……嫌......



 また私は……後悔してしまった。

 絶望してしまった......圧倒的な力の前に屈服してしまった……


 あぁ。私は何て弱いのだろう……



「死にたく……ない。」



 それが、私の放った……死に際の言葉だった。覚悟を決めた?まだ戦える?またそんなウソで自分を偽って?

 怖い、死ぬのが怖い.......自分が死ぬのも、ルークを死なせるのも怖くてしかたがない。

 それが心の悪底から盛れ出した……本音だった。



「死なせない!!」


「ルーク……?」



 その瞬間、目の前にいたのは、血だらけのルークだった。



 瀕死の彼が、私を守ってくれている――私はルークを守るどころか、逆に守られてたのだ。

 胸が締めつけられるような感覚と共に、涙が込み上げてきた。


 ――みっともない……何てみっともないの、私は!!



「ルーク。私まだ戦う......頑張る!」


「そう来なくっちゃね。」



 頑張ろう......勝つ気概もないし、冷静な思考もないけど......

 とにかくここで、頑張ろう......死ぬならせめて役に立って死にたい。


 私はとにかく立ち上がった......







 ――――数分後――――




 辺りは静寂に包まれていた。私たちは無惨にも横たわり、宇宙の果てでただ死を待つだけの屍になっていた。

 岩石の片の上で最愛の人の僅かな息だけを感じる。

 とめどなく溢れ出し血は、私たちの周囲に巨大な血だまりを作り出した。



「哀れだな。あと数万年遅ければ結果は違ったろう。」



 その声が響いた瞬間、心の中で冷たい何かが走る。

 数万年前からもっと鍛錬していれば......そんな後悔が押し寄せる。


 するとルークが呟く......



「そんな……まさか……」



 このままではもう助からない――それは分かっていた。私たちが限界に近づいていることも。

 そして、ルークがもう限界を超えてしまっていることも.......根源共鳴が切れた瞬間、多分私たちは死ぬ。



「……ルー、ク……」



 ルーク……泣いているの?感覚から、涙を流しているのが分かった。

 やっぱり辛かったの?私の為に必要以上に強くあろうとしてくれただけなの?


 ――彼だって本当は限界だったのかもしれない。

 私のせいで、弱音を吐けなくさせちゃってたのかなぁ......胸が、張り裂けそう。



「フッ。それが本質だ。瀬戸際に自身の本質が出るものだ。お前は強くなどない。ただ偽っておっただけよ……」


「僕、に......」


「ル、ルー......ク?」



 いや違う。伝わってくる感情は……絶望でも、悲しみでもない。



「僕に、この策を、使わせる...とはな。」


「何!?」



 驚いた声をあげたのは倉本だった。

 ルーク、あなたはこれでもまだ……!



「え? ルー……大き、な作戦、ないって……」



 伝わってきたルークの感情は......

 使いたくなかった策を使ってしまった悔しさと――だった。








 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 ここまで読んでくださりありがとうございます!


 ルークが使いたくなかった作戦......それは思い付きの作戦です。

 ちなみに二人とも話していい怪我ではありません!


 次回。正真正銘、最後の作戦が発動?果たして二人の運命は?


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は

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 更新は明日の『『20時過ぎ』』です!




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